対東ベルン城兵
再び城を眺める。白い城壁が月明かりに照らされ、夜景に淡く浮かび上がって見えた。
山風が頬をなでる。寒気を感じたからなのか、それとも武者震いなのかは分からなかったが、ゲオルグは自然と軽い身震いを起こした。
「たった一人の攻城戦、か」
鉄の仮面を被り、シェルバを走らせた。緩やかな丘陵を駆け上がり、小麦畑を突っ切ると城門の正面に辿り着く。城壁の上部には木製の板囲いが設けられていたが、そこには見張りや門番もいないようだったので、ゲオルグは角笛を取り出すと思い切り吹き鳴らした。
甲高い音が奏でられる。それを山々がこだまさせると、東ベルン一帯に鳴り響いた。たちまちに城のあちこちで明かりが灯される。ゲオルグがもう一度吹き鳴らすと、城門の上の見張り小屋に多くの明かりが集まった。
暗いせいで顔こそ見えなかったが、明かりの中の人影が怒鳴り声を発する。
「おい貴様! その角笛は宣戦布告の合図か!?」
ゲオルグは一陣の槍を掲げた。
「そうだ! 今から俺と勝負しろ!」
「勝負だと!? 貴様はたった一騎だろう!」
「つべこべ言わずにさっさと城門を開けろ!」
「やかましい! こんな夜中に貴様の相手などしていられるか! 去れ!」
「仕方ない……」
ゲオルグは東ベルンが自分に取り合わないと判断し、松明を見張り小屋の中へと投げ入れた。さらに一陣の槍で風を起こすと、屋根からはもうもうと煙が立ち上り、窓からは炎が噴出し始めた。兵士達は混乱しながらも消火に取り掛かりつつ、城壁の上からゲオルグへ矢を放つ。
ゲオルグは頭上に槍を掲げてくるくると回す。すると瞬時に突風が発生し、飛んでくるすべての矢が落下した。矢による攻撃が終わると、ようやく城門が開かれた。城の中から小勢の騎馬兵が押し寄せると、円陣を組んでゲオルグを取り囲む。
その中の一人が叫ぶ。
「貴様! どういうつもりだ!」
「言ったはずだ、俺と勝負してもらおう」
「ならば名を名乗れ!」
ゲオルグは腕組みをして首をかしげた。
「そうだな……俺は風来の騎士ジョージだ」
「風来の騎士だと? フン、聞いたこともない通り名だな!」
「それは貴殿らが、こんな山奥の田舎騎士だからではないのか?」
「な、なんだと!?」
騎馬兵達はゲオルグに槍を差し向ける。
「東ベルンを侮辱するとは許せん! 覚悟しろっ!」
全員が一気に突っ込んで来た。ゲオルグは槍を両手で構えると、腰を使って体全体で大きく振りかぶった。
「喰らえっ!」
槍の先端から放射状に強風が巻き起こり、兵士達の体を馬から引き離して高々と浮き上がらせる。
「うおわあああっ!?」
騎馬兵達は声にならない悲鳴を上げつつ地面へと落下した。ほぼ全員が気絶する中、ただ一人だけがよろめきながらも立ち上がった。
「く、くそ……」
ゲオルグはシェルバから降り、その兵士へと歩く。
「話にならん。もっと兵士を連れて来い」
「だ、黙れぇーっ!」
兵士が剣を引き抜こうと手を掛けた瞬間、ゲオルグの拳が彼の意識を失わせた。
「フフ、根性だけはあるようだな。東ベルン兵は頼もしいぞ」
兵士達の手から離れ落ちてくすぶる松明を拾い上げると、ふたたびシェルバを走らせる。
「まさか、自分の城を攻める事になるとは思わなかったな」
城の周りを駆けながら、城壁の上の板囲いに松明を投げ入れていった。あちこちで小規模な火の手が上がり、兵士達が続々と姿を現し始める。城壁を一周し終わると城門が再び開かれた。掛け声と共に多勢の兵士が襲いかかって来る。
「よし、上手くおびき出せたぞ」
兵士の集団に馬で突っ込んだ。攻撃を盾や鎧で受け、兵士達の注意を集める。
そして城から離れるように走った。川へ向かって兵士達を誘導していく。
「頼むぞ、ニド!」
十分に引き付けたところで方向を反転させ、ゲオルグは槍を振り上げながら敵陣の中央へと駆け込んでいった。




