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第08話 幻獣の刺客! その3

 ―――自分は、本当にこの世に居て良いのだろうか。


 自分は、存在してしまっていいのだろうか。



 生まれ持ってすぐ、こんな不可思議の能力を持ってしまった。そんなわたしが無罪なわけがない。


 存在自体が罪―――。そう。わたしは居てはいけないのだ。


 もし、わたしの存在をお許しになられるのならば、


 わたしは―――この世の為に戦う。わたしのすべてを捧げる。

 
























「おれは、ホントにこの世界に居ていいのかな、フレイア?」

「何を言うのです、リクル。いえ、若。あなたがこの世界に存在してはいけないなど、誰が申したのです? 我々はあなたが生まれてくるのを心からお待ちしておりました。魔獣の民は皆、あなたを何があっても護り抜きたいと思っているのです」


 フレイアはそう言ってくれた。でも、おれの心の中の“何か”がこう言っている。お前の能力は、存在してはいけないものだと。それが本当の真実なのかは分からない。でも、嘘ではない気がするのだ……。


「若―――聞いてください。実は昔、俺には立派な師匠が居たのです。しかし、その人は若くしてお亡くなりになりました。その人は言ったんです。自分の能力は、この世界に必要とはされていない恐ろしいものだ。でも、それでも構わない。その能力を他の事に使えばいいのだと言いました。魔獣の民を護るため、その人は自分のすべてを使い切ったのです。体が砕け―――灰になるまで」

「っ!?」

「酷な話だと思いませんか? 彼女には―――その人には『理解者』が居なかったのです。だから誰も相談する相手もなく、彼女は自分の決断だけで死んでいった。でも、あなたには俺がいる。何なりと申しつけ下さい、若」


 フレイアはそう言っておれの左手―――ブレスレットを付けている方―――をとった。その手には小さな緑の宝石が乗せられ、その手をフレイアはおれの胸に押しつけた。


「お守り……だと思って」

「でもこれって、フレイアの胸にあったブローチじゃ……」

「これは俺の母、つまり第28第魔獣王のマリアから貰ったものなのです。受け取って、リクル」


 おれはフレイアを一度だけ見、そして視線を手元に戻した。そこには太陽の光を受けて輝く緑の宝石があった。おれはそれを胸ポケットの中に戻し、それからもう一度前を見据えた。


 

 ちょうどその時、森の入口近くまで吹っ飛ばされたカレニアスが起き上がっていた。上空戦といえど、吹っ飛ばされて地面に不時着するのはあり得ないことではない。その近くにはグレイルの氷の牙が地面に突き刺さり、地面に変なクレーターらしき模様を刻みこんでいた。


 昇はカレニアスに手を貸しつつ、おれの方をじっと見てくる。その瞳にはあのいじめられていた時とは違う、別の“決意”が秘められていた。


『―――リク、本当にあのときは嬉しかったよ』


 頭の中に昇が直接、話しかけてくる。耳障りだとは思わないけど、気持ちいいものではない。なんだか頭の中をのぞかれているようで妙だ。


『いじめから助けてくれた時、覚えてる? もう僕の味方なんていないと思っていた。本当に心強かった。―――でも、君は僕の能力をしらなかった。仲良くなれたとしても、いずれは別れゆくものだと思っていたよ』

「何が言いたい……何が言いたいんだ、昇?」

「リクル?」

『僕には理解者が欲しかったんだ。君と、フレイアさんの関係のような人がね。そして、僕は最高の理解者と巡り合えたんだ』


 一瞬、昇が笑みを浮かべたような気がした。しかし、すぐ先ほどの無表情に戻ってしまう。フレイアも何かを感じ取ったのか、昇の方を睨んでいた。


『それがこのお方―――第30代目幻獣王陛下、カレニアス・ジュリアウス陛下なんだよ……』

「なん……だと……」


 おれは言葉を失ってしまった。それと同時に、フレイアも驚きの表情を浮かべる。脳内の思考を感じ取ったのか、それとも“ウェーブ”というものがおれから発せられたのか……。


「リクル。あなたの言いたいことは十分分かります。奴は―――カレニアス。ジュリアウスは幻獣王に選ばれたのですね。我らの最大の敵、幻獣の王に……」

「……」


 知っていたんだな、昇。知っていてお前はそっち側に着いたんだ。おれは真の敵誕生よりも、昇がそっち側に着いてしまったことが悲しいよ、昇……。


「魔獣族から選ばれるとはねェ……」


 レムトがまた剣を構えなおしつつ、おれたちの元へとヴィライツを寄せてきた。レムトが地面に落っこちる前に、運よくヴィライツが……あ、違ったようだ。レムトの頭や顔には土埃に、泥や葉っぱなどが付いている。……地面突撃後だったんだね。


