メッタ刺しか、火あぶりか
「強がりを言うな、強がりを……」
ブツブツ言いながら縄の跡が付いた手首を揉むゲオルグと、それを眺めるニド。
「ところでよ、縄を解いてやったんだし、さっきの続きを話してくれよ」
「そうだな。礼の代わりに話をしようか」
ゲオルグはあぐらに座りなおした。
「俺はブレシア国の都市、キブラルタルにいたんだ」
「となると、ここから南に向かって馬で十日ってところだな」
「ほう、よく知っているな」
キブラルタル。ブレシア国最大の都市にして最強の城塞都市である。豊かな海と面しており、周辺の国々との海洋貿易によって成功を収めて繁栄に至った。その美しい城と城下町が持つ歴史は古く、また昔から人の出入りが多いことから自由で開放的な都市としても知られている。
ゲオルグは思い出すようにして首都での出来事を語る。
「そこで東ベルン城の城主が病死したという話を受け、俺は新城主になるよう命令を受けたんだ。出発は今日から数えて七日ほど前だな」
「病死……病死ねえ。ふぅん」
その単語を繰り返すのが、ゲオルグは気になった。
「病死がどうかしたのか?」
「いや、ここらでは病死じゃなくてよ、騎士団長の裏切りで殺されたっていう噂が……」
「う、裏切りだと!? そんな話は聞いていないぞ!」
少なからず動揺するゲオルグ。自然と語気も強まる。
「義と愛を重んじるブレシア国に限って、そんな事があるわけないだろう!」
「だから噂だっつの! 落ち着けよ」
「そ、そうだな……単なる噂だろう、すまない」
ゲオルグは咳払いを一つ。喉の調子を整えてから話を続ける。
「道中は平和そのものだった。順調に旅は続き、予定よりも早くこの山岳地帯に辿り着いた。しかし、だ。ここからが俺も疑問なんだが、この城の手前に小さな城があったんだ」
「南から真っ直ぐ北上して来たんなら、この城の手前にある城といえば一つしかねぇよ。そっちが東ベルン城だぜ」
「今思えばそうだった。だが、俺は立ち寄らなかったんだ」
「どうして?」
当然疑問に思うニドに、ゲオルグは考えを整理しつつ答える。
「俺はな、赤い城壁の城が東ベルン城だという説明を受けていたんだ」
「そうだな。東ベルン城は昔から赤い城壁だぜ」
「ところが俺が見たあの城は、白い城壁だった……」
「白、だって?」
口にして、ニドは黙る。ゲオルグと同様に疑問に思うしかなかった。
ゲオルグは続ける。
「そして、ここには睨み合う様に敵対するゼラ国の城があることも聞いていたんだ。それがこの西ベルン城だった。そしてこの西ベルン城の城壁は――」
「赤、だぜ」
付け加えるようにニドが言い、ゲオルグは話をまとめる。
「そうだ。だから俺はこの城に来たんだ。間違えたつもりはない」
「へーえ。世の中、不思議な出来事もあるもんだなぁ」
「ひ、一言で片付けるんじゃない! その不思議な出来事のせいで俺は捕まったんだぞ!」
「だははははっ! だっせぇ!」
ゲオルグは乱暴に横に寝そべった。機嫌の悪さはもはや限界である。
それを察して、ニドが声の高さを上げて明るく振舞う。
「お前が新城主っていうのはまだ信じらんねえけど、その話は中々面白いな」
「まだ信じていないのか!」
「他人の言う事をポンポン信用してたら、盗賊やってらんねぇよ。お前も気をつけな」
「もういい。俺は寝る」
自分に対して背中を向けるゲオルグに、ニドはボソっと囁いた。
「そのまま寝ても良いのか? お前が本当に城主なら、明日には殺されるぜ?」
「な、なんだと!?」
ゲオルグは飛び起きた。
「どうして俺が殺されるんだ!」
「だって、敵国の城主なんだろ? 俺だったら殺すぜ」
「く……」
焦燥感に駆られ、冷や汗が頬を伝っていく。ゲオルグは今後どうなっていくか想像もできなかった。最悪の場合ニドの言う通りになるかもしれないと思い始める。
不安に駆られる中でニドが言う。
「せっかく縄を解いてやったんだ、ここから逃げ出したらどうだ?」
しかし、ゲオルグは再び寝そべった。
「俺は逃げない。お前のような盗賊と違って、誇り高き騎士だからな」
そうキッパリと答えられてはニドとしても面白くなかったので、
「剣でメッタ刺しかな? それとも火あぶりの刑かな?」
「や、やめろ! 怖いだろーっ!」




