難しい年頃な妹
朝、そろそろ寝苦しくなるこの頃だ。
春の日射しもだいぶ強くなってきた気がする。
「眠い………」
二度寝したいが、そうも行かないな。だいぶ日の出も早くなったなと思ったこの頃。
「クウ~ン」
下に降りるや否や、私、待ってましたよ?そう言いたげなやや上目使いのラブリンが
「わふ♪」
降りてきた俺を見て尻尾をフリフリ、既に着替えを済ませていたのを見て直ぐに、散歩だ~ と察したらしい。
高校の入試前からかな、勉強ばかりは身体に良くないと母に言われて始めたのが朝と夕方の散歩である。そしたらすっかりラブリンの日課になっていた。母に謀られたかな?、
「あらおはよう栗栖」
「おはよう母さん(フリージア)」
見た目が外国人の母さんだが、日本語が達者だ。これで英語、フランス語、母国語合わせて四各語も操る正にマルチリンガルな人だ。仕事は書籍の翻訳家と、時たま割りのいいバイトをしていた。所謂通訳も兼ねてるらしい。
らしいってのがみそなんだけどね。何せ通訳相手ってのが伯父さんガラミらしく、流石の母さんもぼかしていた。気になるが……、
こればかりはね………。
気にしても仕方ないから。
「母さん、ベッキーは?」
妹の 方城・ベッキー・由美
産まれた時、父さんは妹の名前を色々当て字で悩んだらしい。中には戸次を当てたりしてさ………。
これは流石にね。母さんも難色したとのこと。可愛くないし。日本名は由美、スペイン名はベッキー、俺は気分で呼び名を変えている。
父さんの話を初めて聞いた時のベッキーは、流石に涙目だったしさ。
ベッキーも中学に上がったんだし、あれで朝もうちょい早く起きれたらな~。
「栗栖、ラブちゃんお散歩お願いね~」
「あっ、はいはい。ラブリン行くよ」
「わん!」
嬉しそうに返事して、拾い食い防止付のリードを喰わえて戻ってきた。よっぽど嬉しいらしい。
靴箱に入れてある。エコバッグはラブリン用に買った物だ。中にはビニール袋、ティッシュ、シャベル小を入れてある。
ランニングシューズに履き替えると扉を開けた。
これを見て今日は公園に行くんだと分かり、ラブリンの尻尾はブラシのように膨らんでいた。
ラブリンは早速歩きだし、リードを強く引いていく。
尻尾がぶんぶん揺れていた。
◇◇◇◇◇◇◇◇
自宅から30分。何時もの散歩コースと逆になるが、近場でランニングコースまである森林公園は最近ラブリンのお気に入りである。
ここは夏でもわりと涼しい環境だ。都内でありながら公園内にはないちょっとしたハイキングコースまであった。
昭和の終わりまでは何もない丘だったらしい。今や区内の住民にとって、定番の散歩コースになっていた。
ラブリンのトイレが済むと軽くランニングを始める。残念ながらドッグランなんて近場にないので、こうして俺と走ったりするのがラブリンも楽しいようだ。
流石にラブリンとリード外して遊んであげるのも難しいからね。事故とかがあったら大変だし。
「あっ、ラブリンちゃんおはよう♪」
「わんわん!」
「わんわん!」
「おはようございます」
「栗栖君もおはよう、こっちは久しぶりね」
「はい、ようやく学校にも慣れたので」
「ああ~、コウミ、ジョジョ行くわよ。またね」
お姉さん?と。柴犬なのにラメでキラキラしたカラーリングしたコウミとチワワなのに。モヒカンなジョジョを見送った。
「いつ見ても、オジサンと呼ぼうかおばさんって言っていいのか、言い方に迷う人だよな」
「クウ~ン?」
首を傾げていた。犬には分からないだろうな、
◇◇◇◇◇◇◇◇
「ただいま~」
ラブリンの足を綺麗にしてやると。さっさと家の中に入っていった。
「あっ、ラブリンおはよう~、お兄とお散歩してたの」
「わんわん!」
機嫌のよいベッキーと嬉しそうなラブリンの声。これだけ聞けば、今日は御機嫌らしい。
「おはようベッキー」
「…………おはよう」
これだ。何故か僕に対してだけ、急によそよそしくなる。
本当に何故だろうか?多分聞いても無駄なんだろうな。
諦めに似たため息を吐いた。