決行
ゲオルグの話をジョアンナはあぐらの姿勢で聞いた。
「なるほどねぇ……親を助けて悪を討つってか?」
「そんなところだな。ここの人達には作戦の協力を頼んでいたんだ」
「あたいは義理堅いんだ。手助けが欲しい事はないのかい? 言ってみな」
「それがだな、ソフィーティア達に作戦がばれないようにしたいんだが、これがとても難しい。何か良い考えはないか?」
すると、ジョアンナは照れながら笑う。
「ひょっとしたら、それはもうあたいが解決しちまったかもしれねえ……」
「どういうことだ?」
全員の視線もジョアンナに集まる。彼女は照れくさそうに顔を背け、頬をかいた。
「さっき、あたいが城主達に紅茶を出したんだけどよ」
「ふむふむ」
「その時、砂糖と睡眠薬を間違えちまってな……」
「なるほど」
「明日の朝まで目を覚まさないと思うぜ。死ぬ一歩手前くらいの量だったからよ……」
ゲオルグはジョアンナの両肩に手を置き、強く頷いた。
「ありがとう。君の急転直下式のドジが俺を救ってくれたようだ」
「そ、そうかい。役に立ててよかったぜ、ハハハ!」
ジョアンナも円の中に加えると、ゲオルグは全員に向かって言った。
「準備はすべて揃った。作戦は夜明け前に実行する。それまで休もう」
オリンが胸の前で手を組みながら言う。
「ゲオルグ様には本当にお世話になりました。私、食事を運んできます!」
ジョアンナがオリンの肩を抱き寄せる。
「よっしゃ、料理ならあたいらに任せな! 豪華にやってやろうぜ!」
「はい! ゲオルグ様の優勝パーティを開きましょう!」
狭い部屋の中で、慎ましく優勝パーティが開催された。全員で同じ物を食べ、肩を組んで歌い、踊る。日が沈むまで行われた後、静かに幕を閉じた。ゲオルグとニドが早めに眠りにつくと、それを兵士達が交代で見張りをする。
そして、夜明けが近付いた。
ゲオルグが目を覚まして起き上がる。メリッサとオリンが包帯を取り替え、その上から服と鎧を着込む。すべての装備を整え終えて部屋から出ると、廊下には全員が待機していた。
「皆、色々と世話になったな。ここでお別れだ」
それぞれに簡単な挨拶を交わすと、ゲオルグとニドはカールに連れられて城門へと向かう。見張りの兵士達は黙って道を開けた。
館の出口にはシェルバとパリカールの二頭がすでに待機していた。ゲオルグがそれぞれの顔を撫でる。
「ニドはどっちに乗るんだ?」
「オイラはロバでいい」
「気性が荒いらしいんだが、乗れるだろうか」
「心配すんな。基本的にオイラはどんな動物とも友達だぜ」
ニドがパリカールに跨ると、ゆっくり歩き始めた。ゲオルグもシェルバに跨る。南の城門に差し掛かると、カールと少し話をした後、門番が可能な限り静かに開門した。城門をくぐり抜け、軽く振り返る。城門の明かりが左右に揺れた。ニドが手を振る。
「へっへっ、オイラ達に手を振っていらぁ」
「応援してくれているんだ。よし、行こう」
松明に火を点けると、二人は城を背にして駆け出した。ゲオルグはもと来た道を戻るように馬を走らせる。月明かりすら入らない暗い森を抜け、曲がりくねった山道を進んでいくと、見晴らしの良い丘陵に差し掛かった。遠くには東ベルン城が見える。
やや警戒しつつ城へ向かっていくと、流れの緩やかな広く浅い川に辿り着いた。西ベルンと東ベルンの領土の境目、ベルン川である。
そこでニドがゲオルグを止める。
「このベルン川を越えた先からは、もう東ベルンの領土だぜ」
「向こう側のことは、城主の俺よりニドの方が詳しそうだ」
「それも変な話だな。ま、オイラは一度あの城に忍び込んでるけどな」
ゲオルグはシェルバに川の水を飲ませつつ、自分でも軽く飲んだ。
「この橋で別れよう。ニドは北側の森にでも隠れるといい」
そう言って指差す方向をニドが確認する。
「なあゲオルグ、一つ聞いていいか?」
「なんだ」
「あの牢屋の時もそうだ。どうしてお前は暗闇でも、方角や人の動きが分かるんだ?」
「風の向きだ」
ゲオルグは揺れる松明の火を眺めた。
「声の出る向きや木々のざわめきが、風の動きを変えるんだ。それを察知すれば分かる」
「へぇ。じゃあこの暗闇の中でも、お前は風があれば戦えるのか?」
「戦える。俺は風を味方に付ける術を、父上から徹底的に教え込まれたんだ」
「なるほどな。ま、頑張って囮をやってくれよな。頼んだぜ」
ニドは暗い北の森へとパリカールを走らせて行った。




