1-4-9 休息(9)
「……ええ……私は両親の仇を必ず取る。そのためには強くならなくてはいけない」
「そうか……」
「弟子にしてくれるの?」
「……本気で魔族を倒したいという気持ちがあるなら弟子にしてもいい」
「お願いします!!」
ミアの目はギラギラと輝いていた。
復讐を志した者は皆似たような目をしている。
ミアの瞳の奥に燃え滾る復讐の炎が見えた気がした。
かつて魔王を倒すことだけを考えていた俺も同じような目をしていたのだろう。
「しかし、どのレベルを目指すかによって教える内容も変わってくる。お前は何になりたいんだ? 魔族を一人で倒せる勇者か、それとも従軍魔法使いとして魔族を狩ることを目指すのか?」
「一人で魔族を倒せる勇者を目指します」
「ふむ……今の同時魔法発動数は?」
「二です」
「なるほど」
この歳で同時魔法発動数が二というのは優秀な部類だろう。
このまま技術を磨いていけば一流の魔法使いも夢ではない。
だが、それはあくまで一般的な魔法使いの話だ。
同時魔法発動数が2では勇者は難しい。
「少ない?」
「そうだな……魔族との戦いは応用力が重要だ。同時魔法発動数が少ないと強靭な身体能力と限定固有魔法を持つ魔族に遅れを取ることになる。あるいは剣術や槍術などの武術の心得があるか?」
「特には……」
「……その歳で同時魔法発動数が二なら優秀だろう。魔法の技量を磨いて従軍魔法使いとして魔族と戦うことを目指したほうがいいんじゃないか?」
「でも……」
ミアは唇を噛んでうつむく。
「すべてを……自分のすべてを魔族討伐に捧げるのであれば可能性がないわけではない。その覚悟はあるか? 体、心、魂までもを魔族討伐に捧げる覚悟が」
「お父さんもお母さんも私に優しかった……大事に育ててくれた……二人ともみんなから尊敬されるいい魔法使いだったもの! それなのに……それなのに! 殺してやる!! 罪のない人を殺す魔族は許せない!! 魔族を倒すために私のすべてを捧げる!!」
憎しみ。
悲しみ。
怒り。
俺はミアの中に渦巻く憎悪の炎を見た。
すべてを焼き尽くさんとするその負の感情は魔族との戦いにおいて大きな糧となるだろう。
憎悪の炎こそ、戦いの原動力となる。
俺はかつての自分をミアの中に見出していた。
魔王を倒す前の復讐に燃えた自分を。
しかし、今の俺は復讐を果たし、以前のような燃え盛るような怒りを感じることは少なくなっていた。
だからなのかもしれない。
ミアに対する小さな哀れみが俺の心をチクリと刺した。
「いいだろう……弟子にしよう」
「やった!」
ミアは喜んでいた。
前々から勇者になりたいという者を弟子にしても良いとは思っていた。
ただ、魔王討伐以前は情報を集めるために飛び回っていたし、魔王討伐後は誰とも接触がなかったのでそういう機会が無かったのだ。
白兵戦を主体とするタイプの魔法使いの場合には武術を極めたわけでもない俺が弟子にするのは難しいが、魔法主体のミアだったら問題ないだろう。
修行に耐えられればの話だが。
腕は治ったが体の骨折の方はまだ治っていなかった。
今は戦闘中でもないし、他に魔法を発動する必要がないので『快癒』をかけて治療を行う。
それでもすぐに元どおりというわけには行かない。
完全に回復するのには1日はかかるだろう。
身体に治療魔法をかけていると、ルイアンがエーデルロンドを連れて戻ってきた。
「陛下お目覚めになられたのですね……その手は?」
「これか?これは魔法で作り出した」
なぜかエーデルロンドがため息をつく。
普通は主君が欠損した腕を取り戻したら喜ぶものではないだろうか。
「いつもあなたは私の魔法使いとしての常識を粉々にしてくれますね。見識が広がって大変ありがたいです」
エーデルロンドの皮肉に対して、俺は肩を竦めて受け流した。
エーデルロンドは不思議と俺の魔法については物言いが厳しい。
「それよりもミアの件だが……」
「ええ……いくつか裏を取っていたので時間がかかりました」
「ミアの両親が貴族に殺されたというのは本当なのか?」
「本当です」
ミアは俯いて唇を噛んでいた。
肩は震えているが、覚悟していたのか泣いてはいなかった。
「なぜミアの両親は殺されたかもわかったか?」
「その前に陛下が魔族グリードガルドとの戦闘を終えてからの状況を確認したいのですが、よろしいですか?」
「ああ、構わないが……」
「ありがとうございます。陛下はエルレイ殿と協力し、グリードガルドを倒した後に意識を失いました。エルレイ殿が陛下を背負って我々の待機する場所までお連れしてくださいました」
「それについてはルイアンから聞いたな」
「近隣の諸侯が魔族対応の兵を一切出さなかったことも聞きましたか?」
「なんだって!?」
魔族に対応するための出兵についての要請は事前に他の諸侯に通達が行っていたはずだ。
貴族は魔族が出現した際には出兵の義務を負う。
それを無視した場合、自分のところに魔族が現れても他の貴族が助けてくれなくなるため、どんな状況であっても無視することはない。
それなのに出兵の要請を無視するなんて自殺行為でしかない。
「なぜそんなことをしたんだ?結果的に自分の首を絞めることになるんだぞ……いや魔族に支配されているというのであれば別か……」




