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新米城主、ノリと勢いで。  作者: 大紅三
最終章 英雄の帰還
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攻防

 青雲の広がる西ベルンの朝。その静かな大地に警鐘が鳴り響いた。

 東ベルンの軍勢が、ベルン川を渡って対岸へと攻め入る。その数はゲオルグが戦った数の軽く十倍を超えていた。山道を怒涛の勢いで埋め尽くし、容赦なく小麦畑を踏み荒らす。

 程なくして西ベルン城の城門が開門され、旗を掲げた軍勢が山道を駆け下って行った。その数は東ベルンとほぼ同等で、最後尾にいる金色の鎧を着た騎士が全体の指揮を取る。

 北上する東ベルン軍と南下する西ベルン軍はついに衝突し、乱戦が始まった。雄叫びが轟き、剣や槍のぶつかり合う金属音が響き渡る。始めは互角だったが、下り坂を利用して勢いを持った西ベルン軍が東ベルン軍をじりじりと後退させる。

 しかし、遥か後方の木立から東ベルン軍の伏兵が飛び出してきた。

 あっという間に前線へ合流すると、軍勢は倍増した。劣勢だった東ベルン軍は逆転し、押し返して坂を上っていく。

 西ベルン城の手前まで戦線が下がったところで、側面の山から薔薇の模様が描かれた旗を掲げた軍勢が飛び出した。東ベルンの軍勢を中央から切り裂くように分断さながら攻め立てると、そのまま西ベルン軍が勢いを取り戻す。

 戦況は西ベルン軍が優位に立ったかに思えたが、東ベルン軍は木立から二度目の伏兵を投入した。この波状攻撃によって東ベルン軍が盛り返し、再び西ベルン軍を追い詰める。

 ところが、戦線を再び西ベルン城手前まで押し返したところで東ベルン軍は急に後退を始めた。一斉に、逃げ出すように坂を下っていく。

 直後、西ベルンの城門が開かれてさらなる軍勢が大挙して現れたが、その時すでに東ベルンの戦線は、伏兵の隠れていた坂の下の木立まで十分に下がりきっていた。西ベルン軍の大半の兵が追撃を開始する。

 ゲオルグは、その攻防の様を高台から眺めていた。

 そして城の手前に残った方の小さな軍勢に向け、シェルバを走らせる。その中に、ソフィーティアとテレーズの姿を見つけた。

「ソフィーティア! テレーズ!」

 始めは兵に止められたが、やがてゲオルグだと分かると兵達は道を開ける。その先には下の様子を眺めるソフィーティアとテレーズがいた。

「ゲオルグ!」

 羽根兜と鎧を着て馬に乗ったソフィーティアが出迎える。ゲオルグは馬を止めた。

「戦況はどうなっている?」

「見ての通りよ。こっちが優勢だから、兵の大半をバルガに預けて追撃させているわ」

「テレーズはこの戦況をどう思う?」

 扇子で口元を隠しながら眉をひそめるテレーズ。

「ゲオルグ、それはどういう意味です?」

「俺は高台からずっと全体を見ていた。確かに今は西ベルンが優勢だろう。だが、向こうは劣勢になる前に素早く兵を引いたんだ。何か意味があるように思えないか?」

「東ベルンの兵が、攻め疲れた可能性も考えられませんか?」

「それもあるかもしれないが……敵の指揮官らしい姿もまるで現れていないし、とにかく何かある気がしてならない」

「言われてみれば。何か引っ掛かりを感じますね……」

 テレーズとゲオルグが首をひねる中、ソフィーティアは剣を引き抜いて元気良く振った。

「大丈夫よ! 木立からの増援は意外だったけど、それほどの勢力でもなかったわ。この本陣に侵攻するような軍勢もいないし、敵の本陣だってバルガに任せれば蹴散らせる数よ」

「だといいんだが……」

 呟きながら後ろを振り返り、穏やかに流れるベルン川を指差す。

「なあソフィーティア、あの川の上流は……どうなっているんだ?」

「えっと、真っ直ぐ北へ伸びた後にグルっと東に方向を変えて、ベルン湖っていう大きな水源に繋がっているわ」

「湖は東ベルンの領土か?」

「ええ。川自体は中立だけど、湖は昔から東ベルンが管理しているの」

 それを聞いた瞬間、ゲオルグの表情は急変して険しくなった。

「まずいな。バルガの率いている軍は壊滅する可能性がある」

「え? どうして? どうやって?」

 ゲオルグは兵士の中にカールの姿を見つけた。

「カール! 今の東ベルン軍の状態は、お前の目で詳しく見えるか?」

 額に手をかざして目を凝らすカール。

「東ベルン軍はもう川を越えて自分達の領土に戻っているよ。川に沿って横に並んでるけど……あ、弓を用意しているように見えるね」

「横に布陣? なぜそんな不利な陣形を……。西ベルン軍はどうだ?」

「金色の鎧……バルガが指揮して木立を抜けるところだね。勢いからして川を越えるよ」

「川を……? 川をっ!? まずい!」

 ゲオルグはシェルバの手綱を引いた。

「ソフィーティア! 俺に自由な行動を取る権限をくれ! バルガの軍へ今すぐ行きたいんだ!」

「川が関わると悪い影響でもあるのね?」

「そうなんだ! 説明している時間はない! 頼む!」

「何だかよく分からないけど、うん、許可するわ」

 ソフィーティアは自分の羽根兜から羽根飾りを一つ取ると、ゲオルグに手渡した。

「それが独立して行動するための許可証代わりよ。皆、ゲオルグを通して!」

 兵の列が割けて道が出来た。ゲオルグはその間を通って一気に坂を駆け下る。視線を川に移すと、東ベルン軍の弓による攻撃が始まっていた。手槍や石なども西ベルン軍に目掛けて投げつけている。それに怯んだのか、進攻していた西ベルン軍の戦線は川から後退し、再び木立まで引き下がった。

 ゲオルグも木立に突っ込み、その中で金色の鎧を着たバルガを発見した。

「バルガっ! 俺だ、ゲオルグだ!」

「ぬ? 小僧め、何をしに来た?」

 ゲオルグはソフィーティアの羽根飾りをバルガに見せる。

「ソフィーティアに自由行動の許可を貰って来た! 戦況を教えてくれ!」

「ヌハハ! お前もすっかり西ベルン軍だな!」

 愉快そうに笑い、バルガは出っ張った自分の腹を鎧の上から叩く。


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