城主ソフィーティア
ゲオルグは痛みに顔をしかめつつも、二人の女からは視線を外さなかった。
椅子に座っている少女。自分と同じ程の十六、七といったあたりの年齢だろうか。赤みがかった銀髪をサイドポニーでまとめている。絹のように白い肌はこの辺りに住むメルメト人の典型的特徴だ。胸元が大きく開いた藍色のドレスに身を包み、不釣合いに大きな椅子に小さく腰掛けている。
一方で、椅子の横に立つ女。やや年上、二十歳前後の年齢だろう。ロールアップした黒髪をバラの髪飾りでまとめている。割と身長は高く、落ち着いた紺色のドレスを着ていた。大きな扇子を手の中で遊ばせつつ、真っ直ぐにこちらを見てくる。
腰掛けた方の女が小さく口を開いた。
「テレーズ、この人がそうなの?」
「そうです」
「ふぅん」
首を左右に振りつつ、一枚の紙に目を通す。それはゲオルグが荷物の中に入れてきた、城主であることを証明する書状だった。
「あっ、書状を返せっ!」
再び槍で殴られるゲオルグ。少女は気にも留めずに読み進める。
「東ベルンの城主……ふむふむ」
手早く読み終えると、書状を横に立つ女、テレーズに手渡して少女は椅子から立ち上がった。
「私はソフィーティア。この西ベルン城の城主よ」
静々と歩く西ベルンの城主、ソフィーティアの顔をゲオルグは目を据えて見つめる。
すると。
「フフ……」
ゲオルグの目の前にまで来ると、ソフィーティアは笑い始めた。
「フフフフ……フッフフ……」
口元を手で押さえながら、肩を震わせて笑いをこらえるソフィーティア。
ゲオルグは尋ねる。
「何を笑っているんだ?」
「だ、だって……あ、あなた、来る城を間違えちゃったんでしょ?」
「それがどうした?」
「フフ……バ、バカなんじゃないの?」
周りの兵士もくすくすと声を殺しつつも笑う。
ゲオルグは膝を叩いて怒鳴った。
「笑うなっ!」
その一言で、ソフィーティアの我慢は限界を超えた。
「あははははっ! 笑っちゃうわよ! あは! あはははは!」
「やめろーっ!」
「あははは! ダ、ダ、ダメだわ! あははははは!」
周りの兵士達もこらえきれず、一斉に笑い始めた。高い天井が声を反響させ、部屋中を笑い声が包む。
ソフィーティアは口を押さえていた手で今度は腹を押さえ、身をよじって笑う。
「笑いすぎてお腹が痛いわ! 誰か助けてーえ! あはははは!」
膝から崩れ落ち、赤い絨毯の上にに涙を流し始めた。
「たった一人で……て、敵城に来るだなんてーっ! あはははは!」
床を転げまわって笑うソフィーティアに、ゲオルグは顔を紅潮させる。
「来たくて来たわけではないっ!」
「た、立てない! 助けてテレーズ……」
テレーズが無表情でソフィーティアを抱き起こす。
「ソフィーティア様、そのような下品な行いは感心しません」
「だって……だって彼が……」
涙目で怒ったゲオルグの顔を覗き込む。
「ねえ、ひょっとしてアレ? 異世界から来ちゃって迷い込んじゃったとかそういう話?」
「違-うっ! 生まれも育ちもこの世界だぁ!」
「ふふーっ! あははは! アホだわ! あーおかしい!」
「おのれーっ!」
その後、数分間笑い続けたソフィーティアは、締まりのない顔ながらもどうにか席に戻って座りなおした。
首を傾げつつ口を開く。
「さーて、本物の東ベルン城の新城主らしいけれど……どうしようかしらね」
扇子で口元を隠しつつ、横に立つ女テレーズが突き刺すような視線をゲオルグに送った。
「このような危険人物は、今すぐにでも拷問にかけるのが当然です!」
拷問と聞いて、昨日のニドの話が頭をよぎった。ゲオルグの額を冷や汗が伝う。
しかし、あくまでも平静を装った。
「俺は拷問ごときで屈したりはしないぞ」
「では、さっさと火あぶりにして処刑します。以上」
「……ま、まずはじっくりと拷問から行くのが正しい順番だと思う」
二人の間に、ソフィーティアがそっと分って入った。
「ねえテレーズ、どうして自分だけで勝手に決めちゃうわけ?」
不満たっぷりに文句を言うが、テレーズは表情一つ変えなかった。
「それは、ソフィーティア様にはまともな決断などできないからです」




