騎士団長の訪問
「何よそれ! どーいう意味よ!」
「そのままの意味ですが、それが何か?」
「馬鹿にしないでよ!」
「では、何か良い考えがあるというのですか?」
ソフィーティアは押し黙った。
テレーズはゲオルグを扇子で指す。
「この男、生かしておけば必ず我々に襲い掛かってくるでしょう」
「なんだと貴様!」
「ほら、あの顔を見てください。鋭い目つき、剥き出した歯……まるで野獣のようですわ」
「言わせておけば……ぐぐ……」
だが、ゲオルグはテレーズの指摘どおりの顔をしていることに気が付いた。。そしてその顔をソフィーティアに見られている事にも。
言葉を呑んでこらえたゲオルグを見つつ、ソフィーティア。
「確かに怖いけど、うーん……」
テレーズが扇子をパチンと閉じた。
「迷う必要はありません。処刑です」
ゲオルグは自らの死がいよいよ差し迫ってきている事を感じ取る。
「ま、待ってくれ! 話くらいは聞いてくれてもいいだろう!」
「何も話すことなどありません! 連れ出しなさい!」
両脇の兵士がゲオルグの服を手荒に掴み、立ち上がらせる。
「くそっ! 離せ! 俺が何をしたって言うんだ!」
ゲオルグが抵抗するので、複数の兵士が抑えかかって動きを封じる。
顔が床に付いて身動きが完全に取れなくなった、その時。
バァン!
突如、乱暴にドアが開かれた。
「おうおう! いたか、この敵城主めぇーい!」
首だけで振り返ると、中年の男が入り口に立っていた。ゲオルグの鼻に蹴りを入れた男である。一人では立てないほどに酔っているらしく、兵士の肩を借りながらバランスを取っていた。手に酒瓶を持ちつつ、フラフラとおぼつかない足取りで進んで来る。
「ヌハハ、こいつだ! わしは昨日、この小僧を捕まえたのだぁ!」
ゲオルグを押さえつけていた兵士が立ち退いた代わりに、今度は中年の男の足が背中を踏みつける。
「この小僧は、わしに蹴られて情けなくも鼻血を出して気を失ったのだ!」
踏みつけてくる足の重みに耐えていると、ソフィーティアが声を上げた。
「バルガ! 騎士団長のくせに昼間からお酒なんか飲まないでよ!」
「うるさいわ、この小娘がっ! 敵城主を捕まえたのを祝って飲んで何が悪い!」
そして手に持った酒瓶を口に運び、ぷはぁと酒臭い息を吐く。
「そんなことより褒美をよこせ! 金だ! 金を出せ!」
テレーズが酒臭さを扇子で防ぐ。
「ではソフィーティア様、バルガには私から相応の賞与を与えてもよろしいでしょうか」
「もう、お金ばっかり欲しがるのね……好きにすればいいわ」
不満そうに答えるソフィーティア。騎士団長のバルガは満足げに笑みを浮べた。
「やったぞ! 敵城主がバカで儲けたわ、ヌハハハハっ!」
再びグイグイと背中を踏みつけたところで、ゲオルグはその足を払って立ち上がった。
「黙れ! このハゲ頭が!」
「な、な、なんだとぉ!」
ベルガの怒号が響く。それ以上に大きな声でゲオルグは反論した。
「ハゲをハゲと言って何が悪い! このハゲ!」
「この小僧がぁっ!」
ベルガは顔を真っ赤にして怒った。ゲオルグはその様子を指差して笑う。
「ハッハッハ! 赤くなったらまるでタコだな! 山岳地帯にもタコはいるんだな!」
周りの兵士も声を必死に殺して笑い始めた。バルガは肩を支えていた兵士を払い退け、酒瓶を投げ捨てる。
「ええいっ! その生意気な口を黙らせてやる!」
腰に下げていた剣に手を掛けた。
テレーズが叫ぶ。
「騎士団長と言えど、度が過ぎますよ!」
「黙れぃ! この小僧は騎士団長であるわしを侮辱したのだぁーっ!」
ついにバルガは剣を鞘から引き抜き始める。
「この剣で貴様を今すぐ処刑して――お、おっとっと!」
剣の重みでバランスを崩し、よろめくバルガ。
そのまま剣が引き抜かれ、切っ先がソフィーティアの顔面を目掛けて振られる。
「きゃあっ!」
「あ、危ない!」
短い悲鳴を上げるソフィーティアをかばうように、ゲオルグが自分の左腕を突き出した。間一髪、その腕が刀身を受け止める。
「あ……あ……」
漏れるソフィーティアの声。ゲオルグの腕を伝う血が、肘から床へと滴り落ちる。




