城主と騎士団長
「生きているのか?」
「もちろん。でも、あまりに私の言う事を聞かないから、眠ってもらっていたんだ」
クロードはソフィーティアの足元に自分のカップ放り投げる。割れた音でソフィーティアは目を覚ました。
「ううーん…………あっ!? ゲオルグ! 何をしてるの!?」
「クロードと話をしているんだ」
「そいつはまともじゃないわ! 話なんか聞いたらダメよ!」
鎖をがちゃがちゃ鳴らして暴れるソフィーティアは、クロードを怒鳴りつける。
「さっさと解きなさい!」
「やれやれ、せっかく捕まえたのに全然静かにしないね。猛獣より扱いに苦労するよ」
「ゲオルグ! 早くやっつけて! ゲオルグっ!」
ゲオルグはソフィーティアを避ける様にして視線を外す。正面に向き直ると、肩を震わせてクロードが笑っていた。
「ククク……ゲオルグ君は人気者だね。西ベルンの城主様は君の事が大好きみたいだよ?」
「そうだろうか。あまり興味ないな」
「おお、その大人びた台詞! なるほどなるほど、格好良いよ、うん」
一人で盛り上がるクロードに嫌気が差すゲオルグ。カップの紅茶を静かに口にし、テーブルに置いて振り向いた。
「ソフィーティア、少し静かにしてくれないか。話ができないんだ」
「どうしてそんな悪人と話なんかするのよ! 出された紅茶まで飲むだなんて、信じられないわ!」
「とにかく黙ってくれ。やかましいのは西ベルンの中だけにしないか」
「そんな言い方ないでしょ! 東ベルンに戻って来たからって、調子に乗ってるわけ!?」
「……何だと?」
怒りに任せてゲオルグがテーブルを拳で叩く。
「いい加減にしろっ! 殺されたくなければ黙れっ!」
攻撃的な視線はそのままだったが、ソフィーティアはようやく口を閉じた。
ゲオルグは座りなおす。
「騒いですまなかった。あいつはお前の言う、賢くない人間なんだ」
「でも彼女は君の言う事なら聞くんだね」
「もう、よしてくれ」
話題を打ち切るため、ゲオルグは咳払いを一つ。
「はっきり言って、お前がここまで頭の切れる奴だとは思っていなかった。だが、話してみてすぐにわかったぞ。さすがに俺を出し抜いただけはあるな」
「君に褒めてもらえるだなんて、光栄だね」
「この城を塗り変えた時点で、俺はそれに気が付くべきだったのかもしれない」
クロードの顔色がパッと明るく変わる。
「そう! 単純だけど妙案だったと自分でも思うんだ。あまり塗り色は良くなかったんだけどね。何なら他の色に塗ろうか? 個人的にはピンクが好きかなぁ」
「いや、今のままでいいだろう。どうせすぐに風ではげ落ちる」
「確かにね。ところで、このメルメトに吹く山風はどうだい?」
ゲオルグは窓の外に視線を移し、広大な山々を眺める。
「割と良いぞ。俺の好みに合うようだ」
「それは良かった。風に詳しいと聞いていたから気にしていたんだ……君は一陣の槍の使い手だから、ね」
横目でクロードを見る。返答を求めるように伺い見るクロードの視線には答えず、ゲオルグは残った紅茶をすべて口に含む。
「……」
「こういう話は嫌いかな?」
一気に紅茶を飲み干し、そして頷いた。
クロードはテーブルに肘を付いて両手を組む。
「……実はね、私は君の情報をほとんど持っていないんだ。どうせすぐに死ぬだろうと思ったから」
「だからと言って、楽しく自己紹介をしてやるつもりはない」
クロードの眉がわずかに動いた。
「……質問を変えよう。槍はどこに置いてきたんだい?」
「……」
「紅茶がないと口を開けてはくれないのかなな? お代わりをどうぞ」
ゲオルグはカップを床に投げ捨てた。
「もういいだろう。時間がもったいない」
「それじゃあ、そろそろ本題に入ろうか……」
クロードは声のトーンを少し下げた。
「私は君の事を本当に凄い人間だと思っているんだ。それでだね、この際身分や生まれは一切忘れて、私と同輩になってもらいたいのだよ」
「なってどうする」
「私とゲオルグ君の二人なら、世界をも支配できると思うんだ」
「世界を? ハハッ、ハハハハ……」
声を出して笑うゲオルグに、クロードは怪訝な顔をする。
「おかしいかい? 私はいたって本気なんだけどね……」
「それじゃあ、お前は手始めにこの東と西の両ベルンを支配しようとしたわけか?」
「その通り! 騎士さえいなくなれば支配は簡単。彼等はいちいち盾突くから邪魔だったんだ。ま、残念ながら炎は君がだいぶ消してしまったようだけれどね」
窓から森に目を向けて、辺りに漂う若干の焦げ臭さを嗅ぐクロード。
ゲオルグは背もたれに体重を預けた。
「お前は怖いくらいに頭が切れるな。実に練られた策略だ。相当に入念な準備をしたことも容易に想像できるぞ」
「分かってくれるかい? 嬉しいな。苦労話を一晩使って語り尽くしたいくらいだ。聞いてほしくてたまらない」
嬉々として話すクロードに、ゲオルグは掌を見せて拒絶した。
「だが、やはりお前と手を組む事はできないな」
クロードの顔が残念そうに曇る。




