馬入手
「まずいな、余っている馬はいないのか……?」
馬屋の中をうろうろしていたその時、聞き覚えのある馬のいななきを耳にした。
「シェルバ! おおーっ、無事だったかぁ!」
一頭残った黒毛のその馬は、ゲオルグがこの城まで乗ってきた愛馬だった。首を上下左右へ嬉しそうに振るので、ゲオルグは腹を優しくなでる。
「お前がいれば百人力だ! 少し待ってろ!」
手綱と鞍を探して周囲を回っていると、一人の老人がいることに気が付いた。
「ご老人、手綱と鞍を知らないか?」
「お前さん、ひょっとしてゲオルグっちゅう者かね?」
「そうだ。あの黒毛の馬に乗って、騎馬試合に出たいんだ」
しかし、老人は首を横に振る。
「残念だけどなぁ、言いつけであの馬は出せんでな。でも、代わりの馬はいるでな」
ゲオルグは別の馬を紹介されたが、年老いた馬だったので落胆した。
「シェルバに乗れないのは仕方ないとしてもだ、こんなくたびれた馬ではダメだ!」
「でも、他に出せる馬はもうおらんでなぁ……」
「困る! もっと若くて元気が良くて、それでいて尻の美しい奴でなければ!」
老人は頭をかきながら答える。
「そういうロバなら、おるでな」
「ロバ? 何でもいい。見せてくれ」
馬屋の更に奥の奥まで連れられて行くと、頑丈な扉があった。老人がそれを開けると、一頭のロバが座っている。ゲオルグが屈んで目線を合わせると、鋭く睨み返して来た。
「おお……ロバにしては勿体ないほどの気迫があるな……」
「そのパリカールはな、他の馬と一緒にするとみーんな蹴っ飛ばしてしまうでな」
「馬の中に、たった一頭だけいるロバか。まさに俺と似た境遇だな」
パリカールはゆっくりとゲオルグに近付いてきた。老人が慌てて棒を構える。
「気をつけろぉ! 蹴り殺す気かもしれんでな!」
「そんな事はしない。なあ、パリカール?」
言葉通り、パリカールは穏やかな目で頭を垂れた。
「なかなか物分りのいい奴だ。尻も美しい」
「ほえー、驚いた。わしにすら懐かんと言うに……」
「同じはぐれ者同士だ。気に入った。こいつを借りるぞ」
手綱と鞍を付けると、ゲオルグはパリカールにひらりと跨る。




