協力
テーブルに肘を着いてしかめっ面をするニド。
「どうすんだよ!」
「誰かが一陣の槍を持って来てくれれば……」
「そんな簡単にはいかないと思うぜぇ? なんせよ――」
ゲオルグとメリッサの耳元で小さくささやいた。
「この部屋の会話を……廊下の外で……誰かが……聞いていやがるぜ……」
ニドは椅子から音もなく立ち上がると、足音を殺して扉に近づいた。壁に背中をつけてドアノブに手をかける。細長い布きれを取り出して左手に握り、右手で一気に扉を開けた。前転して廊下に飛び出すと、予想通り扉の前で立っていた人物の口に後ろから布きれを巻きつけ、背中へ飛び掛ってふんじばる。部屋の中に押し倒すと、扉を閉めた。
「こういう風に兵士の警備も……って、ありゃ? メイド?」
ニドが捕まえたのはメイドのオリンだった。ゲオルグが丁寧に助け出す。
「オリンじゃないか。ニドが乱暴してすまなかった」
「ああ、ゲオルグ様! 私なんかのためにあんな大金を――」
「気にしないでくれ。それより頼みがあるんだが……」
「何でも言ってください!」
「実は、俺の槍がある場所を調べて欲しいんだが……」
オリンは驚いたようにハッと息を飲むと、廊下から細長い包みを運び入れた。
「ひょっとして、これのことでは!」
包みを開くと、緑色の石が埋め込まれた槍が現れた。ゲオルグが手に取って確かめる。
「おお! 間違いない、一陣の槍だ……でも、どうしてオリンがこれを?」
「ゲオルグ様に何か恩返しが出来ればと思い、内緒で盗み出してきたのです」
ニドがけらけらと笑い出した。
「すげぇや! あんた、盗賊の才能があるぜ!」
「ど、どうも……」
「どうだいゲオルグ! これで準備は整ったろ?」
しかし、ゲオルグの顔は曇っていた。
「ニド、俺の正体が東ベルンに割れるのはまずいかもしれない」
「そうだなあ。ややこしくなるのは火を見るよりも明らかだぜ」
「誰かが変装の道具でも持って来てくれたらいいんだが……」
四人が円を組んで方法を考えていると、廊下の方から男達のどやどやと騒がしい声が聞こえて来た。集団は次第に部屋へと近づく。
ゲオルグが危険を察知して扉をしっかりと閉めた。
「ニド、オリン、隠れるんだ! 二人がここにいたら不自然だ!」
ニドはベッドの下に、オリンはクローゼットの中に飛び込んだ。その直後、部屋の扉が開かれる。同時に大勢の兵士達が部屋へと押しかけた。それぞれ鉄の仮面や派手な鎧、羽飾りの付いた兜や煌びやかな盾等を身に付けている。
「おいゲオルグよぉ! バルガをやっつけたお前がいないとよぉ!」
「酒も美味くないんだぜ! 楽しくないんだぜ!」
「パーティ用の鎧や兜だけでは……主役がいないのでは……盛り上がらない……」
兵士達の応対をゲオルグとメリッサがどうにかこなす。
しかし、クローゼットの扉が思い切り開かれた。
「きゃあ! お化けぇ!」
額にピートを乗せたオリンが、槍を抱いたまま転がり落ちる。驚いたピートがベッドの下に向かって逃げ込むと、ニドも驚いて飛び退った。
「いってぇ!」
頭をベッドの底面にぶつけたニドが這い出てくる。
「なんだ、ピートじゃねえかよ! 驚かすなっての、やれやれ……」
もう一度隠れようとしたオリンとニドだったが、兵士達の視線に気が付いて動きを止めた。兵士の一人が尋ねる。
「ゲ、ゲオルグ、何がどうなってんだ……?」
「えーっとだな……も、もう隠しても無駄だな……」
ゲオルグが素直に作戦を全部話すと、兵士達は大笑いした。
「何も隠す事はないだろうがよぉ!」
「もうお前は仲間だぜ! 敵も味方も関係ないぜ!」
「変装の道具なら……俺達の装備を使え……」
兵士達は装備を脱ぐと、ゲオルグのサイズに合った物を選んで並べた。
「これで装備は整っただろう?」
しかし、ゲオルグは眉間にしわを寄せる。
「作戦は夜明けの直前に行うつもりなんだが、東ベルンの兵士が起きないかもしれない」
「確かに寝てるよなあ。お前一人で騒いでも無駄かもなあ」
「誰かが鳴り物でも持って来てくれたら……」
全員で円を組んで頭を捻っていると、走ってくる足音が聞こえた。
ゲオルグが叫ぶ。
「全員隠れてくれっ! ばれたらまずい!」
全員が慌てふためき、自分の居場所を部屋の中に探し始めた。
「隠れろって言われても、どこにだよぉ!」
「クローゼットが満員なんですけど! メ、メリちゃんが入れないんですけどっ!」
「ベッドの下に来い……って、お前は隠れなくてもいいじゃねぇかよ!」
「仲間外れは嫌なんですけどぉ!」
騒いでいる間に扉が叩かれた。メリッサがベッドに潜り込んでから、ゲオルグが返事を返す。
「だ、誰だ?」




