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第12話 魔獣族の秘密!?

 ―――クレアリス城、魔王の間にて……


「ね、フレイア。おれってこれから何すればいいの?」

「陛下が、ですか?」

「そんな陛下って呼ぶのやめてよ! なんだかムズ痒いじゃん。それに、ジークに別の呼び方を考えて貰ったよ。『あるじ』ってのはどう?」

「いいですね、主」

「だからってそう呼ぶのもやめてよ! おれはリクルって呼べと言っただろ?」

「ええ。リクルと呼んでほしいってね」


 フレイアは笑みを返すと、後ろに控えているレムトとグレイルに目配せした。彼らはおれの護衛で付いてきてくれてるのだ。感謝しなくちゃ。


 今日ここに居る魔獣族は皆、ちゃんとした正装に一振りの剣を帯びている。フレイアはいつも灰色の軍服とマッチしない古い青のマフラーを身につけていたが、もうそれもボロボロになってしまったので その布切れを右腕に巻いているだけだ。


「あとは俺達の後に付いてきてくれ。いいか、決して物音を立てるなよ」

「分かってるってェ。オレをなめちゃいかんよ、フレイ♪」

「右に同じく、だ。僕だって隠密護衛の任務なら何度も経験済みだ」


 フレイアは目を細めて頷くと、いつも通りに正された軍服の懐から何か黒いものを取り出した。それはお守りのような形をしているが、とても古く見える。


 おれは目で「それって何なの?」と尋ねてみる。するとフレイアは見事に理解してくれて、それをおれの手の上に載せて説明してくれた。


「これは“大地のお守り”と言って、10の秘宝のひとつですよ。自分の愛しい人を見つけたときにだけ、効果を発揮する。不思議ですよね」


 おれはフレイアに頷き返すと、自分の首にかけられた二つのペンダントを見つめた。



 ひとつは、“深紅の心”。魔獣王が持つことができて、これがないと戴冠式に参加できない。血のように赤くて妖艶で、どこか魅せつけられる綺麗な石だ。


 もうひとつは、10の秘宝のひとつ、ドラグーン・クラウンだ。これは深紅の心を盗まれた時に役立ったし、今も大切にひもを通して首に下げている。この小さな王冠があんなにデカイ龍を制御できるなんて、今思うととても凄いことだ。


「リクル。そろそろ戴冠式が始まります。緊張なんてしませんよ。披露宴は明日なのですから、今日はライン前王陛下とソダルナしかいらっしゃいませんので……」

「その、ソダルナって人は?」

「ソダルナは魔王“ルシファー”の分身とされる、1000歳近くの少女ですよ」

「1000歳って、少女じゃないような気がするけど……」

「さあ、そろそろ始まりますよ。心の準備はいいですか?」


 おれは誤魔化したようなフレイアに手を引かれ、魔王の間へと足を進めた。


 頑丈な扉を開けると、そこにはとても幻想的な部屋が広がっていた。床は透けてその下を流れる水が見え、上につるされたシャンデリアの光を部屋中に反射させていた。窓の代わりに設置されているクリスタルガラスも、この部屋をとても明るく見せていた。


 その部屋の中央には、珍しく赤いマントと白の軍服を身につけているラインと、巫女装束でツインテールの青髪青眼の少女が立っていた。


「ようこそ、魔王の間へ。わたくしは魔王“ルシファー”様の記録を伝える者、ソーラルラダキエリエルナと申します。皆はわたくしのことをソダルナと呼びます」

「よろしく、ソダルナさん」

「早速ですが、リクルァンティエリル陛下。わたくしに右手をお貸しください」


 おれはソダルナに右手を差し出し、澄んだ笑顔のままの彼女をじっと見た。彼女はただ頷いておれの手に自分の手を乗せ、何語か分からない呪文を呟き始めた。


「………?」

「儀式を行っているのだ。お前の王としての資質がどのくらいなのか、魔力とのシンクロ率はどのくらいなのか、などを確認している」


 かつてラインもこのようなことが行われたのだろう。多分、目の前にはラインの代わりにマリアが居たりして。その周辺には護衛も居たのだろう。おれの傍にはフレイアが居るし、その後ろには隠れるようにレムトとグレイルも居る。


