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第02話 儚き夢の結末に 後

 ――森は、とても明るいなんて言えた物じゃなかった。




 薄暗いどころか、不気味な禍々しさだってある。裏庭にある森とは大違いだ。真っ暗で、前も見えない。自分の足元を確認するだけで精いっぱいだ。


 ……今にも何か怪物みたいなものが出てきそうだ。おれは時々動物の鳴き声や小枝の折れた音に悲鳴をあげながらも、無事に森の奥へと到達した。


「ここは……何かの神殿か?」


 そう。まるで“神殿”と言って良いほどの神々しい真っ白な廃墟だ。地球の風景とは程遠いような―――。そこだけ月明かりに照らされていたから、そう見えただけかも知れないけど。


 ―――人の気配どころか動物すらいない所だけど、本当に神秘的で言葉で表現するのは難しい。今になって祖父母と両親の言葉を思い出してしまう。『神の裁き』……。恐ろしいものだ。




 真っ白な壁に触れてみる。結構見た目とは違い、頑丈だ。それが壊れないことを確認すると、おれはその中に足を踏み入れてみた。中身も思ったより広い。そしてなにより綺麗だ。


 でも、神殿の奥はとても真っ暗だ。外壁とは大違いで、中は黒に等しい。手探りで壁を伝い、神殿の奥へと一歩ずつ進んでいく。


 何かが手に触れる―。物なのか生き物なのかも分からない。動かないところからすると、どうやら置物か何かのようだ。一安心していると、また何かが手に触れた。形からして……十字架だ。


 割れた窓から月明かりのか細い光が差し込む。その青白い光にハッキリと十字架が浮かび上がった。今まで色々な十字架を見てきたが、これが自分なりに一番美しい。銀色に輝くそれは、何か神々しかったけど、同時に禍々しかった―――




「………!? ……?」


 おれは驚いて飛び上がってしまった。いきなり後ろから声を掛けられたので、ほんの少し漏らしてしまったかと思ったじゃないか。何を漏らしたって? それは……


「…………! ……?」


 おれはいきなりの美形登場にビックリした。でも、よく見ると美形に見えたのは髪型とその服装だけで、その美形はとても眼が細かった。開いているのか? と聞きたいほどだ。っていうかこの美形はさっきから何を言っているのだろう。どこかで聞いたことのある言葉だが、おれはなんと言っているのかが分からなかった。


「………? …、……。ああ失礼。貴方はここで何をしていらっしゃるのですか?」


 やっと彼が何を言っているかが分かった。どうやら共通語らしき言葉を使ってくれたらしく、おれは心から安心した。


「ゴメン、おれが勝手に入り込んじゃってさ。いつのまにか森の前に飛ば……道に迷っちゃって、こんな薄暗い神殿まで来ちゃったんだよ。びっくりしたなぁ……もう」

「……なるほど。だからと言って勝手に入り込んでは……」




 おれの姿が月明かりに照らされた瞬間、彼はあごを外しかけるほどに口を開け、慌てておれの前にひざまづいた。って何で!?


「も、申し訳ありません! 若っ わたくしとしたらまだ若のお顔を覚えておらず、とんだ無礼を働いてしまい……」

「え!? ど、どういう事だよっ おれは若でもないし、あんたの知人でもないって!!」

「何をおっしゃるのです? その茶褐色のお美しい御髪、そして暗黒色の済んだ瞳は間違いなく我らが主、“魔獣統一国 国王”略して魔獣王としてふさわしい者ではありませんか。特に貴方のお首にお下げになられた、『深紅の心』が若であられるということをお示しになっております!」


 彼はおれの前に跪いたまま、おれが慌てるのをずっと見つめていた。いきなり目の前で跪かれ、王がなんたら深紅のころろ? だとか訳分からない事を言われた。よく見ると、首に血のように赤い石のペンダントが……っていうかその前に、ココは何処!? 私は誰!!


