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妖怪の姫は、人間の友達が欲しい

幼い頃から、幽霊が見えた。


小学生になったら、妖怪が知覚できるようになった。


中学生になったらそれらの存在に触れるようになった。


そして、高校生になった。










「よっ」

「お、姫やん」

「朝早いねぇ」

「今日も学校かい?」


 朝、登校。


 私は、沢山声をかけられる。

 もうそれは3歩歩けば声をかけられるくらいだ。


 高校生になって、こういうことが増えた。

 中学生時代の友達は、私とは違う高校に行ってしまって、仲のいい人は高校にはもういない。

 多分それとは関係ないのかもしれないけど、私はこうやって声をかけられることが多くなった。


 果てには姫、なんて呼ばれる始末。


 そのせいか、高校生になってから1ヶ月が経とうとしているが、私には友達、ましてや恋人なんていない。


「あー、生きてる人は肌が綺麗だねぇ」

「ほんと、人間の肌は綺麗ね、いいわぁ」

「あはは、魚の皮膚は気持ち悪いからな」

「なんですって?!」


 その理由は、私、憂原佳世(ういはらかよ)は、人間以外の、異形のものに好かれるからだ。


 マジマジと肌を見てくるのは、半透明の主婦。

 語感だけなら物凄いことになっているが、事実、目の前の主婦の幽霊はそうとしか表現出来ないのだ。

 ……どこにパンチパーマの主婦の幽霊がいるというのだろうか。


 それと、魚に手足を生やした怪物が、主婦とは反対の方向で私の肌を見ている。

 スーパーで売っている魚に、手足を生やしたらこんな感じなのだろうか、と思えるくらいに単純で気持ちの悪い見た目をしている。

 触ってこないのでいいのだが、なんか知らないけどアロマの匂いがするのがすごく気になる。


 そして、最後に頭の上に乗っている猫。


 尻尾が三股に分かれていて、これは私でも知っている。

 猫又だ。

 それが私の頭の上で優雅に座って、ケタケタと両隣の異形を笑っている。



 そんな異様な光景。


 ほかの人には見えないものが見えて、触れ合えて、コミュニケーションが取れる。

 別に悪くは無いが、高校生になってからというもの、知らない異形から声をかけられるようになった。


 今回も、猫又以外は初めて見るメンツだ。


 だから私は不用意に言葉を発せない。


 人間と同じく、タチの悪いものは異形にも沢山いる。

 その中には、言葉を巧みに使って、繋がりを持とうとする奴もいる。

 異形の間での言葉は、私たち人間のものと重みが違う。


 だから不用意に話せないため、私は周りと会話ができていない。

 だから私は、心の中で大きくため息をつき、いつものようにもうすぐ着く学校に思いを馳せようと…………


「こんにちは!」

「どわっほい?!」


 あまりにも会話をしていないせいで、リアクションが、なんて反省はあとにして、私は後ろを振り返る。


「こんにちは、憂原さん」


 そこに居たのは、身長が私よりちょっと大きいくらいの、男子。

 パッチリした二重に、短く切られた癖っ毛。

 学ランを着ているあたり、うちの生徒で間違いないのだろうが、私は学校で浮いている。

 1年生で、1ヶ月経とうとしているのに、既にみんなは、私には関わってはいけない、という風になっている。


「えっと、あの…………」

「あ、あんま無理しないで、黙ってていいから」


 私が話始めようとすると、彼はその話を遮る。

 周りの異形たちは、一斉に話をやめ、彼を見つめる。

 異形たちは、現実に影響を及ぼすことは出来ないが、人間には影響を及ぼすことも出来る。


 異形は人間と繋がりを得ることで、影響を及ぼすことができる。


 きっと異形は、彼と繋がりを得ようとしている。


 それも、とびっきり最悪の繋がりを。


「え、でもなんであなた黙っ……」


 その瞬間、彼は口元に指を当てがり、静かにするように、とジェスチャーする。

 その様子に、私の中にある考えが浮かぶ。


「あなたってもしかして「待って」…………」


 遮られる言葉、そして彼は1枚の紙を取り出して、私に渡す。

 私はその紙を受け取り、ちらりと目をやる。


「ふーむ、分かってるの」

「ありゃ、これは分かってる人だね」

「姫以外にもわかる人がいるのね……」


 周りの異形たちは、それぞれもう確信していた。

 そう、渡された紙には、『放課後、音楽準備室』と書かれていた。

 彼はそれだけ言い残し、会釈をして、去っていった。

 文字にされれば、揚げ足をとった繋がりはできない。


 それも、去り際に、明らかに魚人の人を避けて行った。


 見えない、触れることが出来ない筈なのに。


 私はその日、授業をまともに聴ける理由なんてなかった。











「ねーねー、ホントに行くの?」

「絶対やばいやつだって」

