生還?
「ほ、ほら誰か来るぞテレーズ! 敵かもしれない!」
「それは怖いですわ……では、このテレーズを守る騎士になってください……」
譲る気配のないテレーズ。後ろから回した手は、振りほどけない程に強くゲオルグを縛っている。
「テレーズ! テ、テレーズ!」
聞こえている様子はなかった。背中に顔を埋めているのか、吐息の温もりがしっとりと伝わってくる。
やがて足音は部屋の前で止まった。ノックが三回鳴る。ゲオルグは返事をできなかった。テレーズも返事をしなかった。窓から急な風が吹き込み、それがロウソクの火を消す。
ゲオルグは心の底から扉が開いて欲しくないと思った。神に祈りもした。
がちゃり。
無駄だった。
「――え?」
声を漏らしたソフィーティアと目が合う。向こうも驚いている様子だったが、自分なりに状況を把握したらしかった。
ゲオルグの顔面を鷲づかみにすると、そのまま握り締めていく。
「いだでゅあっ!? うぎょおおおお!」
自分でも良く分からない奇声を発すると、どうにか攻撃から解放された。
「ソ、ソフィーティ――いぇんあっ!」
左頬に平手打ちが炸裂し、ゲオルグの身体は首を軸に回転しながら吹っ飛び、衣装棚にぶつかった。額がパックリ裂けて何か暖かな液体が流れ出したが、そんなことよりも部屋から転がるようにして逃げ出す事を優先させる。立ち上がり、廊下を風よりも速く走り抜け、ロバートのいる相部屋へと駆け込む。ゲオルグは鍵を掛けるとその場に座り込んだ。
その尋常ではない様子をロバートが驚いた顔で見る。
「し、少年! どうした!? 何があった!?」
「はぁ、はぁ、げほっ! はぁ、はぁ!」
ゲオルグがまともに会話できない状態である事をロバートが察した。火を起こし、ロウソクに明かりを灯す。
「うっ、額から出血が……顔色も青白いというか緑色というか……」
ゲオルグは身振り手振りで、今は安全な状況である事だけをどうにか説明した。
「とりあえず大丈夫なのだな? それならいいが……」
ロバートは包帯をゲオルグの額に当てる。表面の皮が裂けただけだったのか、傷は浅いようだった。
ゲオルグは這いずるようにベッドへと自分の潜り込み、上から布団を被った。
「俺はもうダメかもしれない……」
「し、少年! 何だその気になる一言は! 本当に大丈夫か!?」
心配したロバートが色々と尋ねたが、ゲオルグは答える気力もなく、ただただ眠れない一夜を過ごすのだった。




