決裂
「なぜだい? 理由を教えてくれないか?」
「理由は二つ。一つは、世界に支配者は二人も必要ない」
「なぜだい? 私と君で、二人いてもいいじゃないか」
「違う。俺一人でいい」
「……え?」
目を点にして沈黙するクロード。
ゲオルグが説明を加える。
「俺は神をも従えて、世界を支配するつもりだ。お前と手を組む理由はない」
「神だって? どういうことだい? その内容を、ぜひ聞かせてくれないか?」
割れたカップをゲオルグが黙って指差した。クロードは視線を落とす。
「……そうだった、残念だよ。じゃあ二つ目の理由は?」
「それはお前が卑怯だからだ。騎士道精神のかけらもない」
「目的のためなら多少の悪事も仕方がないと思ったんだけどね……まあ人それぞれ、ある程度の考えの違いがあって当然かな」
「ある程度、じゃない。お前とは何一つ考えが合わない」
納得のいった様子で二、三度と頷くクロード。
「まあ、要するに私とは手を組みたくないと、そういう事になるのかな?」
「そうだ」
「本当に?」
「本当だ」
「絶対?」
「絶対だ」
「気が変わることは?」
「ないな」
「私が好きかい?」
「大嫌いだ」
「手は?」
「組まない」
クロードは嘆息し、肩を落とした。
「残念だ。非常に残念だ。君なら未来の支配者たる私にとって、生涯頼れる唯一の同輩になれるだろうに」
「俺もお前を配下にしたかったが、そうもいかないらしいな」
「君のように優秀な人材を殺すのは実にもったいないが、今だけは私のもったいない精神を心に仕舞うとして――」
ゲオルグは、クロードが服の下から懐に手を入れたのを見逃さなかった。咄嗟にテーブルの下に屈む。
直後、一本の小太刀を抜き出したクロードが叫んだ。
「死んでもらおうかっ!」
蛇のようにうねり、しなる火柱がゲオルグの頭上をかすめる。屈んだ反動で膝を伸ばし、テーブルの下から飛び上がってクロードのあごに拳を叩き込んだ。椅子ごと後ろへ吹き飛ぶクロード。背中を床に付いた瞬間、その腹の上にゲオルグの踵による追撃が決まる。金属板が仕込まれたブーツがめり込み、その痛みにクロードは顔をしかめた。小太刀を振ってその脚を狙ったが、ゲオルグは飛び退いて倒れたテーブルの陰に身を隠す。
間髪入れず、二発目の火柱がテーブルに直撃した。焼き尽くされ、一瞬にして炭と化す。ボロボロと崩れ落ちた灰の先に、すでに十分な距離を取ったクロードの姿が見えた。
二本の火柱はなおも燃え盛り、狭い部屋の中をしばらく浮遊すると天井に激しく衝突した。木製の天井はもろくも崩れ、大量の瓦礫が室内に降り注ぐ。
ゲオルグが崩れた天井の瓦礫を押しのけると、クロードが瓦礫の中から現れた。
「参ったねえ……私の小太刀が盗まれたままでね、力を上手く制御できないんだよ」
「焔の小太刀はお前の手元にあるだろう」
「違うんだよゲオルグ君。焔の小太刀はね、二本で一組の武器なんだ」
クロードは手の中で小太刀をこね返す。
「この一本だけだと、強大な力を制御できないんだ……こんな風にね!」
「うああっ!」
避ける間もなく、放たれた火柱がゲオルグの胴体を直撃した。弾き飛ばされ、ソフィーティアの横の壁に叩きつけられる。
その衝撃で壁の一部が崩れ、ソフィーティアは鎖の束縛から解放された。
「ゲオルグ、大丈夫!? ああ、なんてひどい……」
「う……げほっ! う、うう……」




