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新米城主、ノリと勢いで。  作者: 大紅三
第一章 敵国、西ベルン城へ
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新鮮な空気

 ゲオルグは気を紛らわすためにゴロゴロと床を転がった。

「だはははは! やーい、ビビッてやんの!」

「笑うな! それと、俺の事をジロジロと見るな! 不愉快だ!」

「あれ? バレてたか……オイラは暗くても目が利くんでね」

 ゲオルグはそれ以上、口を開こうとはしなかった。いよいよ旅の疲労と暴行による目まいが眠気を強める。不安はあったが、眠って体力を回復させる事を先決と考えた。

 後ろからゴチャゴチャと話しかけてくる盗賊を完全に無視して、意識を断ち切った。


「おい、起きろ!」

 誰かも分からない、どすの効いた声がゲオルグの鼓膜を揺さぶった。

「むーん……」

「さっさと起きないか!」

 目を開けると、いかつい兵士が立っていた。蹴りでも飛んできそうな雰囲気だったので、ゲオルグは気だるそうに起き上がる。固い石の上で寝たので体のあちこちが痛かった。

「ふぁあ……」

 どうにか目を開いてみれば、朝の光が明かり取りの小さな窓から差し込んできていた。石作りの狭い空間。階段もあるので塔だろう。自分を閉じ込めていた鉄柵の向こう側には、槍や剣が壁に立てかけられていた。おそらく武器庫と牢屋を兼用している部屋だったらしい。もちろん、人が満足に生活できるような空間ではない。

「むむ!」

 牢屋の中にニドがいないことに気が付いた。彼を繋いでいたらしい鎖だけが壁から垂れ下がっている。

「お、おい、この牢屋に一緒にいた奴はどうした?」

「それはお前が知るところではない」

「メッタ刺しか? そ、それとも火あぶりか?」

「何の話だ? いいからさっさと出ろ」

 全く持って愛想のない返事が返ってくる。ゲオルグは垂れる鎖に視線を送りつつ、この塔を後にした。

 背中を丸めながらトボトボと歩くゲオルグ。

 それを槍を持った兵士が後ろから見張る。

「きびきびと歩け!」

「はぁ……俺はもうお終いなのか……?」

 深いため息をつき、かび臭い空気を肺から吐き出した。

 びゅう!

 そこに、山から吹き降ろす空気が音を立てて流れてくる。

「お、良い風だな……」

 空っぽのなった肺の中に、その新鮮な空気をたっぷりと取り入れる。すると、たちまちに目は覚め、頭が冴え渡る。

 ゲオルグは風の吹いて来た方向を見て息を飲んだ。

 視界に収まりきらない程に雄大な山々が、どこまでも果てしなく続いている。中腹には鮮やかな深緑の森を抱き、山頂には純白の雪を乗せていた。

 その絶景を眺めながら、そのまま二、三度と深呼吸する。

「ふぅ……実に美味い風だな! おかげで元気が出てきたぞ、ハッハッハ」

「な、なんなんだお前は……」

 きびきびと歩き出したゲオルグを不気味に思いつつも、兵士は連行を続けた。

 ゲオルグは天を仰ぎつつ胸を張って歩く。昼を過ぎたのか、太陽はやや傾き始めていた。

 太陽の位置から自分が捕まえられた城門は南に、牢屋のあった塔は南東の方角にあると割り出すゲオルグ。西に見えるもう一つの城門の先には、なだらかな地形を上手く利用した城下町が見える。そこから何本もの道が平野に向かって伸びていた。

「こっちだ」

 兵士が指したのはコの字型の館の入り口である。高く巨大な塔も併設されていた。

 ゲオルグは指示通りに館の中へと足を踏み入れる。

「ほう、随分と広いじゃないか」

 そこは二階まで大きな吹き抜けを取った大広間だった。天井を見れば覆い尽くすように神話をモチーフにした絵が描かれている。じっくり鑑賞をしたかったが、後ろから槍で小突かれたので前へと進んだ。目の前に伸びる中央階段を昇ると、巨大な扉の前に出る。

「そこで止まれ」

 兵士がその扉を軋ませつつ開けた。部屋の中央には縫い目のなく真っ赤で美しい絨毯が伸び、それに沿って槍を持った兵士達が整列している。

 そして、絨毯の先には立派な椅子に座った女が一人と、その横にもう一人の女が立っていた。

「さあ、入れ!」

 扉を開けた兵士は言い残し、ゲオルグを中へと入れると再び扉を閉めた。

 両脇に立つ兵士の冷ややかな視線は無視して、ズンズンと赤い絨毯の上を歩いていく。ゲオルグは正面にいる女二人に向かって進み、適当なところで立ち止まると仁王立ちになった。

「偉そうにしているところを見ると、城主か何かか?」

 彼女達が答える前に、ゲオルグは兵士に槍の柄で音が鳴るほど強く殴られて膝を着く。


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