表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/19

番外編1 クレアリス城で肝試し!? 【後編】

「ねぇ、レムト。あとどのぐらい時間は残っているのかな?」

「んー、あと10分強、ですかね。あまり時間は残されていませんよ」


 不安定な足場のもと、おれたちは真っ暗な迷路を歩き続ける。目の前には暗い道が続くだけ。それ以外は、バナナの皮が所々に放置されているだけだった。


「その前に出口なんかあるの? おれにとっては終わりのないものに見えて仕方がないんだけど……」

「いや、絶対に出口はあります。でも、出口に付く前に一人の軍人と一騎打ちをしなくてはならないと聞きました。しかも、相手も本気でかかってきます。どうか、無事に脱出してください」

「なななな、何縁起悪いことを言うんだよ! しかも一騎打ちって、運悪っ」


 まだまだ出口は見えない。沢山の交差点を曲がり、沢山の瓦礫を乗り越えてきた。それでも、まだゴールには辿りつかないのだ。


 ……やっぱり脱出できないのかな。いやいや、こういう時にはもっと明るい事を考えるのが一番だ! 明るいこと……。そうだな。この迷路を無事脱出して、それからの事を考えてみよう。


 おれは皆から王に相応ふさわしいと認められる。そして、ラインの後を継ぐために戴冠式を行うんだ。


 おれは自分の目指す政治を発表し、皆に賛成してもらえる。そして、一番に喜んでくれるのはフレイアだ。また、おれを抱きしめてくれるかな?


 それから魔獣の森の美しさを保つために、おれは色んな所を旅しよう。またみんなには迷惑かけちゃうけど、どうにか説得したら大丈夫かな?


 そして、みんなが互いを傷つけ合うことのない、平和な国をつくりたい。以前、レクトスラルドに行った時のように種族間での差別がなくなるように、沢山の国を訪れなきゃいけないな。


 結構大変な計画だけど、みんなは受け入れてくれるかな? いや、絶対に賛成させてみせる! 今までどの王もつくることのできなかったような、立派な国目指して……


「あでっ」

「若、大丈夫ですか?」


 また瓦礫に躓いて無様に転んでしまった。転んだ先に何もなかったから良かったけど、もし瓦礫があったらジークのように顔面血まみれになってしまっていただろう。


 こういう所だけは運の良い自分に感謝し、左腕で体を起こそうとする。そのとき、腕に小さな痛みが走った。


 自分の軍服の袖をまくりあげると、そこには縦に走る切り傷があった。服にまで血は染み込んでしまっている。こうなると異常に心配してしまう人が出てくるだろう。


「ああ……切れちゃってますね。ここの壁はガラスみたいに鋭くなりますから、ちゃんと用心しなきゃダメですよ?」


 レムトは腕に巻いていた薄い紺色の布を外すと、おれの左腕に巻いてくれた。その布は年期が入っていて、ずっと昔からあったものだということを悟った。


「これって……何の布?」

「オレの親父が最期、身につけていた服の一部です。ああ、そんなに気にしなくてもいいんですョ。次期魔獣王となられる若が身につけて下さるなんて、親父も喜びますからネ」

「でも、本当にいいの? 後で洗って返すよ! おれは洗濯はヘタクソだけど……」

「そうおっしゃらずに、ネ。返却はいつでも構いません。長らくお待ちしていますョ」


 レムトはそう言うと、おれの怪我していない方の腕を引いてまた真っ直ぐに進み始めた。今度はちゃんと足元も確認し、慎重に歩く。


 まだまだ出口は見えない。あ、このセリフ2回目だ。でも、本当に見えないんだ。黒い壁はイヤというほど見るし、もう見飽きているほどだ。一向に何も現れなくなったし、バナナの皮も見当たらない。


 誰も出てくる気配はないし、それどころか人工的な音もしない。おれとレムトの足音だけが響き、時々剣の鞘が服に擦れる音がするぐらいだけだ。


「あまり時間は……ないよね。大丈夫かな」

「ちょっと心配になりますね。あと……7分あればいいところです」

「え! もうそんなに時間が経ったの!? 本当に大丈夫かなぁ……」


 おれはまた自分の足元を見つめた。今までは、時間の制限なんてなかったし、経験したといえば学校生活内でだけだ。一度遅刻しそうになったときは、本当に焦ったっけ……。


 でも今は、遅刻異常に焦らなければならない。運が悪いことに、これに失敗したら皆に認めてもらえることができないのだ。それどころか、最悪の場合おれだけではなくレムトまで評価が下がってしまうかもしれない。


