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新米城主、ノリと勢いで。  作者: 大紅三
第四章 風来の騎士
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東側の情勢

 メリッサが椅子を蹴って立ち上がると、ゲオルグの首を絞め始めた。口から泡を吐き始めたところで床に捨てると、ソフィーティアがメリッサを優しく誘導して座らせた。

「その後はどうしていたの?」

 再び食事を始めながら話す。

「えっと、売り飛ばされそうになった東ベルンの城下町から逃げ出したら、城が大変な事になってたんですけど……」

 テレーズが書留める用意を終えて羽ペンを持った。

「今の東ベルンはどういう状況なのかしら?」

「近くの村々から兵士を集めたり、武器を買い集めたりしてたみたいですけど」

 ゲオルグが起き上がって座りなおす。

「東ベルンは増兵していたのか」

 小首をかしげるソフィーティア。

「ここと戦争でも始める気かしら?」

「さあな……だが、焔の小太刀がない以上はあまり好き勝手できないはずだ」

 それを聞いて、メリッサが食事する手を止めた。

「そのなんとかを使って、クロードって男が好き勝手してたのは知ってるんですか?」

「ああ。城を白く塗ったのもそいつのせいらしい。俺達を近付かないようにして、内部の情報が漏れるのを防ぐために、外部との接触を断ったんだろう」

 ペンを走らせながらテレーズが言う。

「西ベルンが送り出した早馬については分かるかしら?」

「その人は、まだ城に捕まっているみたいなんですけど……」

「道理で。いつまで経っても戻ってこないと思ったわ」

 軽くため息をつき、ペンにインクを付けたところでメリッサが唐突に声を上げた。

「それから大変大変! 幽閉されてるスレイ様とイレーヌ様が、処刑されるって噂があるんですけど!」

「何っ!? 俺の両親が!?」

「はい、噂ですけど……それと、これで私の持っている情報は全部なんですけど……」

 ゲオルグが頭を抱えて顔をしかめた。

 ソフィーティアがテレーズの報告書に目を通す。

「状況はだいたい分かったわ。東ベルンで反逆が起こっているのは決定的ね」

「ソフィーティア様、これは不用意に近付いたら危険です」

「うーん……ま、とりあえずはその人をどうするか、かな」

 食事を終えたメリッサを横目で見る。

「ねえ、ゲオルグと一緒にいたい?」

「しばらくゲオルグ様の顔なんて見たくないんですけど! 盗賊と一緒の方がまだマシなんですけど!」

「じゃあ、盗賊が一人いる牢屋でもいい? あそこなんだけど」

 ソフィーティアが南東の塔を指差すと、メリッサは首をブンブンと横に振った。

「やーん! 怖いんですけど!」

「それならゲオルグと一緒の部屋にいてもらうわ――それから、ゲオルグ?」

「何だ?」

「あなたは東ベルンの情勢が安定するまで、今とは別の部屋に監禁するわ。間違っても逃げたりなんかしたら、私でもかばい切れないから絶対にしないこと」

 ゲオルグは机を叩いて立った。

「断る! 俺をクロードと戦わせてくれ!」

「ダメ。両親を人質に取られているのに、まともに戦えるの?」

「う……そうか……」

「東ベルンが増兵している以上、西ベルンとしても警戒しなければならないわ……とにかく、話し合いはこれで一度お仕舞い。ゲオルグとメリッサはもういいわ。ありがとう」

 二人が部屋から出ると、廊下で待機していたロッティーナがいた。

「監禁する部屋はもう用意してある。ついて来てくれ」

 そして館内の人気のない部屋へと案内される。黙って入るしかなかった。

 ロッティーナはゲオルグの槍を預かり、鍵を取り出す。

「悪く思うな。我々が責任を持って二人を守ろう」

 扉に鍵を掛け、立ち去った。

 メリッサは窓から下を覗く。三階に位置するその部屋に、ベランダはなかった。

「たっかーい! 窓から逃げるのは無理みたいなんですけど……」

 諦めて適当な椅子に腰掛けた。足をブラブラさせながら、ゲオルグの方を見る。

「ゲオルグ様もこっちに来て座ってくださいよー」

 うながされてゲオルグも椅子に腰掛ける。腕組みをしたまま険しい表情で言った。

「メリッサ、俺は何としてでも東ベルンへ助けに向かうぞ」

「ダ、ダメなんですけど! 危ないんですけど!」

「両親を見殺しにしろと言うのか? クロードの好きにさせていてもいいのか?」

 下唇を噛み締め、メリッサはうつむいた。

「そんなわけないんですけど……でも、でも……」

「なら止めるな」

 メリッサは顔を上げると笑顔になっていた。ゆっくりと立ち上がる。

「わかりました。ゲオルグ様はどんな不可能でもやり遂げてきました。だから信じます」

 ゲオルグも立ち上がった。真っ直ぐにメリッサを瞳に捉えて。

「それでこそ俺の従者だ」

「えっへん! この世で一番ゲオルグ様を信じているのは、メリちゃんなんですけど!」

「迷惑な主君ですまない……」

 手を伸ばし、そっと体を抱き締める。メリッサの頭を優しく撫で、肩を軽く叩いた。

「ゲオルグ様……て、照れちゃうんですけど……」

 体を離すと、メリッサは腰を椅子にすとんと落とした。ゲオルグは部屋の中を歩いて回る。

「……今はじっくりと機会を待つ」


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