分隊
兵達が怯える中で、ゲオルグだけは森の中を駆け回った。
一陣の槍を掲げて突風を起こし、燃え盛る火の勢いを弱めていく。風によって北へと追い返された炎は、すでに燃え尽きた木々の中で消えていった。
しかし、火事の規模はゲオルグだけではどうにもならない域に達する。
ゲオルグは森から一度抜け出し、川にいる両軍に向かって叫ぶ。
「東西に溝を掘って火の手を食い止めるんだ! 逃げていてはこの軍勢どころか、この山ごと国も人々もすべてが焼き尽くされるぞ!」
両軍の兵士達は慌てて川から上がり、剣や槍を使って溝を掘り始めた。南側へ火が回らないように、燃えそうな木は先になぎ倒す。
ゲオルグは鎮火するためひたすらに走り回っていると、北から軍勢を引き連れたテレーズがやって来た。随分と慌てた様子である。髪飾りはなくしたのか、長い髪が乱れていた。
「あっ、無事だったのですねゲオルグ! この火事の原因は何なのです?」
「さっぱりだ。東ベルン軍の策略でもない。すべてが突然だった」
「そうですか……」
ゲオルグの後方からバルガと両軍の混ざった集団がやってくる。
「テレーズ! 城の方の火はどうだ!?」
「こちらに比べて勢いも弱かったので、ほぼ鎮火済みです! それよりも、ソ、ソフィーティア様が!」
ゲオルグはテレーズの背後にいる軍勢を見渡した。
「ソフィーティア、見当たらないな。一緒じゃないのか?」
「そうなのです! 火事の直後、黒い鎧の騎士に連れ去られたのです!」
「なんだと!?」
「火事になり、軍を先導して消火の指示していたところを……こちらには?」
ゲオルグは首を横に振った。
「どこに向かったか分かるか?」
「いえ、それが……煙の中に消えていきました……」
流れてきた煙を扇子で払うテレーズ。気が付くと、周囲の火の勢いが増していた。
一人の東ベルン兵がバルガの前に出る。
「その黒い鎧を着た騎士は、騎士団長のクロードです!」
「本当か!? 間違いないな!?」
「はい! ですが、どこにいったのかまでは我々でも……」
バルガが兜を被りなおす。
「おのれっ! わしが成敗してくれるわ!」
北の森に向け、バルガは馬を走らせて行った。
ゲオルグも手綱を引く。
「テレーズはここの指揮を頼む。俺はクロードを追う」
「えっ!? む、無理です! ゲオルグも一緒にここで指揮を!」
「なあに、難しいことはない。テレーズならできる」
しかしテレーズは首を縦には振らなかった。
「ソフィーティア様もいない今、私一人では、こ、怖いわ……怖いのです……」
「火事が怖いだって? テレーズ…………ちょっと来るんだ」
ゲオルグは手招きをしてテレーズを呼び寄せた。
「耳を貸すんだ」
「?」
疑問に思いながらも耳を貸すと、ゲオルグは小声で耳打ちをする。
「火事なんかより……怒ったテレーズの方が……ずっと怖い……」
「な、なんですってーっ!?」
テレーズが思い切り振り抜いた扇子は、ゲオルグの首筋をとらえた。
「あぐおおおーっ!?」
「あっ!? すみません、つい……で、でも!」
「うう……な、なかなかの一撃だった。その意気でやれば絶対に出来る」
「そ、そうですね! 分かりました。では、ソフィーティア様とバルガを頼みます」
「任せろ。少し兵を借りるぞ」
小勢を引き連れ、ゲオルグはバルガを追って燃える森の中へと飛び込んでいった。




