顛末
ソフィーティアの椅子の下に隠れていた、狭い階段を下りていく三人。
槍を担いだニドがニカニカと笑い出す。
「ところでゲオルグよぉ、今回はオイラのおかげで助かっただろ? な?」
「……ニド、お前は塔の入り口からその槍を盗み出そうとしただろう」
「げっ!? な、なんで知ってんだよ!」
「でなければ、その槍は風に乗ってもっと早く俺のところに飛んできていたはずなんだ。つまり、今回はお前のせいで死に掛けた」
ニドは明後日の方向を向いて口笛を吹いた。
ソフィーティアがその頭を叩く。
「火事場泥棒しようだなんて、あーあ、ニドってろくでもない人間ね」
「ぶつなよ! ゲオルグの両親を助け出す代わりにくれるって、約束したんだぜ!?」
狭い階段の中で槍をぶんぶんと振り回し、不快感を表すニド。
ゲオルグはうつむいた。
「……だが、お前は失敗したんだろう。槍を返してくれ」
すると、歯を見せてニドが笑った。
「へっへっ、人の言う事をポンポン信用すんなって、お前に言ってやんなかったか?」
「?」
階段を下りきり、三人は塔から出る。
すると、そこには女性と男性、二人の人物が立っていた。
女性の方は目元と鼻が、男性の方は口元と輪郭がゲオルグにそっくりな形をしている。二十年後のゲオルグを表現したような、そんな二人だった。
その二人の姿を見て、ゲオルグは大声で叫ぶ。
「ち、父上っ!? それに母上もっ!?」
そのゲオルグの父、スレイは金獅子の紋章が縫い込まれたマントを翻した。
「ハッハッハ、どうしてそんなに驚くんだ?」
そしてゲオルグの母、イレーヌは口元に手を当てて優しく笑う。
混乱する頭を整理しつつ、ゲオルグは状況の理解に全力を尽くす。
「しょ、処刑されたはずでは……あっ、ま、まさか!?」
後ろを振り返ると、ニドが腹を押さえて笑い始めた。
「だーっはっは! そうだよ、お前は騙されたんだよ! やーいやーい!」
「どういう事だニドーっ!」
怒ったゲオルグがニドを追いかける。ニドはスレイの背後に逃げ込んだ。
「助けてスレイ様ぁ!」
さすがのゲオルグも、父の背後に逃げたニドには手が出せなかった。
スレイが厳しい視線でゲオルグを睨みつける。
「ゲオルグ、よさないか」
「す、すみません父上……」
ニドがスレイのマントの間からにゅっと頭を出した。
「ふざけんなよゲオルグ! ざまあみやがれバーカ!」
ニドは無視して、ゲオルグはスレイに問いかける。
「どういうことか、説明してください!」
「うむ。このニド君に、一芝居してもらったというわけだ。我々が死んだという嘘をお前に話すように頼んだのだ」
「どうしてそんな事を?」
スレイは呆れるように顔をしかめた。
「そんな事も分からんのか、この馬鹿が」
「分かりません! 教えてください!」
懇願するゲオルグ。スレイは仕方なさそうに話し始める。
「昨日の夜中、ニド君が牢屋にいる我々を助けに来てくれたのだ。そこで今の東西両ベルンで起こっている事をすべて教えてもらったわけだ」
「そ、それのどこに嘘を言う理由が……」
「いいから黙って聞け。お前は大方、人質となった我々を救出した後にクロードとの決着を付けるつもりだったのだろう?」
ゲオルグは黙って頷くと、スレイが怒鳴った。
「そんな真似、死んでも出来るか!」
「何故ですか! 処刑されると思い、私は父上と母上を助けようとしたのですよ!?」
「この大馬鹿者がぁぁぁぁっ!」
スレイはゲオルグを思い切り殴り飛ばした。
「市民を見捨てて自分だけ逃げ出す主君がどこにいる! 騎士道精神に反する行為だ!」
「そ……そ……その通りでしたぁーっ!」
ゲオルグはしおしおとその場に座り込んだ。
「私が間違っていました!」
「お前はすべてが間違っているぞ、まったく……今回の件、お前は百点満点中の二点だ。槍を預けたのも間違いだったのかもしれん」