「完了いたしました、リクルァンティエリル陛下」


 ソダルナは笑顔を浮かべ、おれの手をそっと放してくれた。ソダルナは古い素材の紙に青色のペンで何かを書き込み、それをラインに渡した。


「資質は十分だ。お前は良き王になれるぞ。……問題なのは、シンクロ率と魔力のケタなのだが……」

「それはどういうことなのです、ライン前王陛下?」


 フレイアが割って入ってきた。少しだけ焦っているような気もする。彼が焦っている姿を見た回数は、レムトが真剣な時の回数と等しい。つまり、とても珍しいのだ。


「数値が異常なのだ。シンクロ率など、初めて来たときはゼロに等しかったのに……」

「そ、その数値ってどのぐらいなの? その前にシンクロって何??」

「シンクロとは、どれだけ魔力を自分のものにしているか、ということだ。シンクロ率が高ければ高いほど強力かつ安全な魔術を使える。“豹変”状態に長時間なることも可能なのだが……」


 ラインが言葉を詰まらせたのを見て、ソダルナはそのメモの端にまた何かを書き加えた。


「そうか……。そうなのか。では、何も隠さずに言おう。お前のシンクロ率は150パーセント。魔力は500を超している。平均は75パーセントに200魔力なのだが……本当に以上なのだ。今までの中で最高と言えるだろう」


 傍に居たフレイアがため息を漏らした。それが感嘆なのか呆れてなのか分からないけれど、おれに聞こえるようにわざと大きくしたのは間違いない。


「リクルァンティエリル陛下。貴方は歴代最強の力を持っていることになります。しかし、魔王“ルシファー”はこうおっしゃっています。貴方には、クローン世界を導く力があると。それが良い方向か、悪い方向かなどは分かりません。どうか、頑張ってください」

「あー、うん。はい」


 ……クローン世界を良い方向か、悪い方向に導くのはおれなんだな/


 ソダルナが言い終わった後もしばらく考え込んでいたおれは、ラインにじっと睨まれていることに数分経ってから気づいた。


「リクル、お前はそれを受け入れ得るのか? その返事次第でこれからの行動が決まるのだ」

「あー、う、受け入れます。おれ自身の手で、この世界を良い方向に変えることができるのなら……」

「そうか。そうなのか……」


 なんか、周りの空気が変だ。も、もしかしておれ変な答え方してしまったのか!? ここはイイエと言うべきだったのか!


「そうか……。リクル、いやリクルァンティエリル陛下。お前は今日をもって、第30代魔獣統一国……別名魔獣の森の王となる!!」

「はへええええ〜!?」


 おれは驚きのあまり、気の抜けるような奇声を上げてしまった。


「なんだ、その驚きようは。お前は立派な返事をしたではないのか。それとも反対だとも言うのか!?」

「違うって! だからそんなに怒らないでよラインさん……」

「……とにかく、お前は王になるのだな!? それならば私の前に来い。ヴェルグス!」

「はっ」


 ラインの後ろから現れたのは、グレイルの義父、ヴェルグスだった。ヴェルグスもこっそり隠れていたのか、髪が埃まみれだ。


 ラインは真正面の台の上にある木箱に手を載せ、ヴェルグスに鍵を渡した。


「ヴェルグス、私が信頼しているお前だからこそ、頼めることがあるのだ。『魔石の王冠』をリクルに渡す役目を、お前に命じていいか?」

「仰せのとおりに」


 ヴェルグスはラインに一礼すると、箱の鍵を開け中から見たこともないような美しい王冠を取り出した。全体が紅く輝き、とても透きとおっている。おれの表現力では、このぐらいしか説明できない。


「なるほど……。主の代には紅い魔石の結晶を使ったのですね。だからこの床のように透きとおっているんだ。普通の王冠の金色の部分が、紅い結晶に変わったようなものですね」

