ワイゲン公爵御令嬢の騎士3
これが、ほんの少し前の事であれば真面目にお嬢様には申し訳ないが、何処かの金万な貴族家に降格され、お嫁入りを願わねばならない状態であった。
要するに財政は火の車であったのだ。
先のドワーフ王国の話を聞いて、ドワーフ王国のミスリル関連の債権を買って置いたのだが、ベルゲンでミスリル鉱山発見と、ドワーフ王国との交易に絡む事が出来た。
これによって軽く見積もっても内戦前以上まで、財政が回復していた。
そこに来て、此度の投資先の情報はセバレスをしても知らない話であった故、先のこと考えクリスタル商会の債権を買った訳であった。
投資先としてはあくまでも、そう言った思惑で閣下が動く可能性を考えて、セバレスが動かせる金銭のみであったが、
公爵家から見て大した金額ではないが、大商会からみれば莫大な投資額になったので、クリスは嫌そうな顔をしていたのだろう。
「旦那様、宜しいでしょうか」
『セバレスか、ちょうどいい喉が乾いたお茶を頼む』
「承知致しました」
ワイゲン閣下が書類から顔を上げて、億劫そうにゆったりと座れるソファーに移動する。
その合間に、お茶の支度を済ませ、クリス様から頂いたおかしを添える。
「・・・ふむ、この菓子は?」
「はい、先ほどクリス様がおいで下さいまして旦那様、奥様、お嬢様への手土産にございます」
「ほほ~う、クリスがな?」
ワイゲン閣下は何も言わず菓子のサクサク感と仄かな果物の甘味と煎ったナッツの香ばしさに相貌を緩める。
「菓子は奥様、お嬢様にも御出しししております。また当たり年のワインを頂戴しておりますゆえ、夜の晩酌に御出し致します」
「うむ、そうか・・・」
こうした心遣いできる消耗品などは、屋敷で働く者にも下賜されたりするのに気楽に与えられるものでもある。
「それからクリス様から湖の町フランへの航路を開拓したとの報告がございます。わたくしの権限でクリスタル商会の債権を幾等か購入いたしております」
「フフフ、お前がそこまでやるのだ。あやつはなかなか見込みがあったと言うことだな」
「はい、それはもうあまりの楽しさに熱くなるところでございました」
「・・・ブフウ、ゴホッゴホッ、お前がか?、なるほどな」
噎せる閣下をからかうように微笑んでいたセバレスであった。
「お嬢様へと、クリス様から希少な魔導具のブローチが贈られました。例のミスリル製でございます」
「そうか・・・」
それから鑑定結果された紙を閣下に引き渡す。
「ふむ・・・、ここでこれをサニアにプレゼントするか・・・」
やはりクリスもサニアお嬢様が狙われる可能性を考えているようだと閣下もため息を吐いていた。
「クリスには近々会わなければならぬな」
「調整はおまかせを」
こうしてクリスの知らない所で、次のクエストが始まろうとしていたが、その事を誰も知らないのであった。