「そうそう、姫可愛いもんな」

「ほんとほんと、嫁に欲しいくらいだもん」


 時は放課後。

 いつの間にか魚人と、主婦の幽霊はどこかに行って、2人の少年がいた。

 その2人は、the天狗、というような服装と翼を持っていた。


 2人はまだ頭の上にいる猫又から事情を聞き、ふたりしてあーだこーだ言っている。


「ま、大丈夫じゃろう」

「ん?又さんなんか知ってんの?」

「ん?おやおや、天狗が2人に猫又1匹でなんともならんのかい??」


 この猫又、私含めみんなから又さんと呼ばれていて、妖怪界隈ではそれなりに有名らしい。

 その又さんの言葉に、2人はハッとして、


「そっかそっか、そうだよな、俺らいるもんな」

「そうだそうだ、そうに決まってるわ、俺らがいるからな」


 私は頭の上にいる又さんにガンを飛ばした……まぁ、気持ちだけだけど。


 そして、私は音楽準備室の目の前に来た。


 今年は音楽の先生がいないということで、管理者が校長になっている、らしい。

 それに、音楽系の部活が盛んではなく、部活そのものがないため、この時間帯はここには誰もいない。


 扉を開ける。


「お、こんばんは……かな?」


 そこにいたのは、日差しが差し込んだ教室に、ぽつんと置かれている椅子に座っている彼と、


 見えない何かがいた。


「みえ…………ない……?」

「お、やっぱり分かったか

 ……うん、多分そうなんだよねきっと」


 彼は、音楽の本やCDがずらりと並んでいる棚に向かって話しかける。

 私の耳には聞こえないけど、きっと彼は何かと話している。

 それは分かった。


「あ、ごめんね、隣人さんたち、俺はあなたたちが見えないんだ。

 でも、誓ってなにか危害を彼女に加えるつもりは無い。

 だから、会話を許してはくれないだろうか?」


 その言葉を聞いた天狗2人に又さんは、そこから動かなければいい、と伝えて欲しいと言った。


「そこから動かなければいいそうです」

「……ふぅ、それくらいだったらお安い御用だよ、ありがとうね」


 彼は息を吐き、両手を組んで、こちらを真っ直ぐ見る。


「それで、今回読んだ理由は、当然わかっている、と思うのだけど……」

「ええ、一応、異形……あなた風に言うなら、隣人のことについて」

「うん…………そうだよ」


 彼はまた、棚を見つめ、話している。

 私はその棚を凝視してみる。

 何かいる感じはする。

 しかも、かなり存在がある何か、だ。


 異形に力の概念はない。

 それら全てをひっくるめて、存在の大きさ、というふうに判断する。


 当然、存在が大きければ、大きいつながりを得るのも容易い。


 だから本当だったら嫌でも見える筈なのに、見えない。


「あの…………って、泣いてる?」


 彼は、私の顔を見て、驚いていた。


「いや、そんな泣くほどじゃ………って、見える仲間が見つかったからとか、かな?」

「あ、いえ、そんな事じゃなくて……」


 涙を拭いながら、私は話す。


「見えないものがあるのが、嬉しいなって」

「へ?」

「あ、私、大抵のものは見えるので、なんか見えないものがあるのが、なんか嬉しくて……」


 いまさら見える人が目の前に出てこようが、感動はない、というか絶対にいるとは思ってた。

 だが、別に見えること自体に悩みはなかったので、問題はなかった。

 ただ、私は見ることに関して、群を抜いて存在があった。

 際限なく見えるから、色々工夫したが、見えないものがなかった。

 だから、結果としては、敢えて見えないようにすることにした。


 それでも、見えないということに漠然とした願望があった。


 それが目の前にあるのが、嬉しかった。


「ありゃあ……まぁ、住む所が違うから、多分ほんとに頑張らないと見えないから、見たい時は言って」

「………………うーん、このなんともできない感じをもうちょっと味わいたいから、もう少し待って」


 その瞬間、彼は吹き出す。

 私は、なんかしたかと思い、疑問の表情をする。


「いやさ、君、学校では仮面の女、とか氷の女王、とか大層な名前で呼ばれているのに、ただの変な人だなー、って」

「な、変な人って?!」

「見えないのがいい、って変な人以外になんて言ったらいいの?

 ま、俺も大概変な人なんだけどね」


 そう笑う彼の顔は、なんだか中学生の頃の私が被った。



 なんとなく、だった。



 なんとなく、ちょっと私はかっこつけて、



「そんじゃ、ちょっと友達にでもなってみる?」



 茶目っ気をたっぷり付けた一言。

 彼はポカン、とした顔をしたあと、ニッコリと笑って、


「俺、熊澤空(くまざわそら)です!

 友達になって下さい!」


 そのストレートな台詞に、なんだかちょっと照れくさくて、私は頬を掻いた。

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