「ああ、若。貴方はまだあちらの世界に居られたのですね。これは失礼。私の名はジーク・ベリス・アリビス。魔獣ペガサスを司っております。どうか、ジークとお呼び下され、我が主」


 ジークは頭を垂らし、おれの前で深々と一礼した。ジークの背には白く光る大きな翼が生えていて、ペガサスのようで美しかった。


「じ、じゃあジーク。ここは何処で、おれは誰なんだ?」

「ここは“魔獣の森”。つまり、やがて貴方の国になるのです。貴方のお城もここにあります。そして貴方様は偉大なる創立者、『初代魔獣王』を前世に持っていられる、『第30代目魔獣王』候補なのです。リクルァンティエリル殿」




 いきなりのカタカナ連発に、おれは驚いて目を見開いた。脳が瞬時に解析できなかったのだ。


「り、りくるぁんてぃえりる? おれはリクル・エリルじゃなかったっけ!?」

「ああ。確かに、前世の若はご自分のお名前を略され、そう呼んでいらっしゃっていましたね」


 どうなってるんだ……? ここはおれの知らない古代風の森で、しかもおれがその森の王!? なるほど。ここは夢の中なんだ〜。だからこんなファンタジックな世界観が……


「!!」


 上を向いた瞬間、建物が崩れ始め、いきなり柱がこっちに向かって倒れてきたのだ! おれはジークに引っ張られ、彼の後ろで身を低くしていた。




「“水の術、発動! 我が水の術者であることを、己の血をもって誓う!!”」


 ジークが呪文のようなものを叫び終わると、おれたちのまわりを水の壁が取り囲んだ。ジークの真珠のような髪に降りかかる水飛沫を見て、おれはこう呟いてしまった。


「やっぱり夢なんだ……」

「若、大丈夫でしょうか? まだ若はこの地にお慣れになられてはおりません。魔術をお使いになられるのは危険です。……助けが来てくれればいいのですが」


 ジークは魔力(?)を駆使して、押し寄せてくる建物の瓦礫を受け止めようとした。しかし、大きな瓦礫は水の壁をも突き破り、おれたち目がけて落ちてくる――


「っ!!」





『“地の術、発動! 我が地の術者であることを、己が血をもって誓う!!”』





 呪文らしきものが降り注いだのをきっかけに、突然岩の動きが止まった。おれは安堵の溜め息を就いている暇もなく、大きな手に掴まれた。それに抱え上げられるようにして神殿を脱出した。




























「……もう目を開けていいですよ、若」



 ――おれはその言葉に従い、恐る恐る目を開けてみた。そこには地面や壁はなく、風だけが勢いよく吹いていた。……つまり、空中に浮いているのだ。


「お気づきになられましたか、若? ……良かった、無事でしたか!」


 おれが顔を上げると、そこには優しそうな笑みを浮かべた、これまた美形の青年がいた。――おれと同じ茶褐色の髪に暗黒色の瞳。髪の長さもそっくりだ。外見からして……彼もハーフか何かなのだろうか。




「若、こんな所で申し訳ありませんが、俺は貴方の忠実なる部下、フレイア・グリア・アロスと申します。魔獣グリフォンを司っております」


 その青年―――フレイアは背中に鷲のように茶色で巨大な翼を生やしていた。まるで、彼の言う通りにグリフォンの能力を持っているようだった。


 おれが本好きで、魔獣や幻獣に詳しいのに今初めて感謝した。


「これは魔術の一種ですよ。俺はグリフォンの翼を持ち、ジークはペガサスの翼を持っているのです。俺らは地球では一般に魔獣と呼ばれる獣を司る一族――“魔獣族”なのです」

「ま、魔獣族って?」

「時期にお分かりになりますよ」


 フレイアは人なつっこい笑みを浮かべると、おれだけに聞こえるよう「逢いたかった……」と囁いた。おれはフレイアを見上げ、ふと疑問を持つ。


「あの、どこかでお会いしましたか?」

「遠い……昔の異世界で」




 フレイアは意味不明な言葉を呟くとおれを強く抱きしめ、崩壊した神殿を一望できるような高い位置へと飛び上がった。そこはとても大きな森で、裏庭の森とは比べ物にならない原生林だ。動物園でも楽にできそうな敷地だった。学校よりもハンパないほどデカい。


「若――、ここは貴方による、貴方のための、貴方の森です。俺達は貴方だけに使える、ただの主想いの召し使いだと捉えてください」

「め、召し使い? メイドさん!? うぷ……」


 フリルエプロン姿の二人を想像してしまい、急に吐き気がこみ上げてきた。自分の想像力を今、初めて後悔した。……っていうかこの森がおれのためってどういう事? いつのまにおれはこの森の地主になっちまったの!?


