閑話・とある少女の歓喜
明けましておめでとうといい辛いですね。
昨年、身の上でも様々なことがありましたから。
コロナとか、
今年が、少しでもよい年になること祈ります。
背徳の魔王でした。
『フランス郊外』
そこは別段珍しくもない。
巨大な牧場が、一望出来る。小高い丘の上にある小さな畜産牧場はあった。
イリシアル『‥‥‥‥‥うわぁ~凄いな、あのお馬さん走りがとても綺麗で、躍動感が出てるわね‥‥‥‥‥、うん良さそうね』
屈託なく双眼鏡から外して、微笑みを浮かべた少女。
イリシアル・ルガー・ロス
ロス家と言えば、フランス有数の大企業を営む一族であった。
今は、殆ど見ない財閥系の資産家でもある。
普通ならば、ロス家のご令嬢である。
蝶よ花よと育てられても可笑しくない身の上であった。
ただ彼女は体が弱く、時おり可笑しなこと言い出すイリシアルを。父が気味悪がり、母が、妹達が嫌っていた、
イリシアルが物心付く頃には。家族から亡いものとされ。
養生と言う名の隔離された環境で育てられた。
イリシアル『アレーンいるかしら?』
アレーン『はいお嬢様。此方におりまする』
アレーンと呼ばれた初老の下男、ぼくとつとした顔立ち、やや頑固そうな目をしていた。
アレーン『いかがなさいました』
イリシアル『ねぇ~、この時間調整中の馬って何れかしら?』
イリシアルの問いに眉間の皺を深めた老人は、シミの浮き出た手で、アゴヒゲを撫でながら記憶を蘇らせる。
アレーン『ああ~、リディー号ですな、お嬢様がオーストラリアで見付けた』
イリシアル『あらそうだったかしら?、まあ~いいは、それよりもあの馬仕上がってるわ。そろそろ次のレースに出すように調教師に伝えてくれるかしら』
アレーン『今の時期ですと海外G1になりますが宜しいので?』
イリシアル『構いませんわ』
アレーン『承知しました』
老人は恭しく一礼して、部屋を後にした。
イリシアル『あらあら楽しみだわ~、まさかVRが当たるなんてね』
少女の目は、動物の能力や才能を見抜き、調子を察せれる物だ。
いつも動物と話すイリシアルを気味悪がったのも、ある意味は間違ってはいないのだろうが、可愛い物と思えるかは別の物だったようだ。
『おめでとうございます。この度弊社開発しましたゲームをダウンロードしておりますので、エンドアースの世界をお楽しみください』
イリシアル『別の世界か‥‥‥‥』
うっとりと目を細めたイリシアル。
眼下でまた1頭馬が掛け上がる。
広大な牧場はイリシアルが、自分の才覚だけで手にした物だ。
父が寄越す僅かなお金等、イリシアルからしてみれば端金にしかならない。
ロス家からすれば子供のお小遣い程度であるが、
イリシアルはその僅かなお金を使って、ここまでの財を築いて見せた。
イリシアル『ああ~、なんて楽しみですわ』
蕩けるような、夢を見るような、柔らかな笑みを浮かべ、明日と言う日を楽しみにしていた。