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第06話 幻獣の刺客! その1

 ―――聞きなれない、聞きなれない声が頭の中で囁く。


 まだ死にたくない。眼を開けても、浮かび上がるのは血の色だけだ。


 真っ暗闇に一人だけ置き去りにされた感覚がある、やっぱり、おれは死んだのかな?


『リクル―――』


 聞きなれた声で、誰かがおれの名前を呼ぶ。おれはその声のする方へと手を伸ばし、そこからあふれてくる光の中へと入って行った―――


















「……良かった! 本当にダメかと……」


 そこには、安心した顔のフレイアが居た。眼を開けた瞬間、一瞬だけ焦りの表情が見えたがそれもすぐに引っ込んだ。


「今度から眼を覚まさない時には『リクル』って呼んだ方がいいですね。『若』じゃ少しの反応も示さなかったので」

「いや、これからもそう呼んでよ、フレイア」


 おれは彼の胸に顔を埋めた。フレイアも微笑み、頬を撫でてくれた。それを見たレムトとグレイルが何故かおもいっきり睨んできているが、そんなのはお構いなしだ。……だって、数日ぶりに会えたんだから。


「若……リクルと別れた後、幻獣と戦いになってしまって。そこまでは良かったんですが、急に吹き飛ばされてしまったんです。運よくドラゴンフォレストにたどり着けたのですが、全く違う方向へ行っていたら……。考えるだけでも恐ろしいことですよ」

「はは、何言うんだよ。おれだってフレイアと会えないなんて悲しいさ。……ところでここはどこ? おれは、一体何をしたの」


 そう尋ねると、みんな黙ってしまった。誰一人として喋ろうとはしないし、フレイアも笑みを浮かべるだけで何も答えてくれない。


「なんでだよ! おれ、そんなに大変なことやらかしたの? ……みんなに、迷惑を掛けちゃったのか?

「いえ、リクルは何もしてしません。それよりも、反省しなくてはならないのは俺の方だ。リクルの元に付かなかった俺が悪い。自分を責めないで。分かりましたか?」

「………」


 フレイアはおれを地面に下ろし、手を引いて立たせてくれた。その辺りは一面焼け野原と化していて、何もなかったなんていう根拠はどこにもない。なぎ倒された木々や焼けた花が、とても痛々しかった。


「古龍―――リアレイズは説得のもと、龍族を静まらせることを誓ってくれました。それは良かったのですが、リクルがなかなか眼を覚まさないもので。みんな心配したんですよ?」

「でも……」

「いいんです。貴方は何も悪くない。今、ここに無事で居てくれるだけで十分だ」

「さすがたな―――フレイ。若をあっという間に説得させちゃって」

「これも長年の経験というのか、それとも“あれ”が原因なのか……」


 レムトは例のボエー笛を吹いた。すると、大きな足音と共にルヒラルティーとヴィライツが現れ、2体同時に『グゥーン』と鳴いた。


「リクルは、俺と一緒に乗りましょう。グレイルはレムトと、それでもいいか?」

「僕は構わん。それでリクルが安心できるなら」

「オイオイ、仕方なくーっていう風に聞こえるだろー。オレだって若の為なら、の了解なんですからネ☆」


 語尾に星マークを付けつつ、レムトはまたウインクした。意外と彼にはウインクが似合うかもしれない。


「こうなったらさっさと行くぜェ! ルヒラルティー、ヴィライツ!」

『グゥゥゥゥゥーン!』


 2体はいななくと同時に、つばさを羽ばたかせて空へと舞い上がった。昨日、古龍にであったばかりかやけにワイバーンのような2体の姿が新鮮に感じる。4本足のドラゴンもいいけど、やっぱり2本足のワイバーンもいい。……あれ、そういえば地球とクローン世界とでは呼び方が違うんだっけ。ま、いっか。




























「本当に無事に着いたのか、ジークの奴……」


 現魔獣王のラインは今日も大忙しだ。さまざまな魔本を読み解き、書類にサインし、軍に命令を出しつつ、ウェーブで他の魔獣族達の居場所を探る。……ジークは知らないが、どうやらリクル達はグレイルと、おまけにフレイアとも合流できたらしい。姉のアリスはグレイルの無事を聞き、とても喜んで見えた。


「と、言っても私たちは異父姉弟ですから。それに、義父上だってグレイルの父親の兄なのですから、正真正銘の父ではないのです!」

「誰に向かって説明しているのだ? ……まあいい。とにかく、お前らの義父上、ヴェルグスをここに呼んでくるがいい。ヴェルグスの魔力は強いから、一人だけでウェーブを張り巡らせるよりかはましだろう。……そういえばアリス、今の義父上はどうだ?」

「何をおっしゃるのです、ライン陛下。ヴェルグス義父上は心から尊敬しておりますし、あたしたちを捨てた父親共の何倍も、いや何十倍も何百倍もあたしたちを思って下さる、立派な軍人です」

「……そうか」

「お呼びですか、陛下」


 ノックもなしに王室に入ってくるのはここに居るアリス、そしてラインの部下の一人―――ヴェルグスだけだ。ラインはそちらに顔を向け、笑顔を返すとまたウェーブ探りを始めた。


「さすがは、ヴェルグスだ。私が実際に呼ばなくとも、お前はウェーブだけで私の意を感じ取る」

「恐れ入ります。長年陛下の部下ですから、もう馴染んでしまったようなものですよ」


 彼、ヴェルグスは黒に近い、グレイルと同じ翡翠色がかかった長い髪を背中に垂らし、濃い青色の軍服を着ていた。魔獣族の中でも1、2位を争う長身で、ヴェルグスとジークを見極めるには髪の色と魔術だけだと言われるほど背が高い。先ほどの会話の通り、アリスとグレイルの義父でもある。ちなみに、年齢は456歳とジークよりも4歳年下だ。


