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第16話 偽りの姿!?

「リクル!? リクルッ!」


 グレイルが何度呼んでも、煙が晴れることはない。自分の右腕にも木の枝や岩の破片が突き刺さっているが、そんなことを気にしているほど余裕でもない。


 ……自分の従えると決めた主が、一瞬にして爆風で吹き飛ばされてしまったのだ。主の身の安否を心配しない臣下が、どこに居るのだろうか。


 グレイルは剣を地面に突き刺し、それを杖代わりに体を支え、もう一歩前に踏み出す。足も痛むと思ったら、右足の数か所に切り傷があった。


 ―――右半分だけでも無事で良かった。今は自分の将軍と同じ灰色の軍服をふと見、これが借り物だということに今更気づいてしまう。


 自分に灰色の軍服は似合わない。そう言った亡き母親を思い出し、少しだけ視界が曇る。自分は彼女の意を次ぎ、彼女の好きだった深緑の軍服を愛用していたのだ。


 でも今は違う。フレイアから借りた小さめの軍服に身を包み、今の主に従うことを決めた。今まで生意気で人の言うことを聞かなかった自分とは、もうお別れしたつもりだ……。


 血に染まる灰色の軍服に、今すべてを誓う。自分はフレイアを将軍にした軍隊で働き、熱心に王に従えるような義父と同じ立派な軍人になりたい。母上もそれを望んでくれるだろう。……同時に、亡くなったもう一人の姉上も。


「グレイル……お前はグレイルだよな。大丈夫か?」


 いつもは呑気だったはずの声に少し違和感を感じつつも、頼もしい味方が居たことに安心して後ろを振り返る。そこにはやはり腕と足に包帯を巻いたレムトと、しわしわカクカク&ぼんきゅっぼーんの番人夫婦が立っていた。


 いつの間にか空間遮断の術は消え、向こう側とも何事もなかったかのように繋がっている。道も焼け焦げたままで、風景も今までと何も変わらなかった。


「主は……主はどうなさったんだ? 無事なのか!? さっきの爆風と言い……」


「僕にも分からない。さっきまで傍に付いていたというのに……面目ない」


 レムトはそれには何も答えず、グレイルの手当てをおばあさんに任せると自分の体験を構え、煙の中へと突っ込んでいく。


「レムト! お前はまだ、怪我が治っていないというのに……!!」

「安心しな! オレはアンタや将軍のように無茶はしないって!!」


 レムトはそれだけ言い残すと、足跡と共に姿を消した。視界を遮る独特の煙は、一向に晴れる気配はない。グレイルはレムトを見送ってしまったのを後悔し、力任せに地面を殴った。


「グレイル。自分一人で悔しがったって、何も始まらないよ……」


 おばあさんはそう呟き、グレイルの背中をそっと撫でた。図書館は一部だけヒビが入ったり崩れたりしているが、中の書物には全く損害はないようだ。


 目には半径2メートルの風景以外、何も映らない。まるで濃霧の森に閉じ込められたようだ。魔術によって生み出された煙は、術者の意によって操られ、用がなくなると消え去ってゆく。それだけ、なかなか晴れにくいのだ。




 ……魔術は厄介だ。こちらとて魔術を操る身だが、魔術の対処法はとても少ない。術者を倒すか、その魔術の弱点とする術で抑え込むか……その二つ以外には、特に制覇する方法はない。魔術に唯一対抗できるもの―――それが幻術だった。


 しかし、何故ギーヴァは幻術を使ってこない? 裏切り者のカレニアスでさえ、神に願い乞うて幻術を自分のものにしたのだ。魔術は生まれつきでしか取得できないが、幻術は簡単に手に入れることができる。……そこが分からない。ギーヴァは、一体何を考えているんだ?

























