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新米城主、ノリと勢いで。  作者: 大紅三
最終章 英雄の帰還
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エピローグ

 両ベルンを巻き込んだ事件から少しの日にちが経過した。落ち着きを取り戻した西ベルンでは、事件の概要をまとめるために真相を知るゲオルグを連日のように尋問する。

 嫌気が差したゲオルグが南東の塔へ逃げ込むと、カビ臭い武器庫の中で棚を移動させているニドがいた。

「ゲオルグか。ちょうどいいや、この棚を動かすから手伝ってくれ」

 二人で担ぎ上げ、武器の並んだ棚をずらすように動かす。すると、その裏から窓が現れた。カビ臭い空気は逃げ、新鮮な空気が入り込んでくる。

 ニドはそれを思い切り吸い込んだ。

「へっへ、新居がカビ臭ぇのは困るぜ」

「それにしても、お前がソフィーティアの配下になるとはな」

「オイラは断ったんだよ、死んでも嫌だって。そしたらよ、噛み付いてきやがったんだぜ?」

 ニドは腕をまくって見せると、ソフィーティアのものらしき歯型が付いている。

「信じらんねぇ事するよな……ま、利用するだけ利用して逃げるつもりだぜ」

「うらやましいな。俺は釈放の予定すらないぞ」

「ついてねぇよな、お前って」

 棚の上のほこりを払うニド。

「そういや、バルガは騎士団長を辞めさせられたらしいな?」

「いや。あれは自分から進んで辞めたそうだ」

「お前が代わりに騎士団長でもやったらどうだ?」

「後任はロバートがやるだろう。ソフィーティアがそう言っていた」

「うげげ、あいつの名前を出すなよな……傷がまた痛んでくるぜ」

 歯形の付いた腕をなでていると、扉が開かれた。

 赤い毛織物の服を着た、ソフィーティアである。

「ねえニド、私のことを呼んだ?」

「呼んでねぇよバーカ……いでっ! 叩くな!」

 呆れ顔でニドを一瞥するソフィーティア。

「ゲオルグに話があったのよ。城主として、ね」

 そう言われて断るわけにもいかなかった。二人は塔の最上部へと昇る。天気も空気もよい。さわやかな風が吹いていた。気持ちよく東西ベルンを一望できる。

「東西ベルンの統一?」

 急な話にゲオルグは思わず聞き返してしまった。聞き間違えではないか、という確認とその言葉の意味を考えるためである。少しばかり思案してみたものの、どうもその言葉の持つ意味は単純にそのままのようだった。ではなぜその言葉が出てきたのか、についての推察を行うより先にソフィーティアが話を続けた。

「そうよ!ずっと長い間、東と西で分けられていたけど、一つにまとめたほうが都合いいわ」

 どう都合がいいのだろうか。すぐに思いついたのは統一という名の一方的な支配である。東側が西側に吸収され、事実上の消滅ということだ。西ベルンにとってこれほど都合のいいことはない。

「そうだなあ……」

 適当に言葉をはさんで時間を稼ぐ。そう簡単にべらべらと口約束だけで決めていい問題でないことは明白だ。嬉しそうに話す彼女の真意をうかがう前に、回答の引き出しの準備とこちら側の交渉のテーブルにも着かせるために画策する。

 何しろ東ベルンは敗戦したのだ。状況が不利なのはわかりきっているが、少しでも好条件にしたい。相手はソフィーティアだ。少しは話の分かる人間、と都合よく解釈してみる。

 それに敗戦、とはとっても領地を失ったわけでも侵略や略奪をされたわけではない。多少の変化はあるが現状維持、戦う前の状況に戻ってはいるのだ。西ベルンに避難していた市民たちも続々と東ベルンへと戻っている。幸か不幸か戦の後にむしろ好転しているのだ。自分の両親の働きかけというのもあるだろうが、それにしても騎士と市民の士気は高まっている。一方的な吸収による統一は、まず間違いなく内戦の元になる。納得のいく理由や大義名分がなければ、理解と賛同は得られないだろう。