「ナイス、フレイア」


 フレイアの説明に感嘆しつつ、おれはその王冠を眺めた。とても綺麗で、一体誰が被るのかが気になって仕方がない。


「何を考えているんです、主。これは主のものですよ。特注なんですから、大事に使ってくださいね」

「なるほど〜おれがこれを被るんだ。さすが……ってええ!?」

「当たり前の事を申すな。さあ、後は黙ってこれを持ち帰り、自分の部屋の整理でもして来い! もう戴冠式は終わったのだ!!」

「えええ!? たったこれだけなの? おれはなんのために緊張を……」


 おれはフレイアに無理矢理引っ張られると、喚きながら魔王の間を退場した。その後に隠れていた二人が続くと、頑丈な扉は音もなくしまった。



「立派な王になりますよ。彼は」

「そうだな……しかし、もっと冷静になって欲しいものだ」


 ソダルナはラインに微笑みかけると、彼女自身もまた魔王“ルシファー”の肖像画の前に立った。


「ルシファーさま、貴女の弟様の次の代、リクルァンティエリル陛下は無事戴冠式を終えましたよ。貴女さまが元通りの姿になれる日も、そう遠くはありませんよ」



 ソダルナはそれと同時に自分も消えることを、誰にも告げないままだった。



















「主ぃぃぃぃぃ! 我が愛しい主よッ わたくしは感激です!!」

「ジーク、あんたは何回感激すれば気が済むんだよ。昨日と合わせて20回近くボロ泣きしているだろ?」


 ジークは昨日の試練……またの名を暗黒迷路以降、ずっと感激しっぱなしだ。どれだけ号泣すれば済むものなのか。それより、アンタの涙は無尽蔵なのか?


「もうどれだけ涙を流しても私の感激は底を尽きませぬ! 最高です、主!!」


 まだまだジークは号泣中である。顔面が鼻水まみれでコッチにとっては最悪だ。グレイルが迷惑そうな顔でジークを部屋から追い出すと、急に部屋の中が静かになった。外からはジークの叫び声が響いているが。


「主、いやリクル。あなたが魔獣王になってくださり、本当に光栄に思います。最初、あなたと出会った時からこうやってくださると信じていましたよ」

「へへ、ありがと。フレイア」

「それで、あなたにはこれから沢山覚えていただかなくてはならないことがある。早速ですが、一度この城から出て城下町に出向いてもらえないでしょうか?」

「分かった。でも……ドアからは出られないよな。ジー苦が居るし」

「その事は十分承知です」


 レムトがちょうど良いタイミングで、懐から丈夫なロープを取り出した。頑丈な窓を簡単に取り外すと、そこからロープを遠くに向かって放り投げた。


 すると、そのロープは数十メートル先の木の上に引っ掛かり、そこから脱出できるようになった。見事、レムちゃんのロープ術だ。


「コレを使って、窓から脱出しまショ。さぁ3人共、早速このロープに掴まって」


 上からおれ、グレイル、フレイア、レムトの順で掴まると、息もできないような速さで窓から飛び降りた。


「ふはえははらわわわわわわわ!!!」

「うわぁっ!? な、何だ、この速さは!」

「………」

「ひゃっほーう!!」


 レムトがこの状況を一番楽しんでおり、おれとグレイルは絶叫だ。何故かフレイアは黙ったままで、いつもの笑顔が凄くひきつっている。


「みんなぁ、手を離せ!」


 レムトの掛け声でロープから手を離し、レムト以外は全員無事に着地した。彼の行方はというとロープを掛けた大木に正面衝突し、地味に滑り落ちた。


「ありがとうレムト! 君の勇姿は決して忘れないよっ」

「オレは生きていますよッ ただ自分で言っておいて手を離すのを忘れてただけだもんッ!!」


 レムトは涙目になってやけ気味に叫ぶと、城の方に引っ掛かっているロープを焼き切って証拠を隠滅した。


「でも、これから何をするんだ? 城下町に行って、変装もナシで?」

「心配は無用ですよ。そんな堂々と街を闊歩するわけではありません。まぁ、用心はしてこのローブを被ってもらいますけどね」


 フレイアは砂色のローブを俺に被せると、頭の上に同色のフードを被せられた。まるで砂漠の旅人のようだ。


「俺たちも被りますから。すぐに見つかってまたジー苦の元に送還されてもいいのですか?」

「いやいやいやいや!! それだけは何があっても避けさせてくれっ。大人しく被ってるから。で、どこに行くの?」


 フレイアは一息置くと、城下町でも城より遠い方にある、目立つ建物を指差した。


「図書館です。そこには大量の本がありますが、とっても危険なのですよ♪」


 フレイアは笑顔を浮かべているが、後ろの二人は恐怖で青ざめた表情をしていた。



つづく。


グレイル「あの場所だけは、決して行きたくないのだが……」

レムト「ねー」



次回、図書館の番人


恐ろしい図書館にて、魔獣族の秘密を解析!?


次回もお楽しみに〜☆

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