「ここは先ほど私が申したとおり貴方のためにある森、“魔獣の森”なのです。この森には我ら魔獣族と魔族、魔法使いが住んでおります」

「え? 森に住んでるの??」

「ええ。この森はクローン世界の中でも一番壮大な森です。……そうですね。若のいらした世界で言うと、ニホンにあるトウキョウドームの約50倍かと」

「えええええ!? ご、50倍だって? ……じゃなくて、ここクローン世界? クローン世界って何なの」


 おれがいきなりパニックになったのを見て、ジークとフレイアが溜め息をついた。フレイアは何か心当たりがあるようで、おれに少しだけ苦笑いを見せた。





 しばらくの空中浮遊を終え、地面に降り立った時は何か変な感じがした。やっぱり重力に逆らわないことに慣れてしまうと、体が重くなって仕方がない。


「クローン世界とは、地球と並行に存在する異世界なのです。まぁ、彼らにとっては俺達地球人が異界人なんでしょうけどね」

「確かフレイアがここにやってきたのは約330年ほど前でしたね。私はもっと長生きなので、多くの事を語れますが……」

「3、330年!? ってアンタら何年生きてるのっ」

「俺が353年で、ジークが410年生きていますよ」













はあああああああああ!?


















 ―――この世界は、地球と並行に存在しているらしい。


 そして同じように時は流れ、生き物は生きていくんだ。でも、地球とは大きく違ったことがある。それは、化学に代わって変なものが発達してしまったということだ。




 地球では魔族と呼ばれる『魔獣族』、人間そっくりの『魔族』、それに訓練を積んだ魔術使いや魔法使いは“魔術”、“魔法”を使うことを許されている。


 それに『神族』や『幻獣族』と呼ばれる、魔獣族曰く“偽りの神”なる存在も現れたのだ。彼らは“幻術”を使い、魔術に対抗しようとしている。そして、彼らのように変な“術”を使う者たちは異常なほどに長生きをする。最高で2108歳だ。これは夢としか思えない。




「もう一度言いますよ、若。これは夢なんかではありません。私たちは普通に存在し、生活しているのです。……簡単なことはすべて話しました。あとはご自分の目で是非とも確認になられて下さい」


 ジークはまだ「夢!」と言ってきかないおれを説得しようとしている。でもおれは絶対信じないからね! まだはっきりとした根拠が……魔術は見せてもらったけど、完全なる根拠がないんだ。


「それにしても、おれは何のためにここへ呼ばれたんだ?」

「若は次期魔獣王になられるために……」

「それは私がお前を呼んだからだ、リクル」


 いきなり黒い人が目の前に現れ、ジークとフレイアがその人の前にひざまづいた。多分この二人よりも彼の方が身分が上なのだろう。彼、黒い人は黒いローブに身を包んだ、赤髪赤眼の男だった。両頬に赤い傷があり、闇夜に浮かぶ炎のような外見だった。


「えーと、貴方は……」

「私はお前を迎えに来た者、ライン・ヘル・シルヴァンだ。私の近くにワープさせたつもりだったが、とんだ間違いを犯してしまった……」


 本人はそう言いつつも、全く反省していないようだった。切れ長の赤い目が「俺は一切反省する気はないね!」と言っている。ラインは首だけ後ろを向き、崩壊してしまった神殿を眺めた。


「ここも崩壊してしまったか。『ワープ・ノイズ』を発動させることが難しくなったな……」

「あの、一つ聞いていいかな、ライン……さん。おれはこれから何をしたらいいのかな? なんのためにおれはここに呼ばれ、どういう理由があって……」


 ラインは溜息をつくと、容姿には似合わないような具体的な説明をしぶしぶしてくれた。


「“魔獣統一国 第30代目国王”、つまり私の後を継いでもらうべく、私はお前を呼んだのだ。我々<魔獣の騎士>を“偽りの神”との戦いで勝利に導くためにな、リクルァンティエリルよ」

