ゲオルグの槍
バルガは槍を真上に振り上げると、叩きつけるように打ち込んで来た。ゲオルグは咄嗟に盾で受ける。
「ぐっ!」
盾は皿のように軽く割られ、体勢も崩して帽子を落としてしまった。
左手に走る鈍痛をこらえつつ、槍でバルガを腹からなぎ払う。
「喰らえっ!」
しかし、槍は鎧に当たると真っ二つに折られてしまった。審判がバルガに旗を揚げる。
「貴様をこのまま殺したのではつまらん。もう少し遊んでやろう」
剣だけとなったゲオルグをバルガが槍で狙い始めた。必死に受け流すが、槍が触れると服はたちまち紙のように頼りなく破れ、裂けた皮膚から血が滲み出す。
「うぐっ! く、くそっ!」
バルガは腹や腕を狙い、じっくりと時間をかけて浅い傷を付けていく。一方的な攻撃によって、見る見るうちに槍はゲオルグの血で赤く染まった。
「さて……そろそろ終いだっ! 死ねーっ!」
血を払い、槍をゲオルグに向かって突き出した。ゲオルグは回避できない事を悟って目を閉じる。
「ま、まずいっ!」
しかし、体に痛みはなかった。ゆっくりと目を開くと、審判が旗で槍を受け止めている。
「せ、制限時間一杯! 一時休憩とする!」
審判の砂時計の砂が落ちきっていた。バルガは舌打ちを一つすると、自分の控え室へと戻っていく。ゲオルグが剣を落として倒れこむと、パリカールは背中の主人を控え室まで運び込んだ。
そこでは多くの兵士がゲオルグを出迎える。パリカールから下ろして寝かせると、腹や腕の傷に水をかけ、包帯を巻いて処置を行う。
「ゲオルグ、もうやめろよ……」
「本当に殺されてしまうぞ!」
「お前の騎士道精神はよくわかった……だからもう棄権するんだ!」
ゲオルグは兵士達に椅子を投げつけた。朦朧とする意識の中、天井を見上げて呟く。
「俺の槍さえ……一陣の槍さえあれば……」
兵士の一人が尋ねた。
「な、なんだいそりゃ?」
「代々伝わる家宝の槍だ……ここで捕まってから行方が分からない……」
兵士達がお互いの顔を見合わせる中、老兵パゴットがゲオルグの顔を覗き込んだ。
「もしやその槍は、この世界の創造神話に登場する槍か?」
「そうだ。良く知っているな、老公……」
「なんと! あれはそんなにすごい代物じゃったのか!」
パゴットは控え室の奥に行くと、そこから鎖でぐるぐる巻きにされた細長い包みを持ってくる。それらをすべて取り払うと、緑の石が柄にはめ込まれた槍が姿を現した。
ゲオルグが飛び起きてその槍を眺める。
「お、俺の槍だっ!」
「これはバルガから預けられていたんじゃが、お前に返そう」
「いいのか?」
「気にするな! 東ベルンは気に食わんが、卑怯なバルガはもっと気に食わんわい!」
そっと槍に触れ、そして強く握るゲオルグ。体中に力がみなぎってくるのが感じられた。
「ありがとう老公。おかげで力が湧いてきた」
パゴットは浮かない顔で話す。
「実はな、バルガの配下をやっとるわしとハンフリーは、お前を試合中に殺すように命令されていたんじゃ……すまん……」
「そうだったのか……」
「お前があの時ロッティーナの馬に乗っていなければ、バルガの配下ではないあやつもまた、ロバートのように後ろから毒矢で撃たれていたじゃろうて……」
「バルガめ……」
ゲオルグは黙って立ち上がった。一陣の槍だけを持って闘技場へと足を向ける。
パリカールを預かっていたのはハンフリーだった。
「ゲオルグ、すまなかった」
「いや、いいんだ。パリカールに乗せてくれ」
ハンフリーがゲオルグをパリオカールに乗せ、一陣の槍を手渡す。
「か、勝てそうなのか?」
「俺の勝利は確定した」




