ほんの些細な奇跡の結果2
★北条 兼光視点
「兼光様!」
「ん、朝からどうした」
ドタドタと騒がしく三人が慌ただしく居間に現れた。
七奈美だけなら分かるが、多くの戦場を知る元傭兵の伊丹まで困惑していたし、なにより妻の香住が珍しく不可思議な物を見たような、泣きそうな顔であり、目が赤かったから兼光も驚いていた。
「皆で、そんなに慌ただしく。如何したのだ?」
「貴方!、莉奈が、莉奈が!」
妻の慌てる様とボロボロ泣き出す姿に嫌な予感が胸中を過った。
「どうした!、莉奈になにが起こったと言うのだ」
言い知れぬ不安から兼光は立ち上がり緊迫した顔で妻の元にちかよる。
「莉奈の、莉奈の足が動いたんです!、しかも感覚が戻ってました」
「・・・はっ、なんだと!?」
一瞬、何を言われたのか頭が真っ白になったのだが、何とか妻の言葉を咀嚼して理解するや、まさかそんなことがと思わず大声をあげていたのであった。
こうして些細な奇跡が北条家の少女北条莉奈に起こったことで、
北条夫妻の思惑処ではなくなったと言うか、破壊されたので朝から慌ただしくなってしまうのも仕方ないことである。
北条莉奈は、事故によって下半身不随となり足には感覚がなかったはずなのだからだ。
「まことなのか・・・」
「・・・ばぁい、貴方・・・」
もう既に泣き始めた妻を抱き締める。
「なんと・・・、そのような奇跡がなぜ」
北条兼光は無論、人でしかないこの場の人々は、ただ小さな奇跡に感謝していたのであった。
━━━━━━━━━━━━
★方城東視点
どうも北条の子供の一人が、少しであるが突然回復の兆しがあったと、そのために急遽今日にでも帰ることとなった。
もっとも・・・
誰がそのようなことをしたか知らぬが、栗栖の不利にならぬ為に神霊または仙人かもののけの類いが力を貸してくれたか分からぬが、あれは昔から動物には好かれるからの~。
知らぬ所で、神霊に気に入られておっても驚かぬわい。
「誰かは知らぬが、礼を申します」
ただ東は一礼して、お礼として菓子とお茶を入れて神仏に供える為の物を。
飛鳥井当主豪雪殿から譲り受けていたものに載せて、東は瞑想の間と呼ばれる奥の座敷を後にする。
フフフフフフ
「・・・ん?、気のせいかの」
何かしらの気配を感じたのだが・・・、
「わしも年かの~」
東は、一人ごちりながら座敷を今度こそ後にしていた。
そして、東は気付かなかった。
出していたお菓子が無くなり、お茶の中身がいつの間にか消えていたことに。