「リクルァンティエリルって……誰のことだよ? まさかおれ!? まさかまさか」

「!! まだ教えていなかったのか、ジーク!?」


 ジークは何故私だけなのですか、という顔をフレイアに見せた。フレイアは華麗に無視し、またおれに微笑みを向けた。


「俺から説明しておきます。若、貴方は初代魔獣王“リクルァンティエリル”殿の生まれ変わりなのです。もちろん、貴方には当時の記憶なんてありません。しかし、貴方の祖母、マリア・エリル前王は貴方に初代と同じ名を付けた。ただ貴方がたはそれを略されてお呼びになられていたのです」

「なるほど……。それなら納得いくかも」


 おれの名前はばぁちゃんから付けられたんだ。てっきりお袋かと思っていた。でも、前世といえどおれにとっては他人だ。その人の所為で、こんな変な名前と運命を辿らなくてはいけないのか。


「ってばぁちゃんが前王!? どうなっているんだよ、おれの家族っ」

「若、貴方の一族は皆、初代魔獣王の血を受け継いでいるのです。だから度々貴方のご家族から魔獣王が選ばれるのです。そう難しいことではありません。それに、貴方のお父上は初代の義妹君、クレアリス・リゼルの末裔なのです。貴方はほぼ純粋に近い血をもって、お生まれなさったのです。」


 フレイアがさらりと言った。今までそれを教えてくれなかったばぁちゃんや親父もどうかと思うが、まさか自分の一族がこんなものすごい世界の王となれるなんて、それが驚きだ。


「やっぱり夢なんだ。あまりにも都合が良すぎるよ〜」


 おれが呟くのを無視したラインは、ジークとフレイアに一度顔を向け、うなずくとおれの腕を強引に引っ張り、魔獣の森の出口に向かった。


「ら、ライン? 何処へ行くの」

「……お前は3日後のから我ら魔獣族の王、“魔獣王”となる。だからお前を魔獣族にするべく、地球への別れを告げなくてはならん。そのためにも『ワープ・ノイズ』を発動させ、もう一度地球に飛ばなくてはいけないのだ」

「え!? 3日後! それっておれの誕生日じゃん。そんなに早くしなきゃダメなの?」

「ああ。もう時間がないんだ。じゃあ行くぞ? 『ワープ・ノイズ』、発動!!」

「ひょぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」




 おれは奇妙な叫び声を残し、ラインと共に生まれ故郷の地球へと向かった。おれには分からない。これからどうなるかなんて……。




















『ど、どうしよう!? あたな、リクルがいなくなっちゃったんたんよの!!』

「落ち着け、リリス! いまからそちらへ向かうから!」


 リリスの夫、つまりリクルの父の苗字は『ユウキ』。勇気でも結城でもなく、有機物の『有機』だ。母親には3つ上の息子そっくりの兄が居たらしいが、予想もしなかったほどの悲惨な事故で25年前、つまりリリスが10歳の頃に亡くなってしまったらしい。だから当然、妹のリリスがエリル家を継ぐことになり、Mr.“有機”は研究所内だけで呼ばれる名になってしまった。でも、実はリリスやリクルは今でも有機と呼んでいるらしいが……。


 有機は我が愛する息子の行方不明という緊急事態に、急いで車を病院まで走らせていた。雨で視界が悪くなっているが、今はのんびり進んでいる暇などない。早く探さないと、もし、リクルの身に何かがあったら……


「わああああああっ!!」

「ええええええええ!?」


 有機は危うくハンドルを切り損ねる所だった。何故かと言うと、いきなりミラーに二人の人間が映り、後ろのシートに落っこちてきたからだ。……正確に言うと、一人は魔獣族でもう一人は行方不明中の我が愛する息子だった。


「リクル……ともしかしてライン!? なぜこんな所に?」

「お久しぶりです、Mr.有機。リリス殿はお元気で?」

「ああ。ありえないほど元気すぎるよ。でも今はパニックに陥っているけどね。ところでライン、君は何故僕の愛する息子を?」

「そのことですが、もう“時期”が来ました。次の魔獣王をお呼びする時期が……」


 親父は「そうか」と小さく返答すると、運よく近くにあった公園に車を止め、屋根付きのベンチに腰掛けた。親父のあまりにも冷静な態度に、変な疑問を覚えてしまうほどだった。


