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第09話 幻獣の刺客! その4

「あの“漆黒の鍵”が動き出した……ですって?」

「はいっ アリス様! わたしの部下の情報によると、ですが……」

「ふむ、ジェミニの部下は有能なウェーブ使いですからね。仕方ない、あたしも活躍して差し上げますか」


 アリスは木製の頑丈な椅子から腰を上げ、助手のジェミニから小さなメモを受け取った。この助手、ジェミニは自分自身のコピーを作ることができる魔法を持つ魔女だ。そんな魔法を認められた彼女は、数十年前にアリスに拾われたのだった。ちなみに、アリスは現在278歳、ジェミニは264歳である。まだまだ若々しく見えるが、この世をもう立派に生きているのだ。


 アリスは受け取ったメモをじっくりと眺めた。黒の細いペンでびっしりと書かれたそれは、一般人が解読できないような呪文が記されていた。それを数秒で解読すると、またアリスは正面を向き直った。


「分かりました、ジェミニ、御苦労。確かに、この波動は初代と同じもの……実際、あたしが経験したというわけではありませんが、母上から教わっていたのです。となると、ライン陛下のご想像の通り若の心が反響なさったのですね」


 この部屋の向かい側には、例の“漆黒の鍵”が封印されている部屋がある。そこは誰も立ち入らない大広間で、特別な資格を持つ将軍以上のランクを持つ者しか入れなかった。しかし、アリスとジェミニは例外だ。ランクこそ将軍にも満たないが、特別な魔法を使うものとして入場が許可されているのだ。


「仕方ない。この城には高レベルの魔女はあまり居ません。あたし達がそこに向かい、“漆黒の鍵”を瞬間移動テレポートさせて……」

「ってことはわたしも行くのですか!?」

「当たり前でしょう。あたし一人の魔力ではあまり大きな移動はできないのです。魔力だけ余計に大きい貴女が居てくれれば……」

「ひぃぃぃっ……」


 アリスがそう自分を帰してくれるわけがない、そういうことを心から知っているジェミニは叫び声を上げた。




























 ドラゴンフォレストの一角、そこに彼らは居た。


「って言ってもねェ、全くライン陛下やアリスからも連絡来ないんじゃネ」


 おれの目の前ではレムトが、どこから摘んできたのかやけに花弁の多い花で『花占い』をしている。占っている内容は『無事、城に帰れるか』と『失敗するか』の二つで、いかにも軍人さんっぽい。しかし、軍人は第一、こんなことをするのだろうか。


 ちなみに、只今おれたちはクランドとヴェルグスからの連絡を待っている。おれたちは危険だからと言って、一時的にここへと避難しているのだ。危ないのはおれだけで、他の3人は向かいたくてうずうずしているようだ。


 そういえば、クレアリス城に居るラインやアリスさんからも一向に連絡が来ない。グレイルが受信(?)した「後で送る」の連絡以降、全く来た覚えがない。「送る」とは、もう一度連絡をすることなのか、それとも何か物資を送るのだろうか……。


「なんでおれたちが避難なんかしなきゃいけないんだよ〜。いざとなったらおれも活躍するっつーの!」

「諦めろ。僕だってリクルのお守りなんかせずに戦いたいんだぞ! それを義父上は……」

「結局、諦め切れてないじゃないか。仕方ないことですよ、リクル」


 フレイアはおれに笑顔を向けて言った。自分もおれのお守りなんてしたくないだろうに、なんて大人なんだろう。レムトもさっきから自分の剣を研いでいる。そういえば、フレイアは二刀流だけどレムトは大剣だけなんだな。でも、剣のつくりがとても似ている。もしかしたら、おそろいなのかも。



 ―――ドラゴンフォレストには、さっきから不気味な声や悲鳴らしきものが響き渡っている。おぞましい鳴き声から、絶叫に近いものまでパターンも色々だ。それだけ多くの生き物が、生命いのちがこの森に住んでいるのだ。


