事の真相
森から立ち上る煙は雲を呼び、雲は雨を降らせ始めた。
立ち込める黒煙によって視野が奪われる状況下で、バルガは迷うことなく森の中を駆けていく。確信に近い予測を元に馬を走らせていった。
そしてバルガは案の定、火の手が一切及んでいない道に辿り着く。不自然なほどに安全が確保された道だった。道なりに東へ進むと、そこに先を走る一騎の黒い騎士。
その騎士はバルガの存在に気付き、横目でちらりと見る。
バルガは馬を飛ばし、騎士の前に立ちはだかって止まらせた。
「止まれクロード! お前の行動は筒抜けだ!」
騎士はソフィーティアを前に乗せ、その後ろから手綱を引いていた。
ソフィーティアが馬上で叫ぶ。
「バ、バルガっ! 火を付けたのはこいつよ!」
バルガは騎士を怒りに燃える瞳で鋭く睨みつける。
「許さんぞクロードっ! 何とか言ったらどうだ!」
「おやおや……友の行く手を阻むのですか?」
「わしを裏切りおって、何が友だ!」
ソフィーティアは背後を振り返った。筋の通った鼻に横長の切れ目、そして細くもしっかりとした体を黒い鎧で包んだ男が、本当に薄っすらと笑みを浮べている。笑うわけでもなく、むしろ無表情に近い顔つきでバルガを見据えていた。この熱気の中でも額には汗一つ浮べておらず、まるで涼しげである。
気味悪さを覚えながらも、ソフィーティアは騎士に尋ねた。
「一体、何者なの? バルガと何か関係が?」
「私はクロード。バルガには東ベルン新城主の始末をお願いしていたのです」
「な、何ですって? バルガ、どういう事なの?」
押し黙るバルガ。クロードが続けた。
「ですが、どうも思ったように上手く動いてくれなかったので、私自らがこうして動くことにしたのです。やれやれ……」
クロードの背後で焼け落ちた巨木が倒れた。じわじわと周囲の木々が燃え始める。
「さあ、さっさと道を空けてください。命くらいは助けてあげてもいいのですよ」
「断る! ソフィーティアを放せ!」
剣を引き抜いて切っ先を向けるバルガ。しかしクロードは動じなかった。
「なるほど、あくまでも西ベルンの人間として生きる気ですか?」
「腐ってもわしは騎士だ! 仲間を裏切る事はせんぞ!」
「……残念です。しかしその剣で何をするというのです? こちらには人質がいるのですよ? ククク……」
クロードはソフィーティアの首に腕を掛け、締め上げる。
「ああ……あ……」
「くそっ、やめろ! わしと勝負しろ!」
「勝負? 寝ぼけた事を……」
クロードは左腕でソフィーティアの首を絞めつつ、右手で一本の小太刀を取り出した。赤い石が柄に埋め込まれたそれは、鞘から引き抜かれて赤い刀身を見せる。
「退かないのなら、退かすまでです!」
クロードが小太刀を一振りした瞬間、切っ先から前方に向かって渦巻く火柱が発生した。唸りを上げながら真っ直ぐに伸び、バルガの体に直撃する。
「ぐおおおおっ!?」
バルガの体は吹き飛ばされ、木に叩き付けられた。ぐったりとしてその場に崩れ落ちる。
ソフィーティアが息を飲んだ。
「ひ、ひどい……」
「もう少し利口に生きればいいものを……」
クロードはそれだけを言い残すと、意識を失ったバルガを後にソフィーティアを連れて走り去る。
しばらくしてバルガが意識を回復した時、道に倒れていた巨木は大半が燃え尽きていた。
そして、目の前にはゲオルグがいた。
「おい……おい! 無事か!?」
ゲオルグが呼びかけると、バルガは小さく口を開けた。
「……ゲオルグ、か……?」
「そうだ、俺だ」
バルガは木にもたれながら、空を見上げて深いため息をついた。
「ああ……思えば金に目が眩んだわしが馬鹿だった……」
「何の話だ? もう少し分かりやすく頼む」
「お前を殺すようにクロードから頼まれていたが裏切られ……ソフィーティアも目の前でさらわれてしまったのだ……」
「……なるほど、話が見えてきたぞ。ここで二人に会ったんだな?」
「そうだ……わしは奴の放った不思議な炎にやられたのだ。この火事も奴の仕業……」
焼け焦げて変色した鎧をなでるバルガ。
ゲオルグは辺りを見回した。
「二人はどこに向かった? 今すぐに追いたいんだ」
「見てはいないが、この道は奴が城へ戻る時に使う道……東ベルン城へ向かったに違いない。東へ道なりに進めばいい……」
「分かった。直に兵士がここに来る。そのまま休んでいろ。後は俺がやる」
ゲオルグはシェルバに跨って東に進み出した。風を起こして煙を退かし、姿勢を低くしてその中を突っ切る。
やがて熱気の篭る森を抜け、丘陵に出た。すぐ目の前に城がそびえ立っている。休む間もなく進もうと手綱を握りなおしたところで、シェルバの足が止まった。