「……ところで親父はラインとどんな関係があるの? 見たところ、知り合いそうだけど……」

「父さんは昔、マリアにリリスを紹介されたときにラインと会ったんだ」


 ちなみに、マリアというのはお袋の母親、つまりおれの祖母だ。さっき、“前魔獣王”つまりラインの前の代とか言われていたのもマリアだ。本当はもっと長い名前だったけど、今はほとんどの人が『マリア』と呼んでいる。


 そういえば昔、親父は祖母からお袋を紹介され、そのまま付き合い始めて一ヶ月で結婚したと言っていたな。ものすごく早い結婚で、おれもそれから3年後に生まれたらしい。とても早い息子誕生だ。


「マリアは28代目で、ラインは29代目。次の魔獣王となる人物を捜していたとき、僕とリリスはお見合いしていたんだよねー。そんなの教えてもらうまで気づかなかったよ。そういえばその時、ラインは変な軍服を着ていたよね。……話ずれちゃったけど、そこで運良くヒットしたのがお前、リクルなんだ。多分聞いたとは思うけど、リクルは初代魔獣王の……誰だっけ?」

「リクルァンティエリルです」

「そうそう。彼のご来世であって、彼の遺言によるとお前は30代目魔獣王になるって義務づけられていたんだ。だから僕はマリアから助言を貰い、息子の名前も『リクルァンティエリル』と付けた。今までだれも呼ばなかったけれどね。理解OK?」

「う…うん、大体。んで、おれはさっきクローン世界に行ってきたけど、そこでしばらく魔獣王として過ごさなきゃいけないワケ?」


 ラインはそうだ、と言って頷いた。親父は「いいな、いいな 魔獣王っていいな。父さんもクローン世界に行ってみたいな よその国」とどっかの童謡混じりに言った。


「でも、厄介なことになるんじゃないかなぁ。リリスはリクルが次期魔獣王になるなんて知らないし、僕はともかくリリスは魔獣族になんの縁もないからね。だからかえってパニックを起こすんじゃないかなぁ……」

「ご心配なく、Mr.有機。私は記憶操作の魔術や、時間を止める魔術も使えますから。“風”の魔術は時と空間を操りますので」

「ああそうか。そういえばラインは色々な術を使えるんだったね。すっかり忘れてたよ」


 親父はそう呑気に言うと、おれの胸にいつのまにか収まっていた石に触れた。そして俺の手に自分の手を重ね、こう言った。


「リクル、お前は魔獣族の王に選ばれたんだ。これは胸を張っていいことなんだよ? 父さんとおばあちゃんが後はどうにかしておくから、安心して行っておいで」

「親父……」

「それからライン、君にも忠告しておくよ。もし、リクルを傷つけるような真似をしたら……僕が許さないからね。それと、魔獣王の任務が終わったらリクルを地球に返すこと。僕らも一応魔獣の血を受け継いでいるから、ほんの数十年なら余裕で待てるさ」

「……仰せの通りに」


 ラインはそう言うと、公園のど真ん中でおれと親父に向かって跪いた。跪くのが好きだなー、と正直思ってしまった。親父がラインに握手を求めると、ラインはそれに力強く答えた。


「リクル……そろそろお別れだね」

「親父、いや父さん……」

「別れは辛いけど……あ、そうだ!」


 親父はスーツのポケットに手を突っ込むと、緑色に輝く宝石付きのブレスレットを取り出した。紐の結び目を解くと、そっとおれの左手首に結びつけた。


「実はリリスにあげるつもりだったけど……これを父さんの代わりだと思ってね。父さんも母さんはずっとお前の事を想っているよ。向こうの世界でも……元気でね」


 言っちゃ悪いが、おれは今初めて、親父のおれを思う気持ちを感じ取った気がした。ラインはおれには分からない呪文を呟き、親父ともう一度握手を交わした。だんだんと足が地面から離れ、ワープが始まったのが分かる。おれはただ親父を見つめ、もうこれから会うことはないのだと悟った。


第3話に続く。



ジーク「ジッ苦りしていってね!!!!!」


次回もお楽しみに〜

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