閑話・王の苦悩と決意
【ランバルク王国・王城】
★ディース・ティーノ・ランバルク国王視点
「陛下・・・」
「してどうなったのだ」
執務室に気配なく現れた黒衣の者が、夜遅くまで書類を確かめ王印を押しす手を止めぬまま影にとうた。
この者達は王家の影と呼ばれる諜報部隊の者達であり、王家お抱えの特別な任務を与えている者達でもあった。
「はっ、三公様方は上手くおやりになされたかと」
ピクリ、一瞬だけ手を止めたが再び書類に目を通しながら、この増税を訴えていた内務大臣が消えたことで頭の痛い思いをしなくてすむと少し肩の荷が降りていた。
「ご苦労であった」
「はっ」
短くそれだけ告げると影は王の執務室から音もなく消えていた。
「ベルゲン、ワイゲン、プラハには苦労をかけたな」
今回の粛正案は三公爵家の当主である三人から持ち掛けられた物であった。
あの内戦によりランバルト王国の国庫は傾きかけていたが、異界の旅人で、内戦の英雄の一人の活躍にてベルゲン領で新しい鉱山を複数見つけると言う、国、ベルゲン家に大きな利益をもたらせてくれただけでなく、その利益を自分たちだけで得るのではなくドワーフ王国からドワーフの鉱山夫、ドワーフの一級鍛冶師の誘致に成功させ王国に多くの利益をもたらせることまで気を使ってくれておるに・・・。
「国を長く運営しておるとどうしても内から腐る物よな・・・」
国王とは孤独であるが、
「余は妻に恵まれなかったが、親戚には恵まれたな・・・」
ほろ苦く自傷するが、王はただ黙々と書類に王印を押した物と不用となった書類の山を脇に避けて行く。
「これでランバルト王国の内疾患の大部分は切除出来たが・・・」
人とは二つに分かれていると王は考える。権力を持って変わる者と変わらず王国の為に働く者とに。
「確かに・・・、腐るのは簡単である」
権力があれば金、女、酒、美食、芸術に傾倒するものは実に多いのだ。
それだけならまだ貴族ゆえ許すことも出来たのだったがな・・・。
「聖国め・・・、実に厄介であるな」
ランバルト王国には国教はない民、貴族の自由としていた。また獣人、亜人にも寛容であるためランバルト王国には、亜人、獣人の冒険者も多い、地方に行けば民として村に住まう者達も多いのだ。
しかし他国の中には根強く獣人、亜人への迫害が多く、またその者達を奴隷の商品としてる国もあった。その中でも特に酷いのが聖国であった。
「人間至上主義とは面倒な国教よな」
苦々しく呟きながらも王の手は止まることはなかった。
その夜も深夜まで国王の執務室から明かりが消えることはなかった。