センリと言う少年
辺りを見回すが、第二騎士団の騎士、従者が誰も居なかった。
バイヤン「ばかな・・・、いつの間に」
センリ「・・・剣を抜け」
濃密な殺気を感じて、額から汗を滴らせながらもバイヤンは盾を手に取り、腰の剣を抜いた。
バイヤンは『頂上決戦』でもその実力を遺憾なく発揮していた実力者であった。
いくら凄まじい殺気を放つ少年だろうと、自分が負ける筈がないと自分に言い聞かせていた。
バイヤン「少年・・・、今なら見逃してやるぞ!」
ニヤニヤ、底意地の悪さが醜悪な顔を覗かせていた。
知らぬは本人のみ。
人の顔とは、内面がよく出る物だ。
センリ「・・・愚か」
バッサリ斬って捨てるセンリに、馬鹿にされたと思ったバイヤンの顔色が赤黒くなっていた。
バイヤン「もう、謝っても許さない!?」
最初からなぶるつもりだった癖に、訳の分からないことを言い出した。
本当にどがしがたい男だとセンリは呆れていた。
バイヤン「死ね!」
バイヤンとしては、一方的な虐殺をイメージしていたに違いない。
センリの腰には二本の剣があった。
本来、山中流は刀、鎌槍を得意としている流派である。
組打ちもやるが、斬る、刺すことに特化した武家であった。
戦国時代、一人でも多く、一人でも首を上げることこそ奉公とされた時代から、脈々と人を斬ることをひたすら磨き続けていた一族である。
祖先には尼子に仕えた山中鹿之助幸盛がいるが、センリの一族は分家であった。
戦国時代は、血よりも名を残すことが美徳とされていた。
それゆえに一族滅ぶことを揺るさず幾多の分家を残している。
有名な豊臣家も木下家を。
徳川も松平家を。
某有名大名ほど、分家を残している。
マムシこと斎藤家も元は西村家と言う家柄である。
バイヤン「死ね小僧!」
二本の剣の柄に手を添える独特の構え。
日本人は、名前に二つの意味を込める事があった。
センリとは、一刀を持って千里もの先に飛ぶ鷹を斬る事が、センリの由縁である。
センリ「山中流・・・、二閃」
当時の日本人の歩き方を西洋人は笑ったという。
そう、手足が同じように出ていたからだ。
右足が出たら右手を前に、左足が出たら左手を前に。
でも考えて欲しい、この難波歩きとは、刀を振るうに特化した物であったことと、最初の一歩が非常に速いと言う事だ。
昔の日本人は、廃刀令がでるまで、日本人は刀を自衛の為に持つのは普通であった。
海外の拳銃と同じである。
センリの体が前に倒れるように地面が、眼前に迫る。
そこから一気に貯めた力を解放する。
最初の一歩こそ最速を誇る。
バイヤンが気付かぬ内に、センリはバイヤンの横を通り抜けていた。
バイヤン「・・・なに?、がはっ・・・」
バイヤンの首と胴が落ちた。
『冒険者ギルドが、クラン『世紀末』『クリスタル商会』により開放されました』
センリ「・・・・・・僕の勝ちだクリス」
にっこり、初めて楽しいと笑みを浮かべたセンリは、心の何処かで温かくて、ドキドキした気持ちを覚えた。
剣のではないが、ライバルであり友人が出来た事が嬉しいかったのだ。
センリ「・・・・・・負けられない」
にこやかに笑って、静に闘志を燃やすセンリであった。




