Clowns duets
小さい頃、本当に昔の頃のこと。あと少しで私という人格は消えてしまうかもしれない。そんな中でも、幸いなことに少しだけ残ってる記憶。
その記憶では顔は分からないが、小さい頃の私と同じような背丈の子が一人、そしてこんな事を語ったもう一人。今思い出そうとすると、ノイズ混じりで所々分からないが
この一家は……から見放された一家のだと。お前達は幸いなことにか、また不幸なことにか……で一人なのだと。だから、助け合って暮らしていけ。決して……を使うのではないぞ。と、そう言いながら、シワだらけの手で二人を撫でた。そんな記憶。
思い出せなくてもきっと駄目なんだ、こんな事をしてはいけない、と分かる私の誤ち。
少しの浮遊感と共に、体に強い衝撃が走る。少しだけぼやける視界がクリアになる頃様々な情報が目に入った。周りからは車のクラクションの音と、道行く通行人のざわめき、そして、そこには不釣り合いな生臭い鉄の臭い。
「嫌―――――!」
どこか遠い記憶のように感じながら、私は自分が悲鳴を上げていることを実感した。
何度も何度も未来を変えようとした。私自身払える代償はほぼ全て払った。何が足りないんだ。こんな不本意な光景何度も見たくない。もう耳も目も何もかも全て塞ぎきって諦めてしまいた。そのような事を私自身から発せられる叫び声を、他人事のように感じながら思った。
でも、このままになんて出来ない。だからこそ、また過ちを犯す。
辺りの生臭い臭いからの吐き気を耐え、体の倦怠感なんて我慢して私は立ち上がった。そのまま力を入れる。今度は一年だ。今までで一番長い期間。前々から飛ぶ準備はもう出来ている。
私はまだ慣れない独特の浮遊感を、あの事件を思い出しながら耐えた。今となってはメモで伝えていくしかない一回目の世界の事を。
七倉月菜という人間は、両親がいて一般家庭の高校2年生の普通の人間だ。とは、千歩譲っても言い難い。どこか人と違う所をいつも感じながら、日々を過ごしていた。それもそうだろう。人には違う世界に行く方法なんて持ってない。と言っても、未だに違う世界には行ったことは無いのだが。
月菜が違う世界に行かなかった理由の一つには、彼女には大切な人がいる。ということもある。大切な人だといっても恋愛感情では無い。生まれた時からの半身。二卵生にしてはよく似ているの双子の兄がいる。彼の名前を陽大と言う。そう言っても月菜自身が残したメモによる所なのだが。
取り敢えず、二人は自身とすれば少しずれていて、でも周りから見れば至って普通の生活をしていた。これからもこんな生活が続くのだろうと月菜も思っていたそんな頃。真っ直ぐピンと引っ張られているか糸のように見られた日常に綻び……いや、バッサリと切られるような事件が起こったのだ。話はその事件の前に遡る。
「おい月菜、そろそろいくぞ」
玄関から兄の声が聞こえてくる。少しのびたように言って、暇だから早くしてくれ頼む。って言ってるかのよう。
「あ、待って陽大、まだ用意出来てない」
玄関のすぐ側にある階段の上付近で私はちょこんと顔を少し出しながら答えた。
「はぁ、しょうがねぇな。5分あれば終わるか」
「大丈夫であります」
了解した。というかのように少しふざけて、敬礼をしながら私は言ったが、陽大には少し苦笑しながら早く用意しろと言われた。少しだけ悲しい。まあ、いっか。
今日は二人で珍しく、いや気まぐれに少しだけ遠出する。いつもはお互いの部活やらでオフの日が重ならなかったりとするのだが、今日は夏休みでなおかつオフの日も偶然重なったため、それなら……と両者一致で出かけることとなった。
「おい、バス間に合わなくなるぞ」
「ごめんごめん、もう行く」
高校二年になって兄妹で出かけるという事に少しだけ照れ臭さを覚えるが、たまにはこんな事もいいなと思う私であった。
「陽大次、次早く見ようよ」
「月菜引っ張るなって、分かったから」
私達は今、バスと電車を使って行ける距離にあるデパートに来ている。夏休みという事もあってか人も多い。人混みのせいで陽大から目を離すと離れてしまい、もう会えなくなりそうな気がした。まあ、実際そんなことはなくてお互いに見たい場所、買いたい物などしたい事はを一通り終わったので、デパートに入っているカフェで一旦休む事にした。
