『拳王』アンビシャス
それから間も無く、僕達は拠点に入り多くの人に出迎えられた。
「クリスお兄さん!、ありがとう~♪」
真っ先に突撃してきたシャナを抱き止めた。
「おっとシャナじゃないか~、元気にしてたかい」
「うん!、お兄ちゃんが怪我をして、凄く心配だったの、でもねでもね!、今は凄く元気になったよ」
「そっか」
シャナの頭を髪をグシャグシャにするように撫でる。
「もお~クリスお兄さん、髪がグシャグシャになるよ~♪」
不機嫌そうな声を出すけど、顔には嬉しそうな笑みが溢れていた。
「クリスさん・・・、よく来て下さいました」
「ユーノス、起きて大丈夫か?」
「ええ、寝てなんていられませんから」
『宿屋』と呼ばれるユーノス、前はひょろりとした体躯の気弱な青年だったのに、ずいぶんと男らしい顔をするようになっていた。
「初めましてオイラ、エイビスです。『料理人』と呼ばれてます」
マダム・リヨンの前にぽっちゃりした人のよさげな顔立ちの青年が立っていた。
「噂で聞いてるよ~、料理人ランキング50以内に入ってるらしいね。僕も300以内に入ってるから名前だけは知ってるよ」
「そうなんですか!、クリスさんも料理やるんですね!」
当初、緊張感を漂わせていたのだが、僕も料理やると分かるや急に叙舌になっていた。
料理が大好きなんだろうな~。
エイビスに好感が持てた。
マダム・リヨン「・・・クリス様」
少しやつれていたけど、その美しさは変わって居なかった。ほんのり安堵したのか柔らかな笑みを浮かべていた。
「無事で何よりだリヨン」
「クリス様!」
凄く良い臭いがして、リヨンに抱きしめられていた。豊かな胸に顔が溺れそうになるが、何とか理性でリヨンが落ち着くまで背中を優しく叩き、頭を撫でていた。
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何だか甘たるい雰囲気がリヨンから漂っていた。潤んだ瞳で見つめられるとそのプックリした唇に・・・、
「ごほんごほん、クリスさん!」
アンビシャス君のわざとらしい咳で我に返った。
「もう、大丈夫だよね?」
「・・・・・・はい」
やや残念そうなリヨンの顔にドキドキさせられながらも離れてくれた。
「クリスさん勿論行くんですよね!」
「ああそのつもりだ。『悪魔の蠍』を潰しに行ってくるよ」
「「「!?」」」
息を飲む『ダルク』の面々、だけどアンビシャス君だけは、
「流石クリスさん!、勿論僕も御一緒します」
ブンブン上機嫌に尻尾を振るアンビシャス君だが、流石は『拳王』の称号保持者である。
戦場の理論を理解していた。
我が家にも家訓としてある。『先手必勝』と。
「今は、ここを攻めて相手も油断してるからね~。やるなら今さ」
「です!」
尻尾の振りが大きくなっていく、流石は闘技場1000勝無敗の『拳王』であった。