 そうならないためにも、絶対ゴールしてみせるんだ。皆から認められる王に、最高の魔獣王になるために……


「いてっ」


 またレムトの背中にぶつかってしまった。おれの前方不注意も原因の一つだが、止まる時は止まると言ってほしい。


「今度はどうしたの、レムト」

「まさか……アンタが最後の試練ってワケじゃないよな」

「え……?」


 レムトの視線の先には、彼と同じ軍服の人が立っていた。その影は見覚えがあって、どこか懐かしいものがあった。


「アンタ、あまりにも酷すぎねェか? 若だってアンタとは互角に戦えないだろうし、一番若を愛しているアンタが……」

「これは試練なんだ。仕方がないことだ」


 どんな時にでも、どんな状況でも良く通るこの声。嫌というほど聞き覚えがあって、いつもおれを安心させてくれたこの声……



「フレイア……?」


 そう。この試練の最後の敵は、一番自分が親しんでいた人だった。
























「フレイ……アンタは決してありえないと、そう望んでいたのに」


 目の前には、珍しく一本の剣だけを持つフレイアの姿があった。……そう。おれが魔獣王になるための最後の試練とは、自分の心から信頼する人と一騎打ちすることだったのだ。


「リクル……。俺を敵だと思って。殺す気で挑んで下さい」

「そんな……できるわけがないよ、フレイア」


 できるわけがない、それだけしか頭の中にない。いきなり家族同士で殺し合いをせよ、と命令を下されたようなものだ。そんなこと……できるわけがないじゃん。


「これが、ライン陛下から仰せつかった任務なのです。俺は、すぐに了解しました。これが貴方のためにできる最善の事だと、理解したからです」

「何が最善なんだよ! おれはイヤだよ……よりによってフレイアと、フレイアと闘わなくてはいけないなんてっ」

「諦めてください。レムト、悪いが手出しはしないでくれ」

「分かってるさ、フレイア上将軍。オレはハナっから何もしねェよ」


 レムトはそう言うと、この空間の隅まで歩いて行った。冷たい壁に背をつけ、じっとそこからおれたちを―――正確には、フレイアを睨んでいた。


「リクル、その漆黒の鍵を構えて。それは持つ者の意志を読み取り、強く成長していくのですから」

「……っでも」

「生きていく中で、絶対に乗り越えなくてはならない壁は沢山あるのです。これもそのうちのひとつですよ。そう考えて」


 相変わらずフレイアは、いつものように笑顔を浮かべている。でも片手には凶悪でするどい武器を持っているのだ。油断してはならない―――。そうレムトが言ってたっけ?


「俺に向かって、剣を振り下ろす。それだけでいいんです。時間もあまりありませんよ? 皆に自分を、自分の存在を認めさせるんでしょう?」

「……っ!」


 おれは先ほどまでより重く感じる漆黒の鍵を持ち上げ、目の前に構えた。


「そうですよ。そう構えて、俺の元に向かってきてください」

「っだあああああああ!!!」


 自棄やけになってフレイアの元へ走りこみ、剣を思いっきり振り下ろす。しかし、簡単に弾かれ、自分がよろめいてしまった。


「その調子です。でも、まだまだ詰めが甘いですね。もっと本気で切り掛かるんです。勢いをつけて」


 もう一度体制を整え、今度は横に剣を一閃する。しかし、それも弾かれてしまった。


「本気で、俺を殺す気になって。あ、でも、魔術は使っちゃいけませんよ。その時点でルール違反となりますからね」


 何度も切り掛かるが、フレイアはどれも弾いてしまう。おれはまだ剣になれていないのもあるし、それと同時にフォームも最悪なのだろう。


 今度こそ当てようという気で、大きく剣を振り下ろした。しかし、その剣は跳ね飛ばされ、おれの手から滑り落ちてしまった。


「……っ!!」

「だから油断はしてはいけないと言ったでしょう? 今度は俺の番ですね。手加減は……しませんよ?」


 フレイアは目にも止まらぬ速さでおれの前まで走り込むと、剣を横に一閃した。


 おれはそこで目を閉じ、もう死んでしまうのかな……と頭の中で呟いた。皆には認めてもらえず、それどころかこの世界に戻ることも、地球に戻ることもできないのか―――


 しかし、いつになっても痛みは襲ってこない。恐る恐る目を開けてみると、そこには左腕から血を滴らせるレムトの姿があった。


「レムト!?」

「へへっ……やっぱりオレは手出ししてしまいましたねェ。これでも、ルール違反になりますかね?」

「……いや、護衛が傷つくのはルール違反にはならない。しかし、俺とリクルの一騎打ちに手出ししてもらうのは困るな……」


 まだ二人の会話は続いたが、おれの耳にはもうなにも入ってこなかった。自分の為に、誰かを傷つける。自分の決心が甘いだけで、誰かを犠牲にしてしまう。……でも、だからといって自分の信頼している人を傷つけるわけにもいかない。みんなが大切だから……みんなが大好きだから。


