メリちゃん
兵士のほとんどが闘技場に出ているのか、館内はもぬけの殻だった。ロッティーナに連れられて、その静寂に包まれた空間を歩いていく。段々と芳ばしい香りが漂ってくるのは、調理場へ近付いているからだった。その途中の小さな部屋に案内される。
ロッティーナが扉を叩くと、中から返事が返って来た。
「ゲオルグを連れてきました」
部屋にはソフィーティアとテレーズ、そして一人の少女が同じテーブルに同席している。ただ、その少女だけは食事に夢中でゲオルグに気が付かなかった。
肩まで伸びた少しくせのある髪を大きなリボンで留め、愛嬌のある丸い顔に丸い瞳を持った少女である。着ている服はひどく汚れ、あちこちが破れていた。その上にパンくずを気にせず落としながら、大きめのパンをどしどしと口に詰め込んでいく。
ゲオルグは一目でその人物の正体がわかった。
「メリッサ!」
その名を呼ぶと、首だけで勢い良く振り向く。
「あーーーーっ!? ゲオルグ様! うっ!?」
喉に詰まらせたのか、目を白黒させながら苦しみ出した。
ソフィーティアが水を渡しながら、ゲオルグに尋ねる。
「知っているの? 誰?」
「俺の従者のメリッサだ。旅の地中まで一緒だったんだ」
ゲオルグが背中を強く叩いてやると、従者メリッサはどうにか飲み込んだ。
「遅かったな」
メリッサは水を飲んで一息つくと、せきを切ったようにまくし立て始めた。
「はぁー!? ゲオルグ様がメリちゃんの事を山で置き去りにしたのが悪いんですけど! 丸一日はうずくまって待ってたんですけど!」
「お前の馬が、のろまな駄馬だったのが悪いん――うおっ!」
メリッサは飲みかけの水をゲオルグに浴びせた。
「その後、野犬に襲われて馬は食べられるし熊に追いかけられて死にかけるしで大変だったんですけど!」
「壮絶な生活だなー」
「木の実を食べたら体は痺れるし、キノコを食べたら幻覚見るし! この山、メリちゃんを殺す気満々だったんですけど!」
顔にしたたる水を拭くゲオルグ。
「死ななくて良かったなー」
「おまけに盗賊に捕まったんですけど! いくら泣いて謝っても放してくれなかったんですけど! 頭おかしいんですけど!」
「お前の苦労話はいつも面白いなー」
「で・す・け・どーーーーーっ!」




