宣戦布告
高々と笑うバルガはゲオルグのあごをつかみ、西に位置する高台の方に向けさせる。そこには小さな建造物が見えた。
「あの処刑を行う断頭台が見えるか? あそこに貴様の首を据えてやるから来い!」
ゲオルグは何も言わず、そして何も答えずに高台へと移動する。
途中、オリンとカールが騎馬隊の列に駆けてきた。
「ゲオルグ様ーっ! ゲオルグ様ぁーっ!」
「どうして逃げなかったんだゲオルグっ! 殺されてしまうよ!」
騎馬隊が二人を取り押さえ、縄で体を縛り上げる。ゲオルグは無言で二人の横を通り過ぎると、断頭台へと到着した。
馬から下ろされ、装備もすべて外される。断頭台は、鋭く大きな刃を備えていた。日の光が不気味に三角形の刃を光らせる。その下の台にゲオルグが寝かされると、バルガが横に立って見下ろした。
「この高台からの眺めはどうだ? ヌハハ、お前の東ベルン城が良く見えるだろう!」
ゲオルグは虚ろな瞳で断頭台から東ベルン城を眺める。
その視線の正面、高台の下から馬に乗ったテレーズが駆け上がって来た。
「ゲ、ゲオルグ! ああ、ゲオルグ! なんてことをしたのです!」
「……」
すでに両手両足を固定され、首も木枠で固定されたゲオルグの正面に、テレーズが膝を折って座る。
「大人しくあの部屋にいれば助かりもしたでしょうに、何故……」
さめざめと泣き始めたテレーズをバルガが立たせる。
「この小僧は西ベルンを乱す罪人だ! やはりすぐに処刑すべきだったのだ!」
「そんな! ゲオルグは悪い人ではありません!」
「黙れ! 罪は罪だ! 罰せねばならんのだ!」
「ああ……ああ……」
テレーズはよろめきながら草の上に倒れこんだ。兵士が介抱して座らせる。
バルガが口角を上げ、薄笑いを浮べながら断頭台の器具の状態を自分の手で確かめていく。刃を留めている綱を揺さぶると、刃は軽く上下した。
「この綱を切った時がお前の最後だ! 遺言なら聞いてやるぞ? ヌハハ!」
バルガが大きく口を開けて下品に笑っていると、
「ゲオルグーーーーっ!」
高台の下から叫びつつ、ソフィーティアが馬に乗って駆けて来た。飛び降りてバルガを押し退ける。ゲオルグの無事を確かめると、平手打ちをかました。
「どうしてよ! どうしてなのよ!」
ゲオルグは表情一つ変えない。視線もソフィーティアをとらえてはいなかった。もう一度平手打ちが飛ぶ。
「勝手に動くなって、部屋から出るなってあれほど言っていたのに! バカっ!」
三度目の平手打ちが打たれた。ゲオルグの頬よりも、ソフィーティアの手の方が真っ赤に腫れていた。力なくうな垂れるソフィーティア。
「も……もう私の配下だとしてもかばい切れないわ。ねえゲオルグ、どうして? 私がこんなに心配していたのに……どうしてなの? ゲオルグ……」
叩いた頬を優しくなでた。その温もりを確かめるように、指で何度も優しくなぞる。沈痛な表情で見つめていると、ゲオルグの口が開いた。
「俺は両親を救いに行った。だがすでに殺されていた。首をはねられ、処刑されたらしい」
「そ、そんな……」
淡々と語るゲオルグは、固定されて動かなくなった自分の手に視線を送る。
「……俺の指にはめられている指輪を、外してくれないか?」
ソフィーティアは言われた通りに指輪を外してやると、ゲオルグに向かって見せる。
「全部で三つあったわ。右手に二つと、左手に一つよ」
「右手の二つは両親の、そして左手の一つは、俺のだ」
「これが……そうなのね」
緑の宝石が埋め込まれた三つの指輪をソフィーティアが眺めていると、ゲオルグが言う。
「それを、お前が預かってくれないか?」
「私が、これを?」
「そうだ。俺達の形見として、メリッサに見せてやってほしい」
ソフィーティアは固く口を結び、小さく小さく一度だけ頷くと、断頭台から離れた。
バルガが剣を鞘から引き抜くと、周りの兵士達も台から離れる。
「随分と手間取ったが、貴様の命もここまでだ! 死ねい!」
剣を振り上げて綱に狙いを定めた、その時。
「伝令っ! 伝令っ!」
一騎の兵士が馬を走らせて断頭台へと駆け込んだ。
テレーズが声を上げる。
「わ、私の早馬です! 通して!」
舌打ちをしながら、バルガが通させた。
その兵士が一枚の書状を取り出す。
「東ベルンより宣戦布告の書状です! 我々の書状は破り捨てられました!」
「な、なんだとっ!?」
バルガが書状を奪い取って目を通すと、強く歯ぎしりをした。
(おのれクロードめ、元からわしを裏切る気だったのか! ゆ……許さんぞ!)
書状をテレーズに押し付けると、バルガが馬に飛び乗った。
「そんな小僧と遊んでいる暇などない! 城に戻って戦争の準備だっ! 東ベルンの腰抜け共など、わしが皆殺しにしてくれるわ!」
バルガはドカドカと荒っぽく手綱をさばいて、配下の兵士達と共に走り去った。