 ヴェルグスは左頬に黒い傷を残している。ちょうどラインが両頬にあるような、とても目立つ傷だ。それは約150年ほど前に神族、そして幻獣族相手に起こった大きな戦争で、死傷者が魔獣の森の民の半分以上にも至った。その時、まだ子供だったアリスとグレイルを拾ったのが彼だ。二人の命は助かったものの、頬の傷は癒えなかったという訳だ。


 魔獣族、それに魔術や魔法を使う者はある程度で老化と成長を止めなくてはならないと言われている。それは魔術や魔法を使うとき、絶対に誓わなくてはいけないことで、ラインやジーク、ヴェルグス、それにフレイアやレムト達はこれ以上成長や老化はしないのだ。―――しかし、寿命というものはある。魔術や魔法を使う者達の中で一番長命な魔獣族でも、平均2000歳だと言われている。不老だとしても不死ではないのだ。


「ちなみに、若はどの辺りにおられるのでしょうか? ある程度位置が分かると、細かい状況まで確認することができます」

「大方レクトスラルドか、ミサロオ辺りだろう。ドラゴンフォレストに居なければいいが……」

「―――! 見つけました。運悪く、ドラゴンフォレストの真っただ中に居ますね。しかも近くには……“幻獣の刺客”だって居ます。安心はできません」

「“幻獣の刺客”か……。ジークは当てにならないだろうし……仕方ない。ヴェルグス、そこへ向かってくれ」

「それならあたしがっ!」

「アリス。お前がグレイルを心配する気持ちは分かる。だが、ここをお前に任せるわけにはいけないんだ。お前は魔女だとしても人間だ。私はお前を危険な目に遭わせたくない―――。分かるな、アリス」

「しかし、陛下……」


 ヴェルグスはラインに一礼すると、まだ止めようとするアリスを置いて立ち去って行った。アリスはヴェルグスにあと一歩で届きそうだったが、ラインはそれを軽々と制してしまった。


「陛下……」

「アリス、お前がヴェルグスを思う気持ちは分かる。だが、ここは自分の義父を信じてやってもいいのではないか?」

「……そうでずね、自分が間違ってしました。あたしは義父上にすべてを任せます。では、その代わりにここで実験をさせてもらっても宜しいですかぁ?」

「うっ……し、仕方がない。思う存分やればいいさっ!」


 その時を境に、王室からどす黒い煙と悲鳴が聞こえたのは記すまでもない。

























 ―――雲が手に届きそうだ。でも、てのひらは虚空だけを掴み、風の感覚だけが腕に残る。なんて虚しいんだろう。


「どうした、リクル。また腹でも減ったのか?」


 ヴィライツの上に乗っているグレイルが手を振りつつ、叫んできた。風が強くて小声ではとても届かない。


「減ってないって〜。なんだか虚しいんだよう。だだっ広い空をフワフワしてるのもいいけど、なんだかさぁ〜」


 そう。おれたちはあれから1日ほど、また果てしない空を低速飛行しているのだ。下に広がるのは森だけだし、西の方角にはちょこっと海が見えるだけだ。いつになったら目的地に着くのだろう。


「次の目的地は磁場の街、ミサロオですよ。ミサロオの地下には大きな磁石のようなものがあって、小さな鉄ならすぐ引き寄せられてしまうんです。昔そこに行ったことがあるのですが、いろんなところから鉄が飛んできて結構危なかったですよ〜」

「そう笑顔でいうなよフレイア。なんだかとっても怖くなってきただろ。んで、その街まではどのぐらいかかるの?」

「大体数分間で着きますよ。もうちょっとの辛抱ですから」


 フレイアはそういうとルヒラルティーの手綱を引っ張り、速度をまた速めた。おれは振り落とされないようにルヒラルティーの首に捕まり、姿勢を低くした。


「リクルがそうおっしゃるのならば、俺らはただ従うのみ―――。いいでしょう。10分以内に着かせてみせます。こう見えても飛龍には慣れているんですからね。……レムトほどではありませんが」

「嬉しいねェ。オレの事を褒めてくれるなんて、ホントに久しぶりじゃねェか」


 レムトはふてぶでしい笑顔を浮かべ、先頭を行くルヒラルティーの後ろに付いた。風を切る音が自分の体に響き、とても気持ちがいい。


地面にはやっと小さな村が見え始め、目的地に近づいているのが分かった。よく目を凝らしてみると、あちらこちらに大きな鉄の塊が見える。ここでは鉄も普及しているのか。



 ―――ちょうどその時、目の前に人の影が見えた。またあの時のような展開がないかと不安になり、ヴィライツに乗るグレイルの方を向いた。


「グレイル……は吹き飛ばされていないよな」

「何をいってるんだ? 僕はきちんとここにいるぞ」

「じゃあ誰なんだ? あの、空に浮かぶように突っ立ってるのは―――」


 おれはそこで息を呑んだ。その人影には見覚えがある。後ろだけが少しはねた髪型、長い前髪。それに、一番目立つのは手首に分厚く巻かれた包帯―――。


「昇……? 小林昇こばやし のぼるなのか」


 そこに立っていた少年におれは見覚えがあった。おれの親友でいじめられっ子的存在、小林昇。そして、その隣に立つ少女は―――。




つづく

いきなり現れた新登場のリクルの親友!

彼は味方なのか、それとも敵なのか―――


次回、第07話 幻獣の刺客! その2


お楽しみに〜☆

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