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マジック・リヴァイヴ・ホロウネス  作者: 海森 樹
第一部 新たなる戦い
53/222

1-5-1 修行(1)

「数が多いな……」


 空中に浮かんだ俺とミアは丘陵地帯を進軍している敵軍を観察していた。

 青色に百合の花の旗を掲げるその軍は間違いなく、魔族の傀儡にされているアシュロン公爵のものだった。

 斥候からの情報ではおおよそ三万ということだが、上空から見た感じではそれよりやや多い印象を受けた。


「魔族のせいで……」


 ミアは眼下の軍勢を見て、唇を噛み締めている。

 ミアにとっては両親が仕えていた貴族だし、同郷の人間と戦うことになる。


「大丈夫か?」


「ええ……私はこの人達を倒して両親の仇を取らなくちゃいけないのね」


「『支配』が成功すればその必要がなくなるんだがな……」


 あちら側にもハイリーンの戦いで俺が二十万人を『支配』したという情報は入っているだろう。

 それなのに、わざわざ軍を動かして攻めてくるという選択をしてきた。


 はっきり言ってリスクしかない。

『支配』が成功したら、この三万人の軍勢を反転させてアシュロン公爵の居城を攻め落とすことすら可能だからだ。

 俺が魔族だったら、一人でハイリーンを攻めるという選択をしただろう。

 魔族であれば魔法に耐性があるから『支配』を無効にすることができるからだ。


 わざわざ軍を動かしたからには『支配』に対して何らかの対策を行っているのではないか、とエーデルロンドは予測していた。

 魔族が背後にいるのであれば、限定固有魔法を使用して俺の魔法を無効にしてくる可能性は高い。


 あるいは軍はあくまで陽動に過ぎず、俺がアシュロン公爵軍への対処に動いた隙を見計らってハイリーンを攻め落とす可能性もある。

 一応、王都から王国軍をハイリーンまで『飛行』で輸送して、防御を固めさせてある。

 何かあったらすぐにエーデルロンドから『伝意』の魔法で連絡が来るはずだ。


 魔族がどれを選ぶにしろ、俺達は厳しい戦いになる。

 敵が魔族であるのならば我々と敵の勝利条件は同じではない。

 こちらの勝利条件は魔族を倒し、敵味方問わず兵が極力死なないことが必須条件だ。

 それに対して向こうの勝利条件はあまりに緩い。


 多くの人間が死んだらそれでいいし、分が悪くなれば逃げて再び機会を伺うというのもありだ。

 俺はなるべく兵がぶつかり合う直接戦闘を避けたいと考えているが、敵が魔族であれば人間同士の相打ちを狙ってくるだろう。


 向こうが有利すぎて頭を抱えたくなる。

 魔法で敵軍を全員殺せたら簡単だが、それをやったらこちらの負けだ


 とにかく、兵に『支配』をかけて成功すればひとまずは安心できる。

 俺は敵軍の様子を伺いながら、十五分ほど体内の魔力を練り続けていた。

 この程度の数なら世界接続を使うまでもない。


 俺の全身から魔力が湯気のように立ち上っている。

 胸を見ると太陽の魔力紋章がゆっくりと明滅していた。


「もう十分だろう……やるか」



『支配』



 真っ直ぐ前に伸ばした手の先から黒っぽくて半透明の腕が無数に伸びる。

 獲物を探すように地面を撫で回して、対象に魔法をかけていく。

 一瞬で全軍に『支配』の魔法がかけられたのを確認した。


 しかし、判定は全て失敗だった。


「な!?」


 あまりの驚きに声を漏らしてしまう。

 ありえない。

 この数なら全員『支配』できるはずだった。


「失敗、したの……?」


 ミアが不安そうな目で俺を見てくる。


「……失敗だ。『支配』は全て弾かれた。だが、得たものはあった。全て弾かれたという事実が重要だ。ただの一人も成功しなかったということは個人の魔法抵抗力で弾いたわけではない、はずだ。やはり限定固有魔法の影響だろう」


「やっぱり……でも、どんな限定固有魔法なのかしら?」


 俺はその限定固有魔法に心当たりがあった。

 かつて戦った魔王の側近ドスレイの限定固有魔法だ。

 しかし、やつは俺がこの手で葬ったはずだった。


 故に『支配』に抵抗できる限定固有魔法の候補として浮かびながらもその可能性を排除していた。

 似たような限定固有魔法を持っている魔族が偶然現れたというよりもやつが死んだように見せかけて生きていたという方がありえるだろう。

 死んだように見せかけるのは俺も使ったことがある手だからだ。


「おそらくあの兵は全て魔族にされているだろう……」


「魔族に!?」


「ああ……試してみるか」


 俺は『激槍』を敵軍に向かって十発連続で放つ。

 展開されていた防御魔法を最初の三発で打ち破り、再展開させる時間も与えず残りの七発が敵軍の兵に直撃する。


 地面が抉れ土埃が上がって叫び声が聞こえた。

 普通の兵士ならこれでかなりの数が死んだだろう。


 だが、そうはならなかった。

 青い百合の紋章をあしらった甲冑を身につけた兵士達はゆっくりと地面から立ち上がって再び歩き出す。

 進むスピードは攻撃前から変わらず、非常に遅い。


「ふつうの人間ならあれだけの魔法攻撃を食らったら死ぬだろう。あそこまでの耐久力を持つということは魔族にされている以外ありえない」


「そんな……!!あの人達は元に戻れるの!?」


「……わからない」


 エーデルロンドからは特に連絡はない。

 どうやらこちらが陽動で向こうを攻められているということもなさそうだ。

 俺とミアは一旦ハイリーンに撤退することにした。


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