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マジック・リヴァイヴ・ホロウネス  作者: 海森 樹
第一部 新たなる戦い
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1-X-X 弔いの花(4)

嵐は意外にも次の日の午前中で去った。

お昼を過ぎた辺りで日が差し始め、蒸し暑くなっていて、じっとしているだけで汗が滲むほどだ。

幸いにもうちには被害はなく、他の家もせいぜい雨漏りがあった程度で大事には至らなかったようだった。


村の中には怪我をした人もいなかったのでほっと胸を撫で下ろす。

だが、一晩開けても、ゲーデルおばさんの行方は依然として分からなかった。

あの嵐の中、わざわざ出かけるとも思えないし、なにかあったのではないかと皆が考えていた。

村の大人たちが相談して近くを捜索することになった。


嵐の後は危険だ。

水を含んだ崖は崩れやすくなっているし、大雨で増水している川に流される恐れがある。

俺も捜索を手伝うと申し出たが、危ないからやめておけと言われて止められてしまった。


仕方がないので村内に飛ばされてきた葉っぱや枝の片付けや倒れた木を切って動かす仕事をした。

風が強かった分、飛んできたゴミの量も多くて俺はゴミ捨て場まで何往復もした。

出来る限りのことはしたが、やはり倒木を切って運ぶのは大人の手がないと難しく、大人たちが戻ってくるのを待つことにした。


ゲーデルおばさんを探しに行った大人たちが戻ってきたのは夕方になってからだった。

全員が暗い顔をしていた。

六人ほどでボロ布に包まれた大きな細長い物を担いでいるのを見て、俺はみなが暗い顔をしている理由が分かってしまった。


話を聞いたところ、ゲーデルおばさんの遺体は村の外れを流れる川のかなり下流で見つかったらしかった。

そんなところに行く用事もないし、しかも昨日は嵐だった。


ゲーデルおばさんが川に流されたのは事故ではなく、自分の意思で身を投げたのだろうと大人達は話していた。

遺体は濁流の中で川底に打ち付けられ、損傷が激しかったようだ。

ゲーデルおばさんの遺体は布に包まれたまま焼かれた。


ゲーデルおばさんは明るい人だった。

いつも楽しそうにおしゃべりをするのが生きがいで、よくソフィーに料理を教えてくれていた。

だが、ガウルおじさんが亡くなってからのおばさんは意気消沈して家に閉じこもっていたようだ。

誰とも話さず、何もする気になれないと言って一日中ベッドで眠っているような生活だった。


二人の息子を『疫病』で失い、ガウルおじさんも魔族討伐で失った。

生きる意味を見失ったとしても不思議ではない。





「……お花摘みに行こう?」


「ああ……」


俺とソフィーはゲーデルおばさんのお葬式で備える花を摘みに来ていた。

つい先日、ガウルおじさんのお葬式のために花を摘みに来たばかりだった。

あの名前も知らない赤い花が生えているのはゲーデルおばさんが身を投げた川の側だった。


嵐で花が駄目になっているんじゃないか、と思ったが以前と変わらぬ様子で真っ赤な花が咲いていた。

しゃがんでソフィーと一緒に花を摘む。

そのまま手を動かしていると、ソフィーが泣き始めた。


「ねぇ、どうして……? おじさんもおばさんもいい人だったのに……どうして死んじゃうの」


「……」


俺は何も言えなかった。

黙ってソフィーを抱き寄せる。

俺の腕の中でソフィーは泣きじゃくっていた。

ソフィーの両親が亡くなったときも、こうして泣いていたのを思い出した。。


泣きながらどうしてと何度も繰り返している。

どうしてあんなにいい人達が死ななくてはならない?


「魔族さえ……魔族さえいなければ……」


魔族がいなければ俺の両親は死ななくて済んだ。

魔族がいなければソフィーの両親は死ななくて済んだ。

魔族がいなければガウルおじさんとゲーデルおばさんは死ななくて済んだ。


魔族がいなければ。

魔族がいなければ。

魔族がいなければ。


魔族が憎い。


でも、普通の人間は魔族に怯えて暮らすしかない。

勇者様であれば魔族に勝てるのだろうが、俺のようなただの人間にはどうしようもないのだ。

仮に俺が魔族討伐に招集されたら一瞬で殺されて終わりだろう。


人間にとって魔族は洪水や地震、大規模な山火事と同じだ。

人間にはどうしようもない。

でも、俺が勇者だったら……


両親が死んだとき、俺は毎晩勇者になって魔族に復讐をする夢を見た。

剣を振るい、槍で貫き、魔法で魔族を倒す。

だが、夢から覚めたらいつも通りの自分で、何の力もないリクリエト村のレインだ。


ただの農民に何ができる?

剣を握ったことすらなく、戦う訓練なんか受けたことはない。

少し弓が使えるくらいだ。


こんな俺が勇者になれるはずがない。

時間が経つに連れて、勇者になる夢は見なくなった。

そんな夢をいつまでも見ていられるほど俺は子どもじゃなかった。


憎しみはやがて無力感に変わる。

俺には何もできない。

俺にできるのはただこうやって唇を噛んで、世界の理不尽さに耐えることだけだった。


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