 ―――目の前には、灰色で埃まみれの砕け散った破片が散乱していた。これが何の破片なのかは分からない。でも、とても年期が入っているように思えた

 ここは何かの部屋なのだろうか。小さな古いテーブルに、これまた小さな椅子。色褪せた壁に軋む床。それに、綿がはみ出した布団と足がひとつ欠けたベッドが置いてあった。


 その小さいテーブルの上には、黄ばんだ画用紙と小さな木炭がある。……これは何だろう? そう思い、体を起こしてテーブルに近寄った。


「リクル……お気づきになられましたか?」


 おれは驚いて飛び上がり、その反動で後ろを向いた。そこには部屋と同様に埃かぶったフレイアが立っていた。彼はおれの所まで歩み寄り、いつも変わらない笑みを浮かべた。


「本当に驚きましたよ。あなたを煙の中で見つけた瞬間、体が勝手に動いてしまいましたからね。爆風に巻き込まれて飛ばされた先がココ―――」


 フレイアはこの部屋を見渡し、テーブルの上に乗っている画用紙を指差した。今まで気がつかなかったけど、そこにはたどたどしい文字で小さく『レム』と書いてあった。


「……約270年ほど前に亡くなった、レムの部屋だとはね……」


 おれはさらに驚き、後ろにひっくり返りそうになった。


「えええええ!? こ、ここがレムさんの部屋だって? う、ウソだろ! まさかお亡くなりになった例のレムさんの部屋だなんて……」

「落ち着いて。ここは確かにレムの部屋ですが、彼女が亡くなったのは別の部屋です。何も出やしませんよ」


 フレイアは埃まみれの顔で微笑んだ。窓がとても小さいため、あまり光は差し込んで来ない。それがさらに雰囲気を暗くしているのか、長居はしたくないような気味悪い所だ。立っているだけで悪寒がする。


「しかし……まさかこんな所に入り口があったとは」


 おれだけではなく、彼もこの部屋の存在には驚いているようだった。この部屋の価値がどのくらいかなんて分からないけど、埃まみれなことからして長い間誰の目にも触れなかったのだろう。小さな扉は吹き飛び、蝶つがいだけが淋しく残っていた。


 高さは身長170後半のフレイアがギリギリ入るぐらい、広さは150もないおれ2人分ぐらいだ。自分がとても大きくなったような気がする。


「こんな小さな部屋に……レムさんが居たなんて」


 おれは視線を床に落とし、呟いた。湿っぽい風が頬を撫でる。思わず風が触れた所に手を当て、窓を見つめてしまった。


 ……あまりにも狭すぎるし、暗すぎる。まるで彼女は幽閉されていたようだ。そのことについて質問しようとして、慌てて口を閉ざす。こんなこと聞いたって後で後悔するだけだ。


 黙ったままフレイアの近くに近づき、左手で彼の服の裾を掴む。彼は少し驚いて俯くおれの顔を覗き込み、心配そうにじっと瞳を見つめてくる。


「どうか……したのですか?」


 彼はおれが予想していた通りに尋ね、遠慮がちに傷だらけの手のひらでおれの両手を握り返す。あまりにも予想に的中していたので、少しにやけてしまった。


「いや、なんでもないよ。レムさんだって辛かったんだろうと思うと、なんだか悲しさと恐怖が溢れてきちゃって……」

「……本当に、彼女は辛かったのだと思います?」

「え?」


 フレイアは小さな椅子に触れ、その手をテーブルの上へと戻した。


「……レムは30歳まで、この部屋で隔離されていました。幽閉、と言っても間違いではありません。彼女は生まれつきで強大な力を得てしまいました。それが、あまりにも恐ろしすぎて人々から大魔王扱いされたのです。元々、この世には大魔王なんて存在しないのに」

「魔王なら存在するけどね」

「……それはさておき、彼女を必死で護りたいと思った番人達は、魔術の強力なシールドでこの部屋を封じ込めました。つまり、この部屋に入ることができるのはそれ以上の魔力を持つ者か、同じ属性を得た者のみです。レムトは両方の資格を見事クリアし、この部屋にも入れるようになったのです」


