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新米城主、ノリと勢いで。  作者: 大紅三
第一章 敵国、西ベルン城へ
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赤と白

 その塔は、ニドと共に閉じ込められていた塔だった。

 静かに扉を開ける。日が出ていても相変わらず薄暗く、そしてカビ臭い。また、人の姿はなかった。

 ニドも見当たらないので、ゲオルグはゆっくりと階段を昇り始める。二階、三階と食料庫が続く。小麦の入った麻袋やワインの入った酒樽、チーズの並んだ棚などが整頓されて並んでいた。

 やがて天井が木製の階へと辿り着く。隙間から吹き込んでくる風を感じながら階段を駆け上がると、そのまま外の見張り台に出た。警鐘もぶら下がっている。

 そこには見張りをしていた男が一人。きょとんとした顔でゲオルグを見た。

「あれ? 君って確か昨日の……」

 ゲオルグは男の問いかけに一切気付いていない様子だった。台から辺りを見回す。

「あった! あれだっ!」

 川向こうの山の中腹に、静かに鎮座する白い城。

 後ろから問いかけが来る。

「ねえ、君って城門の前で騒いでなかった?」

 声の方向に振り向くと、背が高くてひょろっとした外見の男がいた。日焼けしているのか、頬や鼻の頭が少し赤らんでいる。

 その男の黒い瞳を覗きこむゲオルグ。

「なあ、あの城はもともと赤だったのか?」

「え? もちろんさ。今までずーっと東ベルン城はこの城と同じ赤だったよ」

「それが急に白くなったのか?」

「急と言ったら急だけど――ん?」

 下からドカドカと音を立てて昇ってくる足音に気付き、二人の視線は階段へと集まる。

「はぁ、はぁ……ちょっと……勝手にいなくならないでよね!」

 肩で息をしながら、ソフィーティアが姿を現した。

「あぁ疲れた! カール、水を持ってきて」

「は、はい! 今すぐに!」

 カールと呼ばれた背の高い男は慌てて階段を下りていく。

 ゲオルグが東ベルン城を指差した。

「見ろ。あそこにあるのが俺の城だ」

「東ベルン城ね。白く塗り替えられたみたいだけど」

「それはいつの話だ?」

 首を傾げるソフィーティア。

「ああなったのは、確か三、四日くらい前だったかしらね……」

「……元々、東ベルン城は赤だった。そして白く塗り替えられたのが三、四日前だとすると……うーん、俺が出発した後に塗り替えられた事になるな……」

 一人で呟くゲオルグの顔をソフィーティアが覗き込んだ。

「ねえ、それ何の話よ」

 ゲオルグは整理した結果を口にする。

「俺は赤い城に向かえと言われ、ようやく昨日ここに到着したんだ」

「えっ? それじゃあとっくに東ベルン城は白くなっているわ」

「そうだ。つまり赤い城はこの西ベルン城しかない」

「ああ、なるほど。それで間違えちゃってこの城に来たのね」

 ソフィーティアに合点がいったところで、カップを持ったカールが戻って来た。

「城主様、水です」

「ありがとう、カール」

 喉の渇きを癒した口でソフィーティアが尋ねる。

「ねえカール。あの城が塗り替えられた様子は見ていた?」

「ええ。この物見のカールはすべて見ていましたよ。大勢で塗っていましたが、ただ――」

「ただ?」

 思い出すようにしてカールが付け加える。

「あれは塗り替えというよりもデタラメに白くしているだけでした。今思えば、何か慌てていたような風にも思えます。塗る順序もちぐはぐでしたし、あの塗り方も汚いですし」

「ふーん……ゲオルグ、どう思う?」

 話を振られたゲオルグだったが、黙って考えるままだった。

 ソフィーティアが意地悪そうに笑う。

「貴方に来てほしくないから白く塗ったのよ!」

「馬鹿言え! 父上や母上がそんな事をするものかっ! 何か深い事情があったに違いない!」

 ゲオルグから反論が来て意外そうな顔をするソフィーティア。

「あら、あそこにはあなたのお父様とお母様が?」

「そうだ。俺が城主に就任する前の準備をするため、先に向かっていたんだ」

「うーん……準備をする中で白く塗ったの? それにしても変ね」

 何かに気付いたように、ゲオルグが険しい表情を作った。

「おい、俺を今すぐ解放しろ……今すぐだ!」

「そ、そんなこと出来っこないわよ」

「あの城で俺の両親に何かあったのかもしれないだろう! こんなところでボサッとしていられるかっ!」


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