夜が明けて
東ベルンから日が昇り、メルメトの大地に朝が訪れた。朝霧は徐々に晴れ、雲は山肌に影を落とす。今日も快晴である。
その上天気とは裏腹に、ゲオルグの心は土砂降りの雨だった。睡眠はどうにかとったはずだったが、眠っていたのではなく意識を失っていたらしい。疲れは取れず、頭痛と疲労感が重くのしかかってくる。
加えて自分は今いる塔の最上階、つまりソフィーティアの部屋へ向かっている途中だという事がさらに気分を重くする。階段を上る足取りは鉛のように重かった。ため息だけが無尽蔵に出てくる。
やがて最上階に着いた。扉の奥には西ベルンの城主にして今の自分の主君がいる。
「……」
半ば諦めた気持ちで扉を叩くと、返事は来なかったが扉がわずかに開かれた。その開いた隙間からにゅうっと手が伸びてきたかと思うと、ゲオルグの襟首をつかむ。
「うっ!?」
ゲオルグはそのまま部屋に引きずり込まれた。手の主はもちろんソフィーティアだ。無表情でゲオルグを椅子に誘導し、座らせる。
「……」
「ソフィーティア、お、おはよう」
「……」
返事はなかったが、かわりに平手打ちが飛んで来た。さらに縄で椅子に縛られる。
「心配する私をほっといてテレーズとイチャイチャしてたのね……?」
ゲオルグは先制攻撃を受けて早くも胃が痛くなってきた。
「い、いや、あれはまさにソフィーティアの部屋へ向かうところだったんだ!」
途端にソフィーティアの眉間のしわが深くなる。ゲオルグの両肩をつかんだ。
「どう考えても嘘よ! 体中からバラの香りまでさせちゃってさ! 頭に来るわ!」
ソフィーティアの指が両肩にめり込み始め、ゲオルグを激痛が襲う。
「痛い痛ぁい! うぁあっ!」
「私の事なんてどうでもいいんでしょっ!」
「そんな事ないっ! ないんだぁーっ!」
肩から手を離したが、冷たい視線はそのままだった。
ゲオルグは肩の痛みをこらえつつ尋ねる。
「ソフィーティアは、俺の事を信用してくれないのか?」
「…………なんでそんな事を聞くわけ?」
「聞いておかないと不安なんだ……答えてくれ」
少しの沈黙の後、そっぽを向いて答えた。
「わ、私がゲオルグの事をどう思っていようが関係ないでしょ!」
「それでは困る……俺を信用したから配下にしてくれたんだろう? 違うか?」
再びソフィーティアが怒鳴る。
「う、うるさいわね! 急に何でそんな話するのよ!」
「今聞くべきだと思ったんだ」
ゲオルグが譲らないと判断したソフィーティアは、きっぱりと答えた。
「主君の私をほったらかしにするんだもの、全然信用できないわバカ! ゴミムシ!」
「そ、そ、そんな……」
一気に力が抜け、ゲオルグの首はぐにゃりと斜めに傾いた。体も一緒に折れ曲がり、背もたれに体重を預ける。
ソフィーティアは不機嫌そうに腕組みをしたその時、扉が開く音。出て来たのはテレーズだった。ソフィーティアの顔が一気に険しくなった。




