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第07話 幻獣の刺客! その2

「おまえっ さっきからキモイだよッ!」

「そうそう。何かブツブツ呟いていたり、そう思ったらこんどは変なボロボロの本を朗読したりするしな〜」

「ウザいんだよ、小林昇こばやしのぼる! なんか言ったらどうなんだよッ」


 ―――放課後の教室。彼、小林昇は数人の同じクラスの男子生徒に囲まれていた。悪口を叩きこまれたり、暴力を受けたり。……いわば『いじめ』というものだ。


 教室の隅には破られた古い本の破片が散乱し、彼の鞄も投げ捨ててあった。彼の財布から金銭類はすべて抜き取られ、教科書も落書きばかりされていた。


 彼の右腕には分厚い包帯が幾重いくえにも巻かれており、左頬には大きな絆創膏が貼られていた。後ろ髪と前髪が少しだけはねているが、それを除いてとても痛々しかった。


 彼がいじめを受けていることくらい、クラスのほとんどが知っていた。しかし、誰も彼に救いの手を差し伸べようとは思わない。彼の目の前に、救世主が現れることはありえないのだ。……例外を除いて。


「わたたたたたた!? おっとっと、へぶしッ!!」


 いじめっ子達は一斉に、教室後ろのドアを振り返った。そこからは変なタイミングで滑り込んできた同クラスの男子であり、後の魔獣王となるリクル・エリルがうつ伏せになって倒れていた。


「リクル……なんでこんな時に居るんだ?」

「いや、その。忘れ物を取りに来ただけで。それに、い、いじめは良くないと思うよ。おれは非暴力主義ってワケじゃないけど、やっぱり弱い者をいじめるのはどうかなーって思ってさ」


 いじめっ子たちは卑しい笑いを浮かべた。リクルは少し引き腰になり、窓のそばへと一歩ずつ後ずさっていった。一瞬リクルと彼の眼が合い、彼が小さく頷いたのがうかがえた。


「ちょっと……なにするんだよ! ま、まさか、おれをこの窓から突き落とそうとしてるんじゃ……」

「その通り、リクル君。お前が何もしなかったら、おれたちは手出しはしなかったのによォ。正義感っていうのはこの世に必要なものじゃないんだぜェ」

「いや、お、おれは正義感は必要だと思うね! って本気で窓から落とそうとしているのかよ! やめろっていってんだろやめて下さいやめてぇ〜!!」


 リクルの上半身が窓から落ちかけた時、教室の隅に散らばっていた古い本の欠片が眩い光を発した。その本の欠片は彼の手元に集まっていき、また元の姿を取り戻した。


「“御神みかみよ―――、我に力を”」

「はぁ? いきなり何言い出すんだよお前ッ」

「“御神に風を操る力があるのならば、我にその聖なる力をッ!”」


 彼の手から無数の光があふれだし、リクルを強い風で教室の中へと押し戻した。そして、教室の中を強風が荒れ狂い、いじめっこ達を角という角にぶつけていった。いじめっ子達は声もなく倒れ、気を失っていった。


「―――ッ!」

「今さっきあったことはナイショだよ、リクル君?」


 彼はリクルの額に手を翳し、一瞬にしてリクルの記憶を消した。しかし、消えたのは今あったことだけで、彼に都合のいいようになっているだけだ。


「あれ……? なんでこんなところに居るんだっけ、おれ。と、そして小林君……」

「確か忘れ物をしたって言ってたでしょ? ハイ、コレだよね」

「おお! ありがと、小林君。……ところで、こいつらはどうしたんだ? こんな所で寝ちゃって」

「君が僕をたすけてくれたんだよ、リクル君。本当にありがとう。よかったら、友達にでも……」

「お、いいよ。おれだって友達多い身じゃないし、反対に欲しかったからね!」


 こうして、リクルと昇の間に新たな友情が芽生えた。……正直のところ、リクルはいまいち状況が掴めていないのだが。しかし、この不思議な友情は後で新たなる運命を生み出すこととなった。




























「なんでこんなところに居るんだ……昇」


 リクルはそれから言葉を失い、昇を茫然と見つめた。敵と化してしまった―――元親友を。


「なぜ、彼がここに居るのかって? 彼が居たらおかしいのかしら」


 昇の隣には茶髪で長髪の少女が立っていた。瞳は空色に近く、真っ黒なドレスは彼女に不似合いだった。……どうやら、二人はなにかの術によって上空に浮いているらしい。おれたちは飛龍に乗っているから空に居てもおかしくはないのだが、生身の人間ではとうていありえないのだ。


 その時、ルヒラルティーとヴィライツがいっせいに唸り声を上げた。振り返ると、険しい顔をしたフレイアが居て、その後ろには強張った表情のグレイルと剣を抜きつつあるレムトが視界に入った。


「カレニアス……。カレニアス・ジュリアウス、何故貴様がっ!」


 レムトはヴィライツの上から飛び出し、カレニアスと呼ばれた少女のもとへと突進した。そのとき、おれの真横を通り過る際に風にまぎれてこう言った。


「若、オレのご無礼を、お許しください……」

「レムト!?」


 おれが叫んだときにはもう遅く、炎をまとった剣をなびかせながらカレニアスの胸を貫いた―――ように見えた。しかし、カレニアスの姿は揺らぎ、そこにはただの風が残っていた。


