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マジック・リヴァイヴ・ホロウネス  作者: 海森 樹
第一部 新たなる戦い
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1-X-X 弔いの花(1)

 いつかの夢を見ていた。






 この前、初めて鹿を狩ったという話をガウルおじさんにしたところ、一緒に狩りに行こうと誘われた。

 本職のガウルおじさんと一緒に狩りをすると勉強になることが多い

 俺としては願ったり叶ったりだった。


 今日の農作業が終わってから、俺はガウルおじさんと合流して山に入っていた。

 いつもと違ってガウルおじさんが一緒なので、普段一人では行かないような森の奥深くまで連れて行ってもらう約束をしていた。


「前も話したが、レインは俺の跡をついで狩人になるつもりはないか?」


「狩人か……今はうちの畑の面倒を見るので手一杯だから……」


「誰でもいいっていうわけじゃないんだ……誰でもいいっていうわけじゃない。狩人には獲物を捉える良い目が必要なんだが、レインは俺が見てきたやつの中でも特に目が良い」


「そうかな……」


 俺は自分の目の良さというものについて考えたことがなかった。

 確かに俺は弓の腕前はそれほど優れているわけではないが、狙った獲物を逃がすことは少ない。

 他の人に比べて狩りの成績がいいのはたまたまだと思っていたが、もしかしたら目の良さのおかげなのかもしれない。


「獲物を見つけるのにも、獲物を捕まえるのにも目の良さが必要だ。狩りを続けていくうちにそういう目は養われていくものだが、やはりある程度は生まれつきの部分がある。逆に目が良くないやつはどんなに練習したところで良い狩人にはなれない」


 そういうセンスのなさに自分で気がついてやめていくやつもいる、とガウルおじさんは語った。


「確かに俺は鳥ぐらいなら狩れるし……そういう意味では目は良いのかもしれない」


「鳥ぐらいならっていうが、お前の歳で鳥を捕まえられるやつなんてそんなにはいないぞ」


 ガウルおじさんの言う通りかもしれない。

 村には俺と同年代のやつはいないが、リクリエト村の大人でも弓矢の扱いがそれほど上手ではない人は鳥を射抜くなんて出来ない。

 逆に猪や鹿のほうが的が大きい分当てやすいと言う人もいるぐらいだ。


「お前も知っての通り、俺の二人の息子は死んじまった……だから誰かが狩人にならないといかん」


「どうして?」


「元々リクリエト村には四人ぐらい狩人がいた。だが、俺以外の奴らは例の病気で死んじまっただろ……それで困ったことになってきている」


「困ったこと?」


「狩人が鹿や猪なんかを狩らないと、やつら山を降りてきて畑を荒らすんだ。デールのところの畑が鹿にやられた話は聞いたろ?」


「うん……つまり、鹿とか猪を狩って数を減らさないと食べるものに困って村の畑を荒らすっていうこと?」


「そうだ……獣は狩り過ぎたらいなくなっちまうが、狩らなさすぎると逆に増えすぎて人に害を為す。そうならないためには狩らないといけないが、俺一人では手が回らなくなっている。せめてもう一人いると違うんだがな……レインが狩ったような若い鹿が最近増えすぎているんだ」


「……」


 放置された畑が増えすぎると、今後徴収される税に関わる。

 そのため、働き手がいなくなった畑を大人たちは手分けして面倒を見ていた。

『疫病』が流行って大勢が亡くなってから、村の大人の目は畑にばかり行っていた。


 デールおじさんの畑は山に近いところにあり、そのせいで鹿にやられたと俺は思っていたが、それならこれまでも鹿による被害はあったはずだ。

 しかし、これまでそんな話は聞いたことがなかった。


「誰かがやらなきゃいかん……畑のほうが大事なのは分かるがな」


「おじさんも狩人じゃなくて畑仕事のほうをやりたかった?」


「そうだな……俺が狩人の見習いを始めたのはお前とそんなに変わらないぐらいの年だったが、なりたくてなったというわけじゃなかった。俺は隣の村の農家の三男だったからな。今と違って畑は余ってないから長男以外は他の仕事を探さなきゃいけなかった。そんなときにリクリエト村の狩人をやってたフィレルっていう爺さんが声をかけてくれたんだ。爺さんはもう随分前に死んじまったがな」


「そうだったんだ……」


 ガウルおじさんのことは小さい頃から知っているが、そんな事情があったなんて知らなかった。


「レインも分かっていると思うが、狩人っていうのは不安定な仕事だ。獲物が捕れたらいいが、いつだって捕れるっていうわけじゃない。野草や薬草、きのこなんかを集めて凌ぐこともできるがそれらは大した稼ぎにはならん。結局どれだけ鹿とか猪を捕れるかだな。あとは熊を仕留められる狩人は儲かるが、熊は体力も多いし、怪我する可能性も高いからなかなか一人では難しい。俺も見習いを始めたばかりの頃は全然獲物が捕れなくてひもじい思いをしたが、経験を積んだ今ではしっかり家族を養えている。レインは俺以上に才能があるから、たぶん畑仕事を続けるよりもソフィーを楽にさせてやれると思うぞ」


「……そうなのかな」


 確かに腕のいい狩人になれば畑仕事を続けるよりも儲かるはずだった。

 安定を目指すのであれば畑仕事を選ぶべきで、自分の可能性を信じるのであれば狩人を選ぶべきだろう。


 畑仕事が安定しているのは間違いないが、それでも一切困らないという保証はない。

 畑仕事をしていても災害が起きたり、とんでもない不作になった場合には困ったことになるだろう。


 今の生活でも十分ソフィーのことを養っていけるが、もっと楽に暮らせるというのは魅力的な話だった。

 それでも、俺にはどっちがいいのかというのは判断がつかなかった。

 ようやく鹿を一人で狩れるようになった程度では、今後どうなるかというのは不安だった。


「まだ……決められないというのが正直なところかな……もう少し腕を磨いて、一人でやっていけるという自信がついたら考えてみる」


「それでいい……それになにも一人で頑張る必要はないんだ。俺に教えられることなら答えるから何でも聞いてくれ」


「ありがとう。ガウルおじさん」


 話に夢中になっていた俺達の後ろで茂みが揺れる音がした。

 驚いた俺達は振り返ると、ガウルおじさんの倍ほどの高さの熊がこちらを見ていた。



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