 それなのに、古龍リアレイズは―――いや、おれは森の一部を破壊してしまった。説得させれば良かったものを、おれは力でねじ伏せてしまったのだ。覚えていないといえど―――これは立派な罪になる。おれは、無数の生命を奪ってしまったのだ。


 植物だって、一部の“いのち”なんだ。それを易々と破壊してしまう自分の力なんて……なんて恐ろしく、醜いものなんだろう。こんな力なら、おれは欲しくなかった。そんな力を貰う為に、力を宿す人形になるだなんて……そんな為だけに、おれは生まれたんじゃない―――


「リクル、あまり深く考え込まないで」


 優しく、体全体を暖めるような声と共にフレイアの手が肩に掛かる。彼はまだ笑顔を浮かべているんだろう。でも、おれは笑顔をつくる気分になんかはならない。こんな状況でも笑える人が居たら―――その人を尊敬し、神と崇めてしまうだろう。


「“あの人”も同じことを考えていました。自分の力は、本当に必要なのか? 本当に存在していいものなのか ってね」

「その人は……どうなったの?」

「もう数十年前に死にました。俺の……心から尊敬する師匠だったんですけどね。貴方にも見せたかった。そんな“あの人”の生き様を……」

「……ありがとう、おれを気遣ってくれて。そんなに表情に出てるかな、おれ?」

「貴方は感情的であってほしい―――こんな俺みたいに、ならない為にも」

「え……? それはどういう……」


 そう言って振り返った時、もう既にフレイアは後ろに居なかった。ふと向こう側を見てみると、焚火の向こう側に彼の笑顔があった。いつのまに移動し、あんな所まで行ってしまったんだろう。


 もう頭上には、満点の星が瞬いている。おそらく、あの炎はレムトの術だろう。炎と同じ色の瞳を持つレムトが、目を細めて笑ったのが見えた。やはり、一人でいつまでも悩んでちゃダメなんだ。困ったのならば、相談すればいいじゃん。そんなこともすら思いつかなかったなんて、最近のおれはどうかしているな。


 ―――ちょうどそのころ、ヴェルグスとクラウドが居る戦場で、新たなる物語が始まろうとしていた。




























 ―――自分の周りにも、足元にも真っ暗な闇が広がるだけだ。辺りには何もない。さっきまであった土を踏みしめる感触も、手で木の枝を握る感覚もすべて一瞬にしてなくなってしまった。


「ヴェルグスさん……?」


 自分の将軍を呼んでも、返事はない。さっきまで隣に居たはずなのに、いつの間にか消えてしまったのだ。―――いや、消えてしまったのは自分の方なのかもしれない。ヴェルグスの居る世界では、普通に時が流れているかもしれないのだ。


「ヴェルグっさんも居ないし、敵の姿も見えない。もしかして、俺一人……」

「そんなワケないじゃん、クランド・ヴァン・リースさん。最初っから僕の気配を掴んでいたんだろ?」

「やっぱりね、ビースト・マスターと恐れられた少年。そう上手くいくわけないと思っていたよ」


 クラウドの目の前には、リクルの元友人らしい小林昇が立っていた。左腕には廃れた本を抱え、右腕はなにも持っていない。それどころか、右腕は奇怪な姿に変わり、太いツルが何本も絡まったような姿になっている。その爪は大きく鋭く、皮膚は灰色になっていた。


「……これが僕の武器。すごいでしょ? こんな変な腕今まで見たことあるかい。いや、君たちにはあるだろうね」

「ああ。その腕は“怪腕のエドワード”のもの……。つまり、アンタはエドワード・ノエルの生まれ変わりか何かなんだな?」


 それには昇は笑っただけで、また奇怪な腕を愛おしそうに撫でた。エドワード・ノエルとは“魔王”ルシファーに次ぐ“異界創主”の一人であり、初代魔獣王リクルァンティエリルもそのうちのひとりである。エドワードは闇の魔術を持つ魔獣族だったが、リクルァンティエリルが亡くなる数年前に何者かに暗殺されている。彼は古風の眼鏡が良く似合う、高い知能を持つ将軍だった。