「やっぱり……できないよ。おれは棄権してもいい。もう嫌だ。闘いたくない……」

「若! それだけはっ」

「いいんだ、レムト。おれが最初からいけなかったんだよ。試練だからといって、魔獣王になるためだと言ってフレイアと決闘するなんて馬鹿げてる。仲間も信じることができないなんて、立派な王様に成れるわけがないじゃないか」

「若……」

「………」


 さっきまで黙っていたフレイアが、急に剣を床に投げ出した。それからおれに微笑みかけると、小さく息をすってこう言った。


「試練終了―――! この試練では我らが次期魔獣王、リクルァンティエリルが勝利し、この試練を今をもって終了する。以上!!」


 フレイアは笑みを浮かべ、おれの元へと歩み寄った。そして床に座り込んでいたおれの手を引いて立たせてくれると、後ろに立っていたレムトに向かって笑いかけた。


「フレイ、もっと手加減してくれてもいいだろ? マジで痛ェじゃねェか」

「手加減はしない、と最初に言っただろう? お疲れ様、レム。よく働いてくれた」

「まぁな。オレ様の演技に敵うヤツはこの森にはいないってな♪」

「え!? ど、どういうこと!」


 おれがオロオロとしている姿を見て、二人は同時に笑った。なんだよー、何かおれに内緒で企んでいたのかー?


「これは『肝試し』と言って、普通は軍人が将軍など高い位へ昇格するときに行うものなのです。軍人は裏切った味方も討たなくてはならない。しかし、それと同時に仲間を誰よりも思いやる心も必要なのです。リクル、貴方は立派な軍人であり、立派な王になれますよ。なんと言ってもこの俺が、保障するので……」


 フレイアが言いかけた時、この部屋の向こう側にあった扉から沢山の人、いや魔獣族や魔女達が流れ込んできた。その中には見覚えのある顔が幾つもあって、なんだか嬉しくなってきた。


「若ァァァァァァァ!!」

「ジーク!」


 ジークは頭に包帯を巻き、とても痛々しい姿で現れた。もちろん、血まみれだった服も着替えているけど。


わたくしジーク・ベリス・アリビスは本当に感激しましたぞ! 私として若は一生誇れる存在となり、若は私の生き方の鏡になってぶぇ!?」

「リクル! やったじゃないか!!」

「グレイル!」


 グレイルはジークの頭部を殴り飛ばし、おれの手を握って上下に振りまわした。今までの言動とは考えられないような行動だったけど、とても嬉しかった。


「みんな、本当にありがとう! おれ、立派な王様になってみせるよ!! みんなが納得してくれるような、歴代最高の王様に……!」


 ここに集まってくれたみんなはおれのために歓声を上げてくれた。そして、忙しいのにここまで来てくれた。そんなみんなの期待も込めて、絶対にこの森を幸せにしてみせる! いや、絶対にするんだ!!


「リクル……俺は本当に、貴方ならできると思っていましたよ」

「何言ってるんだよフレイア、本気で立ち向かってきたくせに!」

「はは、そうですね。……でも、おめでとうございます。貴方ならできますよ。最高の王になり、最高の国をつくることが」


 フレイアはそう言って、おれを抱きしめてくれた。もしかしたら、一番喜んでいるのは彼かもしれない。おれが想像した通りだ。


「お次は戴冠式ですよ。さあリクル、頑張って!」

「ああ! 任せておいてよ!!」



 こうして、おれは『肝試し』をクリアすることができた。結果は意外だったけど、まぁそれでもいいんじゃないかな、と思う。


 正直の所、肝試しってお化け屋敷みたいなコトをするんじゃないかな、と思う。文化の違いなんだろうけど、やっぱり今となってはどうでもいいや!




……これからが、おれの本当の物語の始まりだった。さっきまではプロローグに過ぎない。


 立派な国を創るよ、おれの前世。それまで待っていてね。おれが、最高の王になるまで……。




番外編1 クレアリス城で肝試し!? 完結。



本編はまだまだ続く……。


3話にも続いてしまった番外編、良く分からない内容でスミマセン><


次回こそは、本編に続きます!!


次回もお楽しみに〜☆

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