 おれは はぁ、とか へぇ、とか相槌を打ちつつ、フレイアの話に聞き入った。あまりにも話は深刻すぎて、隔離とか幽閉とか深く関わったことのないおれにとっては難しすぎる。いや、これからも関わらないとは思うけど。


「でも、これだけは分かっておいて下さい。番人達は、彼女を護るためにこうしたのです。仕方なかったのでしょう。だから、彼らを責めないで。根っからのいい人なのですから」

「分かってるよ。おじいさんとおばあさんが悪人なわけないじゃない」

「ありがとうございます」


 フレイアは心から感謝するような、満面の笑みを浮かべた。他人事なのに……とか思っている場合じゃない。他人の心配まで出来る人こそが、本当の優しさというものを持っているんだ。


「彼女は50年以上もここで暮らし、本を読んだり絵を描いたりして過ごした。……まあ、すべてレムトから聞いたことなのですが。それに、彼女は当時のシェイルと言う、真の親友を得ることができた。今度彼女とレムトの出会い秘話を、お話しして差し上げますね」


 フレイアは悪戯っぽく笑った。




 ―――さらに長いフレイアの話によると、レムはシェイルと出会ってからはずっと二人仲良くほとんどの時を過ごしたらしい。当時のシェイルは深い事情によって孤児で、まだ幼すぎて魔獣の森に住むことも許されなかったのだ。


 魔獣族の50歳とは、人間の10、11歳と見た目が変わらない。レムトは純潔の魔獣族ではないから、少し成長が早かったらしいけど。


 それでも、おれと同じぐらいかちょっと上かだろう。そんな二人はお互いに励まし合い、助け合って生きてきたのだ。……とても感動できる。見てはいないけど。



「大体事情は分かったけど、なんでおれたちはこんなところまで吹き飛ばされてしまったんだど。イテ、舌噛んだ」


 おれが舌を噛んでしまったのはただ焦っていただけではなく、この部屋が上下に揺れたのだ。地震も過去数回味わってきたけれど、こんなに激しいのは初めてかもしれない。


「地震……にしては珍しすぎますね。この国では、あまり地震は発生しないのです」


 フレイアは至って冷静だった。そりゃ、350年余りもコッチで生活してきたんだからな。それにしてもクローン世界と地球では時間の進み具合が違うだなんて、今更だけど驚いてしまう。


 コッチの10年は、地球での1年と数カ月と同じぐらいだ。まるで竜宮城に行った浦島太郎が、元の世界に戻ったら何十年も時が経っていた、の逆バージョンだった。あれ? 逆バージョンで合っているんだっけ??


「一度……外に出てみましょうか? 俺が周囲の様子を確認したときは、薄暗くて良く確認できませんでしたが、今なら大丈夫でしょう。大分時間もたちましたし」


 フレイアは扉から一歩踏み出し、周囲の状況を確認する。彼はいつ敵が現れても応戦できるように、一本の剣を常に構えていた。


「……リクル、俺から決して離れないで。誰も居ませんけど……まだ警戒すべきでしょう」


 彼はおれのからだを引きよせ、一緒に外へと飛び出した。そこには本当に何もなくて、ただの湿った荒野だけが広がっていた。


「……?」

「ま、まさか此処は……!」


 ―――正解だよ、シェイルの友達。


 ありえない所から声がしたので、その方を向くとそこには薄い銀髪に青い大きな瞳の、可憐な少女が浮かんでいた。


 彼女は、天井に這いつくばるように存在していた。





つづく。


結構……急いで書いたので文章が……乱れています。

誤字・脱字や文法の間違いがあるかもしれません。



次回、まさかまさかの亡霊(?)レムさん登場!?


第17話 真っ白な世界で


次回もお楽しみに〜

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