「あぁ、色々買った。買えた」
頼んだアイスココアを飲みながら私は言った。乾いた喉に冷たくて少し甘ったるいココアが心地よい。
「だな。これだけ買えば当分は大丈夫なんじゃないか」
陽大も彼が頼んだ砂糖入りのアイスコーヒーを飲む。大人ぶってコーヒーを飲んでいるが、砂糖を入れるところがあ、変わってないんだな。という事を実感させられる。
「うん、やっぱりたまにはこうゆうのいいね。昔はいつも二人でいる事が普通なのに、最近は離れてばっかり」
「そりゃ、お互いに部活だってあるんだぜ、時間が無いよな。でも、今日は久々に楽しかった」
言い終わるとお互いに気まずくて照れ臭くなって、飲み物を飲んだ。暑さでなのか照れてなのか分からないが、やけに顔が熱い。最近はあまり話せてなかったから、やっぱり照れ臭さでだろうか。今日の様な日々がずっと続けばいいのに、と切実に願う私であった。
「え、嘘……嘘だよね。お兄ちゃん……な…んで、私を庇ったの?」
カフェまったりとのんびりと休憩して暫く経って、お互い買い忘れがある事にも気づき、それらも買い終え家に帰ってる途中の事であった。それは所々首を傾げさえすることもあるが、私にとっては日常であった物を一瞬で崩壊させた。
「お、まだ青信号ラッキーじゃん。早く渡っちゃおうよ陽大!」
私は自分で言うのもなんだが運があまり無い。だからこそ、こうゆう事にも純粋に喜んでしまう。その時私は横断歩道の途中で後ろを向きながら歩いていた。青だから横から何も来ることは無いと思っていた。だが、
「っ!!月菜危ない!!」
いきなり陽大が叫びながら走ってこっちに来たと思ったら、同時にトラックのエンジン大きな音と地鳴りが横からした。動かなきゃいけないのに、逃げなきゃいけないのに身体が固まってしまったかのように動かない。時期にトラックや陽大がどんどんスローモーションに動いているように見えてきてその時、あ、私死ぬのか。と思った。衝撃に備えて目を閉じた。でも、衝撃は思った以上に小さくて、恐る恐る目を開けてみるとそこには
止まっている血塗れのトラックと、少し離れて血を流しながら倒れている陽大がいた。
そこから先は余り覚えていない。通行人の誰かが救急車を呼び何とか陽大は奇跡ながら生き延びた。だが、そこから彼の目も声も見てもないし聞けてもいない。あの日から目を覚まさないのだ。父と母は自分達も悲しいだろうに涙を堪えながら、大丈夫だよ。絶対目を覚ますよ。と私を慰める日々。その日々を過ごしてひと月が経った。私はひと月の間ある意味屍のように生きていた。
どうしてもあの時、あの場所、私の行動そのどれか一つが違えば陽大は今も尚声変わりしてもそこまで低くなかった声で、私の名前を呼んでくれたのだろう。そんなことを考えてしまい、何も手につかなくなってしまった。
そして耐えられなくなってしまった私は最初の過ちを犯した。
使っては駄目だ。と言われてきたこの力。力を使うには私自身代償だってある。でも、私のせいでこうなってしまったんだ。そう考えると使わずにはいられなくなった。精神的に後悔で押し潰れそうになり限界だった。
私の力はここでは無い違う世界。俗に言うもしもの世界パラレルワールドに飛ぶ能力だ。ただそれだけなら良かったのだが、飛べるのは私という人間は存在してない世界であり、なおかつその力を使う度私の記憶は少しずつ消えていく。
いつからこの力を持っていたのかは分からない。だが、この力は怖くて怖くてしょうがない、だって私がいない世界にしか行けないんだ。両親に会っても、陽大に会っても、初めましてこんにちは。から始まってしまう。そんなことは本当のところ耐えられない。
でも、それ以上にあのときまであった日常を取り戻したい。その為なら、私の存在、記憶全てくれてやる。例え世界や神と呼ばれる者達を敵にまわしても。
ここまでが一回目の世界での私が残したメモだ。今ではこの出来事の全てを思い出せない。思い出せるのは、私の名前と簡単なプロフィール、そして双子の兄が私のせいで死にかけ続けていることと、そのものの価値はなくなった時に分かる事ということだ。