「しかし、運命というものは複雑に入り組んでいるんだな。前世は立派な魔獣族だとしても、今世では幻獣に味方するなんて……」

「それはどうかな、僕はただリクを連れ戻したいだけなんだ。いや、僕自身が彼の傍に居たいのかもしれない……」



 昇はあまり意味のわからないことばを残し、一瞬にして目の前から消えた……そう思ったら、次の瞬間にはクラウドの真下に移動し、下から突きあげるかのように剣を振り上げた。その剣にはかつてエドワードが持っていたものと同じ形だった。


 クラウドは寸前の所で攻撃を避け、背中に担いでいた大きな槍を振り上げた。その槍の先端には無数の光が集まり、クラウドの呪文によってこの空間中を覆った。


「“光の術、発動! 我が光の術者であることを、己が血をもって誓う”」


 その光は暗闇を照らし、所々に大きく突き出た岩盤をも浮かび上がらせた。どうやら、ここは大きな洞窟らしい。この空間には見覚えがある。―――ドラゴンフォレストの奥深くにある、龍の洞窟の最深部だろう。


「俺をこんな所に落としたってワケか。どう見たってアンタは瞬間移動テレポートは使えそうにないからな」

「大当たり。僕にはそんな能力はないよ。なんせ魔法使いじゃないからね。僕は後ろから君ごとこの洞窟に突き落としたんだよ。この森全体の地図を頭に入れておかないと、成せない大技だけどね」


 昇は洞窟の天井付近に立っていた。―――いや、正確にいうと天井まで届きそうな岩の上に立っている。右腕は先ほどよりも大きくなり、さらに禍々しさを倍増していた。


「僕の前世がエドワード・ノエルだって当てたことは凄いと思うな。でも、君の力だけでは僕に追いつくことはできないよ。“豹変”したらいいじゃん、ヴァンパイアさん」


 昇の挑発にクラウドは乗らず、下をうつむいて唇を噛みしめた。“豹変”状態になったら簡単に勝てる。でも、まだ未熟者の自分が勝手に“豹変”したらもう止められる者はいない。―――もう、この世には……


「自分の宿命を分かっているとはね、魔獣族の中で比較的若くても立派な思考は持っているワケだ」

「ああ。伊達に280年以上生きてはいねぇよ。こんな俺にも……世界を教えてくれる人がいたから」


 この槍と、ここまでの実力をくれた人―――俺は、その人を自分の手で殺した。理由はどうだっていい。その人だって、歳の所為で衰え死んでゆくよりもこうやって立派に死んでいった方が良かったのだろう。今更後悔はしてももう遅いから。


「君は……どんな死を所望しているんだ?」

「死? まだまだ早いよ。俺はなんならあの若の隣で死にたいね。あのお方は大物になる。俺はそう感じるんだ」

「そうか……そうだよね、僕が間違っていた」

「?」


 昇はさっきまで高く構えていた右腕を降ろし、その腕を真後ろにあった壁に向けた。クラウドが反応する間もなく、昇はその壁を破壊した。


「そうだよね。大切な人は力だけじゃ手に入れることはできやしない。僕も君と一緒に付いて行っていいかな? 僕の選んだ道が、間違っていないのなら……」

「良く分からないけど……出口を確保してくれてありがとな。俺はヴェルグス将軍と合流する。それで良ければ付いてこい」


 クラウドは月の光が差し込む中、破壊された壁の穴から見慣れた森へと駆けだした。





つづく。

うりり〜 うりり〜


次回、第10話 敵=仲間?


やっと10話! 今更リニューアルしなきゃ良かったと後悔したのは8話でした♪


次回もお楽しみに〜

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