敗走
「ノックぐらいしてよ!」
「いえ、開いておりました。声も外まで聞こえていたものですから……あっ、ゲオルグ!」
テレーズは椅子でぐったりしているゲオルグを抱き起こした。
「かわいそうに……」
縄を解くテレーズの手を、ソフィーティアが上から叩いて制した。
「ちょっと、私の配下に何で勝手な事するわけ?」
「配下を縄で縛るのは、主君のすべき事ではないと思いますが」
「違うわ! 昨日の話をしてるのよ!」
テレーズは扇子で口元を隠した。
「ただ、紅茶を出して話をしていただけですが……?」
「とてもそういう風には見えなかったわよ! まったく信じらんないわ!」
テレーズはおろおろしているゲオルグに視線を移した。
「ゲオルグ、私の配下になりませんか?」
「お、俺が? テレーズの?」
その視線の先にソフィーティアが割り込んだ。
「それがいけないのよ! テレーズはすぐそうやって人の物を取ろうとする!」
「ですが、ゴミムシとしか評価されない環境では彼も満足に動けません……」
「あ、あれは言葉のあやよ! 本心じゃないんだからね!」
ソフィーティアはくるりと向き直り、困惑しているゲオルグに尋ねる。
「ねえ、ゲオルグはどっちの配下が良いの?」
「お、俺に決定権はないが、信用がないのは困る……」
背後からテレーズが勝ち誇ったように笑い声をもらした。
「決まりのようですわね」
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ! 待ちなさいってば!」
若干の沈黙の後、ソフィーティアは蚊の鳴くような小さな声でゲオルグに言った。
「ちょっとくらいはゲオルグの事、し、信用してあげてもいいわよ……」
「そ、それでもちょっとだけなのか……」
テレーズが素早くゲオルグの縄を解くと、椅子から立たせた。
「今日からよろしく、ゲオルグ」
「ストーーーーーップ!」
ソフィーティアが叫びながらゲオルグを思い切り突き飛ばし、テレーズから遠ざけた。
「テレーズだって処刑するとか言ってたし、信用できていないでしょ!」
「あれは私の判断の誤りでした……今では心から信用しています」
ソフィーティアは歯ぎしりをして答える。
「わかったわ! 心からゲオルグを信用するわ! これでいいんでしょ!? 文句ある!?」
「山のようにあります」
「何ですってーーーーーーっ!?」
ソフィーティアがテレーズに掴みかかると、テレーズもそれに応戦し始めた。ゲオルグはもみくちゃになる彼女らに恐る恐る近付く。
「……なあ、結局ソフィーティアは俺を信用してくれるって事でいいのか?」
「うっさいわね! 邪魔よっ!」
気迫に気圧され、ゲオルグは逃げるように部屋を後にした。