「上空戦ももう飽きたでショ? そろそろ地上に降りてきて……おっと」


 レムトが言い終わる前、力強い波動と共に何かがこちらへ向かってくるのが見えた。それはルヒラルティーやヴィライツよりも大きな翼をはためかせ、おれたちの前まで迫ってきた。


「ヴェルグス義父上!? それに、クランドまで」

「うぉい〜っす! みんな、元気ィ? お、おれの若〜ッ!」

「クランド、いい加減にせんか。皆、待たせたな……」


 ヴェルグスと呼ばれた長身の人は、真っ黒で艶のある長い髪を一か所で結んでいた。少しだけ両サイドに髪を垂らしているので、どっかのお侍さん? にも見えた。そして、後ろにはあの時の変態、クランド(別名クラウド)が立っていた。


「“闇を駆る黒馬”ヴェルグス・ティラ・アークに“ヴァンパイア・マスター”のクランド・ヴァン・リース。そんな者達がわたしたちの相手をしてくれるとは―――」


 カレニアスは不敵に笑った。ヴェルグスは白い刀身の剣を、クラウドは複雑な形の槍を構えた。カレニアス自信も幻力を右腕にチャージし、虹色に輝く剣を作り出した。


「俺は是非とも“ビースト・マスター”と呼ばれたそこの少年と戦ってみたいね。ヴェルグっさんは?」

「ヴェルグっさんと呼ぶな。私はヴェルグスだ。―――いいだろう。私は幻獣王陛下とお手合わせ願いたい。準備はいいか、お前ら」



 ―――今からが、本当の決闘だ。負けたらそれでお終いだし、勝ったとしてももう親友と今まで通りに接することはできない。分かっているけど―――納得できない。


「かかってきなさい、魔獣族くず共!!」




 カレニアスの一声をきっかけに、みんなは動き出した―――。




























「安心は絶対ではない……か」


 ラインは自室で呟いた。アリスはもうおらず、自分一人だけでヴェルグスから送られてくるウェーブを受信していた。もう彼らはリクルの元に着いたようだが、そこには刺客以外に今回新幻獣王と認められたカレニアスまで居る。なんて最悪なのだろうか。


 自室―――つまり王室はとても綺麗にまとめられていた。大きな作業用の机に、古く錆びた小びんが置かれている。それは立派な机とはとても不似合いで、びんはゴミになってもおかしくないほど汚れていた。


「―――懐かしいな、この小びんを見るのも」


 ラインはそう言って小びんを持ち上げた。薄汚れたびんの中には黄ばんだ手紙が入っていて、その手紙には文字でもなく、また絵でもないものが記されていた。


「お前は目が見えなかったからな。これは“文字”でもなく、“絵”でもない、彼女独特の言葉だ……」


 聞く相手はいないのに、ラインは口に出して手紙に語りかける。―――返事するものはいない。その人は、もうこの世にはいないことぐらい知っている。でも、彼女は本当に立派だった。


「懐かしいな……ルシファー。お前が居たころの魔獣の森は、もっと栄えていたと思うが。でも、今も結構立派だぞ? あのリクルァンティエリルの生まれ変わりまで誕生した。奇跡としか思えないがな……」


 リクルは初代魔獣王、リクルァンティエリルにとてもそっくりだった。あえて違うところを上げるとすると、その気の強さと体格、それに髪の長さぐらいだろう。リクルァンティエリルは気が強く、背も高くてグラマーで、紙は腰に届くほど長かった。


「ルシファー、お前は立派だったよ。自分の役目も果たしたし、魔族の頂点“魔王”にも輝くことができた。私たちは昔から仲間も当然だったからな。覚えているか、私たちが初めて会った頃……」


 ラインはそこで言葉を続けるのを止め、後ろを振り返った。何故かというと、クレアリス城を大きな揺れ、つまり地震が襲ったのだ。この土地に地震が来ることは珍しいことではないが、そんなに頻繁に来るわけがない。大抵、地震にはいつも前触れがあるはずなのに……


「ライン陛下! 緊急報告ですッ」


 ノックもせずに―――よほど慌てているのか―――ラインの直属の部下の一人、ラグリゲスが駆けてきた。彼は頭に大きなバンダナを巻いているが、実際ははげ隠しなどではなく、大きな青色の猫耳を隠しているらしい。彼も魔獣族なのだ。


「ついさっきまで微動すらしなかった剣が……“漆黒の鍵”がいきなり動き出しました!」

「では、この揺れはその剣の能力だというのか……動き出した、つまり持ち主が現れたのか……?」


 ラインは天井を仰ぎ、何故かリクルのことを頭に思い浮かべた。

今回はちょっと短くなりました!!


次回、第09話 幻獣の刺客! その4


次回もお楽しみに〜☆

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