一応ここまで思いが至ったゲオルグは少しだけ安堵した。ソフィーティアもおおよそ似たような見当はついているだろうし、そうでなければ丁寧に説明すればいい。平和と安定を求めるのであれば、なるべく今のままにしておくのが最善である。

 ここまでは東ベルン側としての意見だ。都合の良い展開を思い描いてはみたが、西ベルン側としてはどうだろうか。一方的に宣戦布告してきた東ベルン側と命を賭して戦い、得られた報酬は特別ないようだった。恩賞や報酬がなければタダ働きである。ここの騎士たちは戦の後も落ち着き払ってはいるが、内心どう思っているかまでは見当もつかない。態度に出てはいないだけで俺を憎んでいても当然である。

 もし吸収による統一がなされれば、東ベルンを悪く思う理由は軽減される。なんだかんだ言っても自分たちの物になるとすれば、人も土地も大事に扱うだろう。それが自分たちの恩賞と報酬となるのだからなおさらである。待遇としては、攻め滅ぼされるよりはずっとマシだが。

 自分一人がここに来たとして、西ベルンの賠償の埋め合わせにはならないだろう事は重々承知しているし、今すぐどうすることもできない。自分の力量にも限度がある。

 自問しているうちに、ふと気が付く。今の自分にソフィーティアが提案をしたところで、何の権限もない時分にはイエスもノーも言えないのだ。ただ聞いてほしいだけなのだろうか。テレーズに相談はしているのだろうか。考えは尽きない。

 自分で回答できる範囲でまとめてみる。長期的か短期的か、支払いの期間を無視すれば払うことは可能だ。今の自分は一人ではない。自分の両親の判断でこの地に援助と補填資金をあてがうことも可能だし、東ベルンの財政さえ立ちなおせば、何年かはかかるだろうが不可能ではない。もともと前任までの城主たちの手腕が悪かったから今の自分はここまで苦労しているのだ、とも思えてくる。

 となれば統一は不都合だ。一度統一されてしまえば独立、離脱に時間や手間が何倍も必要となる。東ベルンを軸にさらに攻め込まれでもしたら大いに厄介となる。領土の分割程度なら仕方ないが、すべて統一となれば話は大きくなる。絶対に阻止しなければならない。

「ダメだ」

 長考した後、短く拒否を口にした。議論の余地もない、という意味合いでつぶやいたのだが、ソフィーティアは笑顔を崩さない。

「あら、何か勘違いしていない?」

「していない。倍賞は払うさ。時間がかかるだろうが、必ず」

「それも帳消しになるのよ?」

「……どういうことだ?」

 拒絶から一転、急に彼女の話が気になった。そんなうまい話があるのだろうか。東ベルンの状況も理解していなければ、こんな提案はもちろんできない。

「テレーズが教えてくれたんだけど」

 やっぱりな、と思った。だがここから違った。

「えっと、ゲオルグのご両親がここに来たのって、お母様のご先祖がこのベルンの、それも西ベルン寄りの出身らしいのよ」

「そうなのか?」

「そうなのかって、あのねえ、こんな国境にあなた達みたいな王族がこんなにもゾロゾロ集まるなんておかしいと思っていたのよ! ちゃんと理由があるんじゃない!」

「す、すまん」

 咳払いをするソフィーティア。別に怒ることが目的ではないので気持ちを落ち着かせ、一呼吸おいてから話を続ける。

「ベルンを明確に東西に分けたのは私の家系が途中で介入したから。西ベルンをご先祖様が領土として欲しがったのよ。だから私なんかでも子孫だからって理由で城主をやっていられるんだけど、それよりもっと前からこの地に住んでる……そうね、テレーズやカールなんかはさ……」

 まとめるとこうだ。東西ベルンは元々分かれていなかったが、時代の変化で別れてしまった。それを元に戻す、それが今回の統一の話だ、ということらしい。

「あなたのお母様が世代を超えての大出世でしょう? こんな田舎のベルンから王族が輩出されるなんてさ。テレーズやカール達みんなの家系と、あなたのお母様の家系は、千年単位の昔から友好同盟があるのよ。当時書かれた羊皮紙の書状が保管されてたわ」

