暗躍
真夜中の西ベルン城。黒いローブを纏った影は再び現れた。誰にも気付かれず、そして誰にも知られずにバルガの部屋へと辿り着く。
「クロードです」
扉が静かに開かれた。バルガが中から伺い見るように辺りの様子を確認すると、素早くクロードを招き入れた。
「クロード、わしはお前を呼んだ覚えはないぞ」
「私の方からバルガに話があるのです……」
「……座れ」
バルガは乱暴に椅子へと腰掛ける。ロウソクの炎は揺らめき、クロードの黒い瞳を照らした。
「さて、ゲオルグの件はどうなっているのです?」
その名前を聞いてバルガは苛立つ。舌打ちをし、握り拳でテーブルを叩いた。
「またそれか! 奴は必ず始末すると言っているだろうが!」
「ですから、それを早く行ってもらいたいのですが……?」
クロードは眉を持ち上げ、バルガに疑いの視線を送る。
「このままでは私達の間の信頼関係にひびが入りそうです。それはできれば避けたい……」
「わ、わしを疑うのか!?」
「結果を出してもらわないことには……謝礼金も払えません」
バルガは淡々と、そして落ち着いた口調で話した。
「日が昇ってから、公の場で息の根を止める予定だ。そのための準備もしてある」
「……わかりました。信じましょう」
「用事はそれだけか? 済んだのならとっとと帰れ」
あごで扉を指してバルガは帰るように促すが、クロードは深く座りなおした。
「いえ、実はもう一つ……」
クロードはバルガの瞳を覗きこむ。
「近頃、見慣れないような赤い小太刀を見かけてはいませんか?」
「そんなもの、武器庫に山ほど……いや、待て」
額に指を当てながら、バルガは記憶を辿る。
「そういえば、あの小娘がいつの間にか持ち歩くようになっていたな……」
クロードの目つきが鋭くなった。
「小娘、というとここの城主ですか。それは間違いのない事実ですか?」
「うむ。大事そうに懐へ仕舞い込んでいるようだが……それがどうしたのだ?」
「いえ……これで失礼します……」
クロードはそれだけを言うと、足早に部屋から立ち去った。
「気味の悪い奴め……まあいい。ゲオルグさえ殺せば大金が手に入るのだ」
バルガはロウソクの炎を吹き消した。




