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新米城主、ノリと勢いで。  作者: 大紅三
最終章 英雄の帰還
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焔の小太刀

 傷つき倒れたゲオルグを、ソフィーティアが瓦礫の中から抱き起こす。

 ゆらゆらと歩きながらクロードが近付いて来た。

「まだ息があるのかい? 確実にとどめを刺しておこうか」

「ダ、ダメっ!」

 ゲオルグをかばうように抱き寄せるソフィーティア。クロードが舌打ちをする。

「退いてくれないかな。君に死んでもらうのは色々とよろしくない……」

「嫌よ! 絶対に退かないわ!」

 クロードは感触を確かめるように小太刀を振り直す。

「どうして敵国の城主をかばうんだい?」

「西ベルンで、私はこの人の主君になったの。例えそれが仮初めの関係だとしても、配下を守るのは主君として当然の務め……死んでも守り抜くわ!」

「……賢くない上に生意気だな。理解に苦しむよ」

「配下を森ごと焼き殺そうとする貴方なんかに、理解できる訳がないわ!」

「う、うるさい! ええい、それなら望み通り殺してあげようか!」

 焔の小太刀を頭上に構え、クロードは天井を突き抜ける高さの火柱を作り出した。

 ゲオルグは瞬時に危険を察知する。ソフィーティアを振りほどこうと必死にもがいたが、小太刀の一撃を受けた体には起き上がる力すらも残っていなかった。

「に、逃げろソフィーティア! 死ぬぞっ!」

 しかし、ソフィーティアはゲオルグの体を優しく抱き締める。

「ありがとうゲオルグ……ごめんね……」

「ダメだ逃げろっ! 逃げろぉぉぉぉっ!」

 クロードが、焔の小太刀を振りぬいた。渦巻く火柱は周囲の瓦礫を吹き飛ばし、二人に向かって迫る。

 火柱が最大限に膨れ上がった、その瞬間だった。

 まばゆい閃光がソフィーティアの懐から溢れ出すと、燃え盛る火柱を打ち消した。

「うおおっ!?」

 クロードが反動で吹き飛ばされると、辺りに静けさが戻る。

 なおも淡い光を出す懐に手を入れて、ソフィーティアは小太刀を抜き出した。

「こ、これのおかげなの……?」

 倒れるクロードに向け、柔らかな光を放ち続ける焔の小太刀。

 クロードはすぐに起き上がる。

「盗まれていた小太刀、君が持っていたのか……!」

 瓦礫から起き上がり、ソフィーティアを平手で打った。

「きゃあ!」

「それは私の物だ! 返せっ!」

 倒れたソフィーティアの手から小太刀が落ちる。クロードは拾い上げた。

「ようやく二本揃った……今度こそ死んでもらおうか!」

 後ろに飛んで距離を置き、クロードは焔の小太刀を両手に持って空へと掲げた。

「焔の小太刀の真の力を見せてあげよう!」

 二本の小太刀は、雷が鳴る雲に向かってそそり立つ炎を生み出すと、クロードの頭上に巨大な剣を形作る。

 やがて部屋へと強い風が吹き込み始めた。熱風となって渦を巻き、瓦礫を吹き飛ばす。

「どうだっ! この強大な力で世界を支配するのだっ!」

 しかし、吹き付ける風は突如としてクロードを包む突風に変わり、さらには炎の剣をも消し去った。

「な、なんだ!? 何が起きたんだ!?」

 握った小太刀に目をすえてじっと見た。原因が分からずクロードが少なからず動揺していると、先程から吹き続ける風と共に階段を駆け上る足音が下から響いてくる。

 そして、一陣の槍を持ったニドが現れた。

「ゲオルグ、使え! お前の槍だっ!」

 ニドが投げた槍は寝ているゲオルグの手の中に納まった。

「俺の槍……俺の槍だ!」

 強く握り締める。すると吹き出していた風の流れが変わり、ゲオルグの体を包み込む。

「おお……おおおおっ!」

 途端に心臓の鼓動が強くなる。熱気を帯びた血が体中を駆け巡るのを感じつつ、ゲオルグは立ち上がった。

 一陣の槍を構え直して、切っ先をクロードに向ける。

「降伏しろ……もう貴様に勝ち目はない」

「随分と強気だね……そんな体でっ!」

 クロードは再び炎の剣を作り出し、ゲオルグ目掛けて振り下ろした。

「死ねぇーっ!」

 だが、炎の剣はゲオルグに当たる前に突風で掻き消える。

「ば、馬鹿なっ! こんなことがあってたまるかっ!」

 何度も繰り返し失敗するクロードと、微動だにしないゲオルグ。

 ゲオルグが諭すように言う。

「クロード、潔く負けを認めろ」

「嫌だ……嫌だ嫌だっ! 嫌だ嫌だ嫌だぁーーーっ!」

 クロードは小太刀を無茶苦茶に振り回した。まとまりもなく形も成さない炎が部屋中を見境なく飛び交う。ゲオルグ、ソフィーティア、そしてニドは一陣の槍が作り出した風の障壁に守られる中で、その光景を黙って見ていた。

 やがて小さな火柱がクロードの背中に当たる。その場へ崩れ落ちるように倒れ込んだ。

「ま、まだだぁ! 焔の小太刀の力は、こんなものではないはずだっ!」

 クロードは自分の右腕に焔の小太刀を突き刺す。

「うぐうっ!」

 流れ出す血が、油のように燃え出した。

「こ、これだ! 私こそが焔となるのだ!」

 そして左腕にも突き刺すと、二本の小太刀は発火を始める。その炎が揺らめく様を、酔いしれるようにクロードは眺めていた。

「ククク……アハハハハ! 燃えろ燃えろっ! 私を焔にしてくれーっ!」

 炎はクロードの全身を一気に飲み込む。すると、徐々にその肉体を消していった。

「ああっ!? 何故だ! 何故なんだ! 私は、ほ、焔に……焔にぃっ!」

 クロードと共に、炎は少しずつ小さくなっていく。

「そんな……う、うぎゃあああ……」

 そして焔の小太刀が生み出す光と炎に包まれ、クロードの体は跡形もなく消え去った。

 すべての現象が収まり、残った二本の小太刀だけが虚しく落下する。

 風を止め、ゲオルグが小太刀を拾い上げてソフィーティアに手渡した。

「激しく迷惑な奴だったな」

「……これで終わったの?」

「そうだろう。あー、それにしても疲れた。飯をたらふく食って寝たい」

 槍をニドに手渡し、大きく背伸びをした。ニドは槍を肩に担ぐ。

「こんな場所、さっさと降りようぜ。森の火事は全部鎮火したみたいだしよ」

「そうなのか?」

「ああ。オイラがここに来る頃にゃ、そりゃもう雨ですっかりと」

 ニドは空を指差した。降り続いていた雨は上がり、空に晴れ間が現れている。

「下へ戻ろうぜ!」

「ああ……だが、階段はどこだ?」

 見渡す限りの瓦礫の山は、階段をすっかり隠していた。

 ソフィーティアは倒れていた椅子を直して座る。

「さ、とっとと探し出してよね。私は力仕事なんてやらないわ」

 ゲオルグとニドは文句を言いながら瓦礫を撤去し始めた。


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