「友好同盟……」

「つまり、戦っちゃうと同族殺しになっちゃうでしょ? そんなのやめやめ」

 今回は戦ってしまったが、反逆者首謀によるものなのでノーカウントではありそうだ。

「それよりもよ! 東西ベルンを統一したら、私の一族ごと面倒見てよね」

「?」

「私の一族のちっちゃな領主レベルじゃなくて、ゲオルグの家系の国家レベルの支援を受けちゃえば、みんなの暮らしが豊かになるもの」

 確かにそうではある。ベルンがどうのという狭い枠組みは越えた関係になるだろう。

「騎士たちも首都に配属させてあげれば、もうそれだけで出世に直結だわ! 海をも越えて新世界に挑むのよ」

「海の先か……活躍の場は多いな」

「でしょう?残りたい人は残っててもいいし」

 だいぶ合点がいく説明まで掘り下げる事ができた。筋も通っていておおよそ納得のいく条件も揃っている。

「そうだな! こっちとしては西ベルンを含めたこの辺り一帯が領土になるんだ」

「そうそう。これがこの地の本来の正史よ」

「じゃあ今すぐにでも」

「ダメよ! そんなすぐにくっつけちゃったら面白くないじゃない」

 意地悪そうにソフィーティアは口角を上げて笑みを作った。足を開いて腕組までしている。テレーズが見たらはしたないと注意を受けるポーズだろう。

「面白い面白くないで政策を取られても困るんだがな……」

「なあに? 犬が主人に文句足れんじゃないわよ」

「キャインキャイン……」

「思い出したけど、ゲオルグって東ベルンの頂上で私に殺されたいかだの、俺は神になるだのメチャクチャ言ってたわよね」

「あれは、ノリと勢いで……」

「よく言うわ。減点! すっごい減点対象」

 ソフィーティアとは対照的に背中がどんどん丸まっていくゲオルグ。頭痛までしてきた。

「それに、この話はこちら側から提案するからこそ大義名分が立つのであって、敗戦した東ベルン側からではできないことよ。私も立派な城主として歴史に名が残る! ま、このままでもいいんだけれど~」

「そ、それはまずい!」

「ね? しばらくは私の言うこと聞いてちょうだいよ」

 スキップしながら階段を下りていくソフィーティア。ゲオルグも後を追う。

「そんな事より聞いて! 三人でまた城を抜け出すわよ!」

「懲りねぇな、お前もよ……で、どんな用事なんだ?」

 ソフィーティアは一冊の古ぼけた本を取り出した。

「西にある古代遺跡にね、神が振るった聖剣が隠されているらしいのよ!」

 ニドはそのページに夢中で目を通す。

「こいつは面白そうだ! よし、行こうぜソフィーティア!」

「ゲオルグも行くわよね?」

「どうせ断っても無理矢理連れて行くんだろう? だったらさっさと行こうじゃないか」

 ソフィーティアは本をカバンにしまった。

「じゃ、決まり! 出発出発!」

 ソフィーティアとニドは南東の塔から外へと出る。

 ゲオルグは武器庫に飾られた一陣の槍を手にした。緑の石が窓から差し込む太陽の光に照らされ、淡い光を放つ。

 それを眺めていると、ニドが外からゲオルグを呼んだ。

「早く来いよ。置いていっちまうぞ?」

「待て、俺は一陣の騎士だ。誰よりも先駆けて進むのが俺の役目なんだ」

「何でもいいから早く来いよ」

「まったく、これだから盗賊は困る……」

「な、なんだよそれ! 馬鹿にすんなよな!」

 がなるニドを適当になだめつつ、ゲオルグは塔から外に出る。快晴の空が広がっていた。

「よし行こう! 二人とも、俺に続けっ!」

 雄大なメルメトの山々から一陣の風が吹く。ゲオルグの進む先は、その風だけが知っていた。


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