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新米城主、ノリと勢いで。  作者: 大紅三
最終章 英雄の帰還
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火と水

「我が西ベルン軍は今から川を越え、総攻撃をかけるのだ! 貴様も一緒に戦え!」

「それはダメなんだ! 迂闊に川へ入ってはいけない!」

「なんだと? 川を越えなければ攻められないだろう。いちいち橋を渡れというのか?」

 ベルン川に掛かる小さな橋をあごで指し、鼻で笑うバルガ。

「あんな狭い橋を通っていたら、その間に奴らの攻撃を受けてしまうぞ。馬鹿馬鹿しい!」

「とにかくここは慎重に行動すべきなんだ! それを言いに来たんだ!」

「その羽根飾りにわしへ指図する権限まではないわ! いいか、戦況は我々が圧倒しているのだ! 慎重になる必要はない! それこそ相手に休息を与えるだけだ!」

 バルガは馬を進めようとするが、ゲオルグはその行く手を阻んだ。

「有利な時ほど慎重に攻めろと、昔から言われているだろう!」

「そんな古臭い兵法はいらん! どけっ!」

 バルガはゲオルグを押し退けるが、ゲオルグもシェルバの馬体を当てて引き下がらない。

「このまま進めば相手の思う壺なんだ! 本陣に戻ってもいいくらいだ!」

「うるさい! ソフィーティア軍のお前がいちいち口出しするな! それとも何か? 貴様の東ベルン軍が負けそうだから、わしをひきとめるつもりなのか? ん?」

「茶化さず真面目に聞けっ! この石頭の頑固親父が!」

「な、なんだとこの小僧! ええい、いい加減に退け! 邪魔するならこうだ!」

 ゲオルグに強く蹴りを入れて退かせると、バルガは馬を走らせた。

「行くぞ! 全軍突撃だぁーっ!」

 弓矢の攻撃が収まった隙を突いて、バルガが木立から飛び出した。兵士達も後に続き、雄叫びを上げながら進軍を始める。大勢の兵士達がベルン川へと次々に突入していった。

そこに第二波の矢や石が降り注ぎ始める。

 バルガは盾で防ぎつつ、それらを物ともせずに進んでいく。

「ヌハハハ! 何でも来い!」

 兵士達も上手く盾を使いながら進んだ。川を西ベルン軍が覆い尽くす。

 しかし、突如として轟々と地鳴りのように重みのある低音が、上流から不気味に響き出した。誰もが馬を止めて音が来る上流を見る。

 ゲオルグが出遅れながらも川に入り、そしてすぐにバルガに追いついた。

「兵を引くんだ! これは鉄砲水の音だ! 鉄砲水が来るぞ!」

 直後、鉄砲水の激流が轟音を鳴らしながら上流から現れる。逃げる間もなく、膨れ上がった波が西ベルン軍に襲い掛かった。

 先頭に立つバルガがその波とぶつかる。

「た、耐えろーっ!」

 一気に水かさの増したベルン川は穏やかだった表情を一変させ、流れに抵抗する西ベルン軍を嘲笑うかのように下流へと押し流していく。

 ゲオルグも波を受けながら、必死に声を上げた。

「川の中央に集まれ! 勢いが収まるまで持ちこたえるんだ!」

 兵士達は互いの身を寄せ合い、一つの集団となって水に抵抗した。

 そしてバルガは上流に向かって少しずつ馬を進ませる。

「水ごときに挫けるな! 今こそ西ベルンの魂を見せるのだ! 遡るぞ!」

 兵士達もバルガに続いてじりじりと進んでいく。

「いいぞ! 体制を整えなおしたら、全軍で総攻撃だ!」

 ゲオルグは水流の中、バルガの横に馬体を合わせた。

「この水量で戦況をひっくり返すつもりだったとは思えない! 引くべきだ!」

「まだ言うか! 西ベルンの底力が、水をも跳ね除けたのだ!」

「しかし!」

「奴らを見ろ! 逃げ出しているぞ!」

 対岸の東ベルン兵達は、弓や装備を投げ捨てて後退していく。

 しかし、それがゲオルグにはどうしても腑に落ちない。

「何故だ? どういう指揮なんだ? まるで統制が取れていない――」

 ゲオルグが上流を見ながら思案していると、その視線の先を黒い鎧の騎士が横切った。水かさが減った川の上流を越え、誰もいない西ベルンの領土を北へ駆け上がる。

 ゲオルグはその騎士に猛烈に嫌な気配を覚えた。

「バルガっ! 何者かが本陣へ向かったぞ!」

「たかだか一騎だ! 本陣に当たったとて、すぐに泡と消えるわ!」

 やがて西ベルン軍が対岸へと上陸し始める。

「川を越えたぞ! 勝利は目前だ!」

 バルガが叫んだその時だった。

 ごぉうっ!

 瞬間的に北の空が真っ赤に染まった。何の前触れもなく起こったその神秘的な現象だったが、それが炎によるものだと理解するのに時間は掛からなかった。

 炎は火柱と化して周囲の森に突っ込むと、猛烈な勢いで火の手が上がり始める。

 そして両軍勢をたちまち黒い煙と火の海が包んだ。

 しばらく呆然とその光景を見ていたバルガだったが、我に返って叫ぶ。

「に、逃げろ! 川に戻れ! 焼け死ぬぞーっ!」

 わらわらと逃げ惑う兵士達は指示に従って川へと集まった。

 避難する兵の中に東ベルン軍勢も多くいたので、ゲオルグはその中の一人を捕まえる。

「おい! これも東ベルン軍の策略なのか!?」

「ち、違う! 我らの軍勢も、危うく炎に飲まれるところだったのだ!」

「違うのか? しかし、そもそもこの現象は人の手によるものなのか……?」

 しばらくして両軍はベルン川に集結し終えた。そこで熱風から身を守る。


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