1-4-14 休息(14)
「ふむ、いいじゃろう……銀貨一枚じゃ」
ミアはポケットから出した銀貨をファムジールという老人に渡していた。
「手を出してごらんなさい……ふむふむ……お嬢さんは魔法使いじゃな?」
「そうですけど、なんでそれを……?」
「わしは占いをして長いからな……人の手をみるといろいろなことがわかるものじゃ……ふむ……怒りっぽく、我慢をするのが苦手なタイプじゃな……その一方で自分が信じた道を突き進む勇気を持っている……大きな悩みがあったようじゃが、それは解決に向かう兆しが見えておるやもしれぬ……ふむ、自分の信じた道を突き進むのがいいじゃろう……ざっと見た感じだとこういう感じじゃな……何か聞きたいことはあるかね?」
「恋愛の方はどうですか!!」
「ふむ……うーむ……しばらくはいい相手とは巡り合えそうにないのう……いい男と出会っても相手がいたりする……まあ男よりも女の方が異性を見る目があるから、いい男ほど相手がいるものじゃがな……ふぉふぉふぉ……」
「なーんだ……」
「なに、気を落とす心配はない……時が経てば必ずいい相手と巡り合えるじゃろう」
「わかった……ありがとう」
ミアはお礼を言って椅子から立ち上がると、リーリアの方を見た。
「リーリアもやる?」
「私もやりたいです!……お願いします」
リーリアがいそいそと小さい椅子に座って手を見せていた。
「ふむふむ……ほう……これは良い手相じゃ……星に守られておるようじゃな……苦労をするようなことはない……不幸な目に合うこともあるが、最終的には幸せになれるじゃろう……二面性……裏表が激しいタイプのようじゃな……内には大きな炎を秘めておる……信頼できる相手には隠すよりも見せた方が良いじゃろう……他にも何か聞きたいことがあるかね?」
「恋愛の方は……?」
リーリアが俺の方をチラリと見てファムジールに聞いた。
なんで俺の方を見たんだ?
……いや見るのは分かるが、俺がいるのにそれを聞くのか。
「ふーむ……巡り合う相手は難しいタイプかもしれぬな……父親のようであり、稚児のようでもある……悪い人間ではないが面倒な男じゃな……だが、真摯に向き合って信頼関係を築けば可能性はあるじゃろう……お嬢さんは奥手のように見えるが自分から積極的に行くのがよいじゃろうな」
「はい……!」
リーリアが嬉しそうな顔をして頷いていた。
寝起きにリーリアにされたことを思い出してしまったので無理やり意識を逸らす。
「俺も占ってもらえるか?」
「ほう……高位の魔法使いのようじゃな……こんな国で会うことになるとは思わなんだ」
「だめか?」
「よいじゃろう。手を出しなさい」
「いや、手相じゃなく、魔法で占ってみてくれ。大魔法使いの魔法を見てみたい」
注意深く観察していたが、ここまでの占いは魔法を使用していなかった。
おそらくファムジールの観察眼や人生経験による占いだろう。
言い当てている部分も多々あったし、占い好きなら金を払うだけの価値はある。
だが、俺が見たいのはそういう占いじゃない。
「なるほど……占ってもいいが、魔法を使った占いは一日一度しかできぬ。故に金貨一枚をもらっておる。そして同じ人には二度とせぬ決まりじゃ。それでもいいなら魔法を用いた占いをしよう」
「金貨一枚か……」
相当高い。
一般的な平民が家族四人で一ヶ月暮らせる額だ。
だが俺は王様だし、勇者だった頃に稼いだ金もかなり余っている。
というか使い所がないので増える一方だ。
こういうときぐらい散財してもいいだろう。
俺は財布から出した金貨をファムジールに渡した。
「ふむ……いいじゃろう……」
意識を集中させるためなのか目を閉じたファムジールの中で魔力が練られているのを感じる。
魔力の量が非常に膨大だから、一日に一回しか発動できないというのは本当のようだった。
三十秒ほど経ってファムジールの中で渦巻く魔力が一瞬で消えたのを感じた。
魔法は発動したようだが、ファムジールはそのまま黙って目を閉じたまま座っていた。
「どうなんだ?」
「…………」
ファムジールは俺の質問に答えず、微動だにしない。
そのまま一分ほど黙りこんでいたが、魔法が終わったのか大きく息を吐いた。
「聞こえた……」
ファムジールは遠くを見るようなぼんやりとした目をしていた。
「二つの予言をお主に与えよう。一つ目は<壁を超えた大いなる戦いで楽園への鍵を得る>。二つ目は<泉の王は冬から解き放たれる>」
ファムジールの言葉を聞いた俺はどういう意味なのか分からなかった。
予言らしいと言えば予言らしいが……
「……他には?」
「これで全部じゃ……普通予言は一つじゃがお主には二つ与えられた。余程の運命が待っているんじゃろう……」
「……どういう意味なんだ?」
「儂にはわからぬ……だが時が来ればわかるはずじゃ……」
「そうか……それまで覚えておくことにしよう」
そうファムジールに告げて俺は椅子から立ち上がる。
予言の言葉で俺の頭の中はいっぱいになってしまっていた。
「どういう意味なんでしょうか?」
リーリアが尋ねてくるが、俺は肩をすくめた。
「いや、よくわかんないな。占いってそういうものだろう?」
「そうですね……」
リーリアは少し腑に落ちない様子だった。
それ以上彼女の方から何かを言ってくることはなかった。
その後も街をぶらぶら見て回ったが、おもしろいことはなかった。
ただ、ハイリーンの中心には店がいくつも建設中で、もう少し経ったら賑わいそうなので俺は嬉しかった。
何もないただの草原だったころに比べれば多少進歩したと言えるだろう。
ハイリーンの将来を楽しみにしながら、俺達は帰路についたのだった。