「カレニアスッ! 貴様は若を騙し、事故死として若を殺そうとした!! その罪、自分の死をもって償えッ」


 レムトは振り向きつつ、眼前に炎の剣を振った。そこには確かに手ごたえがあったが、カレニアスも既に剣を抜いていて、彼女自身へのダメージは皆無に等しかった。

 

 カレニアスはレムトの剣を防ぎつつ、唇の端を少しだけ上げて笑った。レムトはその態度に相当怒りを覚えたらしく、顔に青筋を浮かべている。



「あたしは数百年前に魔獣族から抜け出した、ただの流れ者だ。お前らのルールに従おうという気はない。あたしがリクルを殺そうと、関係ない。しかし、レイミランに任せたのが悪かったな。あいつは出来損ないの愚図だから、リクルを殺そうとは思わなかったのかもしれないからな……」

「自分の双子の妹なのに何てことを言うのだ、カレニアス! レイミランは立派な魔獣族だ。オレたちは裏切ろうなんか思ってもいないッ!!」

「……さっきからいちいち五月蝿うるさいわよ、レムト―――」


 カレニアスは自分の胸に手を翳し、静かに呪文を詠唱した。


「“御神よ、我に力を……”」


 ―――どこかで聞いたことのある、呪文だった。


 しかし、魔獣族の呪文とは全くタイプが違うし、魔獣族が神を信仰しているなんてありえない。そもそも、魔獣の森やその周辺に教会などなかったのだ。もちろん、日本にあるような寺や神社もなかった。


「“御神に光を操る力があるのならば、我にその聖なる力を―――!”」


 ―――その時、空白だった記憶が蘇ってきた。男子生徒共にいじめを受ける昇、それを助けに入ったおれ。風に吹き飛ばされるいじめっ子に、おれの記憶を消そうとする昇……


「“光の剣 (シャイニング・ソード)、発動!」


 大きな光の剣が上空に出現し、それ大きな破壊力を伴ってレムトの頭上に落ちた。誰も止めに入る暇もなく、爆発音とともにそれは落下していった。


「レムトッ!」


 おれは無意識のうちに紅いシールドを頭の中に思い浮かべた。いや、それはシールドなんかじゃない。リフレクというシールドよりも強い力を持つ防御壁だった。


 ―――爆発音は消え、その代わりに血のように紅い壁が目の前に立ちふさがった。リフレクが運良く張られたのだ! しかし、その代償なのか体中に鈍い苦痛が走った。フレイアが背中を支えてくれなければ、後ろに倒れてしまうところだった。



小賢こざかしい魔獣族共めッ! “御神よ、我に力を。御神に光を操る力があるのならば、その聖なる力を我に! ―――天からの裁き(ジャッジメント・フロム・へヴン)!”」


 カレニアスの手から眩い光が溢れ出し、空を一瞬にして覆った。それは沢山のいかずちとなり、おれたち目がけて降り注いできた。


「“ロック・シールド!”」


 フレイアが呪文を省略し、一瞬にして目の前に岩の壁を作った。雷は壁に跳ね返され、その威力を失っていった。しかし、岩の壁も力を失い、所々で崩れ始めた。


「加勢するッ! “氷の術、発動! 我が氷の術者であることを、己が血をもって誓う。 ―――全体冷凍、発動”!!」 


 グレイルはどんなものでも凍えさせるような冷気を両手から生み出し、空をその冷気で覆わせた。すると、空気中にあった水蒸気が凍結して無数の氷の牙を生み出し、加速しながら落ちてきた。


「みんなッ! シールドを張るんだっ」


 グレイルの掛け声と共にレムト、フレイアはシールドを張ったが、おれはそのままでしか居られなかった。まだ足腰に力が入らない。フレイアもレムトも遠くに居るし、間に合わない―――


「“ウイング・ストーム!”」


 また略式の呪文が飛び交い、おれのまわりを覆った。味方に風を使える者は居ても、今はここにいない。カレニアスは光の属性らしいし、もしかしたら―――



「昇……?」


 視線の先には、敵に回ったはずの昇が居た。その瞳は以前と同じように優しく、明るく見えた。しかし、その手には幻術の本が握られていたし、傍にはカレニアスだって居た。


『リク、キミはここに居てはいけない存在なんだ。必ず僕が助け出してみせる。今はカレニアスに付いていることしかできないけど、時間がくれば僕はキミを元の世界へと連れていってあげる。きっと、キミを護ってみせるよ―――』


 気のせいか、と思った。昇は一切唇を動かしていないし、この“声”は実際に聴いたものではない。頭に流れ込んできたのだ。しかし、昇はおれを見るととても優しい顔で笑った。その笑顔が何を意味するかなんて、分からなかった。




 おれは本当に、この魔獣族の中にいることが一番ベストなのだろうか。実は魔獣族なんかじゃなく、幻獣や神族の仲間なのかもしれない。何かの失敗で、こちら側に紛れ込んでいるだけかもしれないのだ。


「フレイア―――。おれの居る場所はここで、本当に合っているのかな?」



つづく

更新が遅れてごごごごごめんなさ〜い(汗


次回、 第08話 幻獣の刺客! その3


ヴァンパイア達のリーダー、クランド・ヴァン・リースが幻獣を率いる者、小林昇と大決闘!?


一方、二つの種族の間で揺れ動くリクルの運命は!


次回もお楽しみに〜☆


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