西ベルン城
ぶつぶつとゲオルグに文句を言うスレイにソフィーティアが歩み寄る。
そして、山に響くほどの音が出る張り手を横っ面に打った。
「ぶぐわっ!?」
「挨拶代わりよ」
鼻血を垂らし、涙を溜めた瞳でソフィーティアを見るスレイ。
「ど、どなたですかな?」
「私は西ベルン城城主、ソフィーティア・クレイフィールドよ」
「おお、君が西ベルンの若き城主か! ニド君から噂は聞いて――らべりゃっ!?」
黙らせるように、ソフィーティアの手刀がスレイの額を直撃した。もんどり打って痛がるスレイの顔を、ソフィーティアが靴で踏みつけた。
「要するに、東ベルンの貴方達の面倒事へ、西ベルンの私達を巻き込んだのよね?」
「そ、それはその……えー、その……いだだだ……痛いです……」
「……巻き込んだのよねぇ?」
「いーだだだだっ! ぞ、ぞうでずぅ……」
顔面が変形したスレイは、逆流した鼻血を口から吐き出しながらどうにか答えた。
返答を聞いたソフィーティアはゲオルグの首根っこをつかむ。
「さ、西ベルンに帰るわよ」
「何っ!? ちょっと待ってくれ! 解決したんだし、解放してくれてもいいだろう!」
「え? なんで? ねえ、なんで? 馬鹿? 頭おかしくなったの? 大丈夫?」
「なんでと言われてもな……ち、父上、助けてください……」
スレイは起き上がり、腰を限りなく低くしてソフィーティアの元に進んだ。
「あのう、ソフィーティア様。息子を放してくれませんでしょうか? 恥ずかしくも、この東ベルン城の新城主という役割を担う人間でして、はい……」
ソフィーティアはスレイに唾を吐きかけた。怯えて震えるスレイに睨みを利かせる。
「ゲオルグの身代金と戦に掛かった費用と経費、それから火事で焼けた森とブドウ畑に東ベルン兵が踏み荒らした小麦畑の損害額、それから色々な迷惑料をまずは払ってほしいわ」
「い、一体おいくらで?」
「はぁ? なんで私がそんな面倒くさい計算をしないといけないの? いいわ。面倒だから東ベルンを全部ちょうだい。城とか村とか領土とか」
「そ、それはあまりに無茶な取引では……」
「じゃ、やだ。帰る」
ソフィーティアはゲオルグを引きずりながら歩き出した。
ゲオルグがじたばたと抵抗する。
「母上ーっ! 助けてください母上っ!」
「に、西ベルンで頑張るのですゲオルグ!」
「そんなっ! たぁぁぁすけぇてぇぇぇ! いぃやぁだぁぁぁ!」
と、城門からどやどやと騎馬隊が入って来た。薔薇の描かれた旗を掲げるその軍勢の中から、テレーズが現れる。
「ソフィーティア様! ご無事ですか?」
「見ての通りよ。事件も解決したわ。城に帰るわよ、はい」
ソフィーティアがゲオルグを突き出した。
状況を理解した兵士達が、ゲオルグを突き倒してその上に乗っかり出す。
「ちょ、ちょっと待っ――どわぁぁぁぁっ!?」
そして重みで気絶させると、縄で縛って馬に乗せた。
テレーズはソフィーティアの手を引いて、自分の馬に乗せる。
「では、このまま城に戻ってもいいのでしょうか?」
「お願いするわ。今からこの城をぶっ潰すのも面倒だし、一度戻りましょ」
騎馬隊を先に外へ出した後、ソフィーティアは向き直った。
「ニド、その槍を持って一緒に来てくれる? 美味しいご飯をご馳走するわよ」
「やったぜ! 行く行く!」
「それじゃ、西ベルン城に向けて出っ発!」
こうして一行は、夕日の沈む西ベルン城に向けて穏やかな風と共に進み出した。




