クリスタル商会会長のお仕事が待っていました4
すっかり通い慣れた公爵家の天幕に参ると、直ぐに僕に気付いた見覚えのある兵が、執事を呼びに行ってくれたので黙礼した。
兵はちょっと嬉しそうに天幕に入っていった。
★セオ視線
ここがゲームの世界だと知ってはいたけど。
姉さんと僕はフルダイブのVR機器を使ってるせいか、NPCの人達も普通の人間のように見えていた。
とても自然に笑い、怒り、悲しみ、僕と姉さんと一緒に捕まっていた『王』の称号を持っていた三人は特に本当に人間に見えた物だ。
ここは王都から少し離れているが、戦場に近いせいか兵が擦れ違うと革と汗の独特の匂いや、人の息遣いまで感じられるから、
不思議な感覚を覚える。
まあ~、あんなことがあって僕らは内戦イベントまで捕まっていたわけだけどね。
一度ログアウトできた時に、運営の方から説明があって不具合だったとのことでお詫びがあったけどさ。
僕は正直このゲームを辞めようかと本気で考えていた。
それでもまた直ぐにログインしたんだけどね。
リアルでは2日ばかり寝てたことにていた。
たまたま両親が出張でいなかったこと。
お手伝いの喜代水さんが夏休みを取ってたことで、事なきを得た。
僕らは慌ててお風呂に入ったりトイレに駆け込んだりと生理現象を済ませてから、姉さんに押しきられて再びゲームの世界にログインしていた。
普通なら怖い思いをしたので嫌がりそうな姉が珍しく、イベントに参加するんだと鼻息荒く言い出して困惑したものだが、
どうも・・・
姉に春が来たようだ。
もっともリアルでは、無理なこともゲームの世界なら姉は自由である。
僕らはまだ子供で、もう少し夢を見ても許される筈だよね。
セオは静かに姉とクリスの背を見つめていた。
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間も無くすっかり見覚えのあるワイゲン公爵閣下の側近である。執事さんが出迎えてくれた。
「お帰りなさいませクリス卿」
僕が貴族になったからかな~?、以前と対応に変化があった。
「あっ、僕に対しては、前と同じ商人扱いで構いませんよ」
「・・・フフフ、さようでございますか、では改めてクリス殿ようこそ、旦那様がお待ちでございますよ」
目元だけ柔らかくした執事さんは、物腰も柔らかに。少しだけ気心がしれたような不思議な共感を得ていた。
どうやら執事さんから好感を得たのかな~。
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天幕に入ると既にワイゲン公爵閣下が待ち構えていた。
ちょっと驚いたけど。何となくピーンと来るものがあったので略式で黙礼をしていた。
「済まぬが、ワイゲンのこと聞かせて貰いたい」
「承知しました」
付いてきた二人にチャット繋ぎ、少し後ろに立ってて貰うことにした。




